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第27話 女王様襲来

 どうしてこうなった?


 目の前には殺気に満ちた美人が立っている。彼女こそ姫ヶ咲学園の誇る最強の姫であり、それと同時に生徒会長様でもある氷川亜里沙だ。


 現在位置は校舎裏。


 周囲には誰もおらず、俺は壁際に追い詰められていた。


「ここに連れて来られた理由はわかっているでしょう?」


 ゾッとするような目で睨みつけられながら問われた。


 ここで新発見だが、相手が超絶美人でも睨まれると非常に怖い。むしろ逆だな。端整な顔立ちだからこそ余計に怖さがある。


「いや、全く身に覚えが――」


 ドン、と氷川の手が俺の背後の壁を叩いた。壁ドンされた状態になり、俺はまた軽く震えた。

 

「言葉には気を付けなさい。あなたは黙ってわたくしの質問に答えればいいの。でなければ待っているのは破滅よ?」


 極寒の吹雪みたいな冷たい声だ。


「洗いざらい喋ったら生かして帰してあげるわ。まあ、内容によっては五体満足では済まないでしょうけどね。というより、五体満足で帰れる可能性は絶無といっても過言ではないでしょう」


 どこまでも冷たい言葉に体がカタカタと震える。


 何故、こんな絶望的状況になってしまったのだろう。


 ◇ 


 時間を少し巻き戻す。


 その日は十月初日だった。


 我がクラスでは一か月に一度の席替えが行われた。久しぶりの大型イベントにクラスメイトのテンションは高い。


 男子の狙いは我がクラスの姫である風の妖精だ。誰もが風間幸奈の隣をゲットしようと鼻息を荒くしている。


 いよいよ風間ともお別れか。


 ここまで風間とは普通の友人関係を続けていた。予想外だったのは風間の攻撃の手が緩かったことだ。隣の席の男子を惚れさせる遊びをしている妖精様は俺に飽きてしまったのか、攻撃の手がここ最近は明らかに緩かった。


 理由はさっぱりわからない。確かなのはこの席替えで風間ともお別れってことだけだ。


 正直いえば隣の席にいる間に状況を進展させたかったが、それが出来なかったのは俺のレベル不足だろう。

 

 自分の不甲斐なさを嘆いていたが、席替えの結果は予想外のものになった。


「また隣だね。よろしく、神原君」


 俺の隣はまたしても風間だった。


 連続して姫の隣となった俺に対してあちこちから怨嗟の声が漏れ聞こえるが、知ったこっちゃない。


「よろしく」

「連続で隣の席とか運命だよね」

「……ただの運だろ」


 クラスの席替えはくじ引きで決定する。同じ人が隣になる可能性も全然ある。実際、今回の席替えでも俺と風間のように連続して同じ人が隣になった奴もいる。


「運じゃないよ」

「どういうことだ?」

「実は席を交換したんだ」


 そう言って風間は引いたくじの紙を出した。


 いや、交換したなら運命ではないだろ。


「席の交換は禁止されてるぞ」

「黒板が見えないって言ったら許可してくれたよ。私が引いたところ一番後ろだったし」


 席の交換は禁止だが、唯一認められるのが黒板が見えないという事態に陥った場合だ。風間の視力は知らないが、一番後ろならば納得だ。


「でもさ、神原君ってあんまり人気ないんだね。この席だった子にお願いしたらあっさり交換してくれたよ」

「……うるせえ」

「まっ、山田君が隣だから彼女からしたら幸運だろうけど」


 山田君といえばイケメンで有名だ。かつて風間に告白して失恋した経験を持つ。


 風間からすれば攻略済みの相手だから狙う必要もないってわけだ。それでまだ未攻略な俺の隣に来たのか。


 あるいは最初からまた俺の隣を狙うつもりだったのか。


「神原君とは長期戦って決めてるから」

「っ」


 その気もない癖に思わせぶりな奴め。


 再び風間と隣の席になったわけだが、イベントといえばそれくらいで平和な時間が流れた。授業を淡々と消化し、昼はいつものように空き教室で食べた。

 

 しかし、悲劇は突然訪れた。


 放課後になり、俺は帰ろうとカバンに手を掛けた時だった。


「失礼するわ」


 凛とした声が響いた。


 教室に入ってきたのは氷の女王の二つ名を持つ氷川亜里沙だった。突然の登場に教室内は軽くざわついた。


「えっ、女王様?」

「どうしてここに」

「マジかよ」


 ざわついた教室内だったが、女王様の視線がそちらに向くとざわめきが静寂に変化した。相変わらず圧倒的な存在感と威圧感だ。


 女王様は教室内をぐるりと見回すと、目的の生徒を発見したらしくゆっくりと歩き出した。


 女王様の邪魔はできないとクラスメイトが道を譲る。教室の中央にぽっかり出来た道を歩くその姿は、偉大なる女王陛下だ。


 ただ、俺はその様子を見ながら冷や汗をかいていた。何故なら女王様がこちらに近づいて来たから。

 

 そして、俺の前で止まる。


「あなたが神原佑真君ね」

「は、はい、そうですけど」


 返事を確認した氷川はまじまじと俺を見つめる。値踏みするように上から下までチェックした後で、大きくため息を吐いた。


 そのため息は何だよ。

 

「用事があるの。校舎裏に来なさい」


 底冷えするような声だった。


「ふぇ!?」


 絶対悪い意味での呼び出しだと理解し、変な声が出た。


「変な声出してないで、さっさと立ちなさい。行くわよ」

「ま、待ってくれっ」

「待たないわ。それとも、あなたはわたくしの呼び出しを拒否するつもり?」


 拒否権はないらしい。


 俺は囚人よろしく女王様の後ろを歩いた。一瞬だけ逃げようと思ったが、逃げたら明日以降が地獄になるので諦めた。


 助けを求めて風間を見たが、あいつは苦笑いしつつ目を逸らしやがった。


 さっきまで俺に対して羨ましそうな視線を送っていたクラスメイトも我関せずとばかりに顔を背けている。


 廊下に出て、とぼとぼと歩く。


「あっ、神原君――」

 

 連行されている途中、不知火が声を掛けてきた。しかし俺が女王様に連行されているのがわかると何も言わず離れていった。


 助けてくれたっていいだろ。


 不知火の隣にいた土屋はずっとニコニコしていた。その笑顔は普段よりも邪悪な気がして、まるで「ざまあみろ」と言っているように見えた。恐らくは気のせいだろうけど。


 そして、校舎の裏に連行された。 


 ここで冒頭に戻る。


「ま、待ってくれっ。呼び出された理由がホントにわからないんだ!」


 心当たりが全くない。氷川とケンカはしていないし、彼女の悪口を言った覚えもない。

 

 氷川は深く息を吐いた。


「しらばっくれるのね」

「そうじゃない。マジで連れて来られた理由がわからないんだ――」

「とぼけるのはやめなさい!」


 氷川が激昂した。怒りの表情が怖くて俺の口から「ひぇ」と再び情けない声が漏れる。


「昨日、あなたはわたくしの可愛い天使と楽しそうに喋っていたでしょ。その現場をしっかりとこの目で見たの」

「……天使?」

「当然、花音ちゃんのことよ」


 花音の名前が出たことでようやく状況を一つ理解した。どうやら俺がここに連行された理由はそれらしい。昨日の放課後、確かに花音と出会った。


 えっ、でもそれがどうした?


「まだ理解していないみたいね。いいわ、猿以下の知能しかないあなたでも理解できるように言ってあげる。わたくしの天使に近づく男は誰であっても許さないわ」


 頭の隅っこにあったとある仮説が確信に変わった。


 どうやら氷の女王様はシスコンらしい。

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