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【書籍化】学園の姫攻略始めたら修羅場になってた件  作者: かわいさん
第1章

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閑話 姫君の独り言

「……ネトゲの旦那が学校の先輩だった件」


 パソコンの電源を落とし、部屋の中でライトノベルのタイトルみたいな言葉をつぶやいた。


 でも、これは紛れもない現実。花音も最初は信じられなかったけど、状況的にも間違いないはず。


 運命の出会い。妄想が現実になった。


 自分で言うのはおかしいけど、花音はちやほやされて育ってきた。


 裕福な家庭で両親に甘やかされ、お姉ちゃんに溺愛された。花音としても家族は大好きなので困らないけど、問題がないわけじゃなかった。


 それが人間関係。

 

 花音の近くには常にお姉ちゃんがいた。勉強もスポーツも万能で、人を束ねる能力にも秀でた何でも出来る自慢の姉。とっても優しくて、頼りになる最高の姉。そして、花音以外には興味を示さない姉。


 昔からそうだった。お姉ちゃんは花音以外には氷のような対応で、冷たい視線と言葉で相手を追いやる。


 お姉ちゃんが近くにいると周りに誰も近づいて来なかった。


 逆にお姉ちゃんが近くにいない時は他の人が一斉に押し寄せてきた。いきなり大勢に喋りかけられて花音はいつも困っていた。


 それが何年も続いた影響かはわからないけど、花音は家族以外と上手くお喋りできなくなっていた。家族以外と喋る時は変に緊張して、上手く言葉が出なかった。いつしかお姉ちゃんと同じタイプだと勘違いされ、誰も喋りかけて来なくなった。


 でも、別に良かった。


 花音には中学時代からプレイしているネトゲに旦那がいたから。


 最初は暇つぶしのつもりだった。動画サイトで宣伝が出てきたからプレイした。口下手な花音でも誰かと仲良くなれるかも、と触ってみた。


 花音が選択したのは金髪で胸が大きいエルフ。名前はノンノン。


 いつかこうなりたいと憧れてはいるけど、残念ながら成長は止まりつつある。お姉ちゃんもお母さんも胸が小さいので将来的に期待できない。金髪のほうも家族が絶対に許してくれない。

 

 ノンノンには旦那がいる。それが”ヴァルハラ”という名前の戦士。


 気が合ったのですぐに仲良くなり、気付くと特殊なスキル目的で結婚していた。最初はゲーム内の結婚だからと何も考えなかった。


 でも、結婚してから徐々に惹かれていった。旦那はいつも頼もしくて、花音と楽しくチャットしてくれる。いつしか旦那とゲーム内でいちゃいちゃするのが一番の楽しみになっていた。


 ……これが恋?


 もし実際に出会ったらどうなるのか、みたいな妄想は何度もした。

 

 でも、愛するダーリンからの裏切りは突然だった。


『リアルで女子を攻略することになったんだ。ノンノンに相談に乗ってほしい。出来ればアドバイスしてほしいんだ』


 突然の浮気宣言。


 画面の中では金髪エルフのノンノンがダーリンに攻撃していた。自分でもビックリしたけど、現実世界の花音も机を何度も叩いていた。


 話を聞けば妹のせいでこうなったという。


 ここで駄々をこねたら重い女って思われて嫌われるかもしれない。だから花音は考えた。ここは実際にチャレンジしてもらって、その上で失敗させようと。


 どうせなら嫌われてしまえばいい。ダーリンは女性経験がないと言っていたので上手く騙して絶対嫌われるような対応をさせよう。その後で優しく慰めればダーリンも二度と浮気しないはずだ。


『女の子はサプライズが大好きな生き物だから、まずはインパクトが大事。そのための手段を伝授するから、ダーリンは必ず言われた通りにするべし』

 

 恋愛とか全然知らないけど、経験豊富っぽくそう言った。


『なるほどな』


 ダーリンが信じてるのを確認してから文字を打つ。少しだけ考えて出てきた絶対に嫌われる誘い方は『おはよう、子猫ちゃん』だった。


『なにそれ?』

『女の子を落とす魔法の言葉。この挨拶をその女の子にすると上手くいくよ』

『……マジか?』

『大マジ。ノンノンの言葉を信じるのです』

 

 嘘だ。そんなの言われて喜ぶ女の子はいない。


 世の中にはいるかもしれないけど、特殊な子だ。少なくとも花音が初対面でこんなこと言われたらドン引きする。絶対に近づきたくない。


 でも、もし上手く行ったら?


『インパクトある挨拶で相手が混乱してるところでお昼に誘うの。これで相手はイチコロだから。あっ、ここでポイントだけどもし上手く誘い出せたら二人きりは絶対ダメだから。絶対に他の人も誘うべし。二人きりだと警戒されちゃうから』


 一応、保険はかけておこう。二人きりになって良い雰囲気になるのは絶対阻止。花音がいながら他の子に声を掛ける浮気者とか嫌われちゃえ。


 我ながら見事なアドバイスをして、その日は気分が悪いまま眠った。


 そして、次の日の朝。


 教室に上級生の男子が入ってきた。教室内がざわつく中、その先輩はとことこ花音の元にやってきた。


 告白かな?


 入学してから何度も告白されている。一学期の終わりに姫に選ばれると、その数はさらに増加していった。お姉ちゃんが一緒だと近づいて来ないくせに、小心者ばかりで嫌になる。


 誰の告白も受ける気がない。

 

 今の花音にはダーリンがいる。誰に告白されたところで心には響かない。相手が先輩なのは救いだ。同級生だと何度も顔を合わせるので気まずい。


 顔を向けずに無視していればどっかに行ってくれ――


「おはよう、子猫ちゃん」

「っ!?」


 我慢できず振り向いた。


 立っていたのは普通の人だった。顔は普通くらいで、中肉中背でこれといった特徴はない。制服も気崩していないし、真面目な人に見えた。この痛すぎる台詞を吐くタイプには見えない。

 

 花音はそこで昨日のチャットを思い出した。


 ……ダーリン?


 以前に聞いたダーリンの容姿は平凡で、これといった特徴がないと言っていた。目の前にいる先輩はまさにそれで、平々凡々な人に見えた。


「ちょっと、お兄ちゃん?」


 花音が驚いていると、声の主が先輩を引っ張っていった。


 クラスメイトの女の子で、名前は神原彩音さん。


 花音から見ても可愛らしい子で、小さいって言われる花音よりも小さい女の子。小動物みたいで、実は前からお喋りしたいと思っていた。


 ここで改めてダーリンの情報を頭に浮かべる。


 高校二年生で、同じ学校に妹が通っている。妹との話し合いで下級生の女子生徒を口説くことになった。


 あれ?


 口説く下級生の女子って花音じゃない。


「良かったら昼飯でもどうかな?」

「…………」

「さすがに二人きりだと問題もあるだろう。だから、ここにいる妹の彩音も一緒にどうだろう」


 間違いない。誘い方も昨日教えた通りだ。


 花音の人生に最大のチャンスが到来した。


 口下手な花音はどうしていいのか困ったが、このチャンスは逃せない。ひとまず親指を立てた。


「……ウェルカム」


 その後、花音たちは三人で食事した。


 我ながらファインプレーだったのは他の人を誘えとアドバイスした点だった。口下手な花音と違って、神原彩音ちゃんは凄かった。上手くフォローしてくれたおかげで楽しい時間が過ごせた。


「素敵な時間だったな」

 

 さて、感動するのはここまでだ。


 身近にダーリンが居たのは飛び上がるほどうれしいけど、問題もある。それも三つほど。


 一つ目の問題はノンノンの設定だ。ノンノンは経験豊富なギャルという設定にしちゃった。正直、出会った時は結婚するとか思わなかったから適当な設定にした。今では凄く後悔している。中身が全然違うけどそれを受け入れてくれるのかわからない。


 一か八か言ってみる?


 ダメ、ビックリさせちゃうかもしれない。


 いきなり夫婦とか言い出したら変な人に思われちゃう。今のダーリンは妹に言われて仕方なく花音と接触している状態だ。


 二つ目の問題はダーリンの妹である彩音ちゃんが満足したから口説かなくていいみたいなことを言っていたという点。そこは是非とも口説いてほしい。


 三つ目の問題はお姉ちゃんの存在だ。気付かれたら絶対に妨害される。


「……どうにかしないと」


 ◇


 ここは迅速かつ慎重に事を運ぶべし。


 一緒に食事をした翌日の朝、登校した花音は迷わずある席に向かった。


「神原さん」

「なにかな、氷川さん」

「き、昨日はありがと。その……良かったら、友達になりたい」

「えっ」


 妹と仲良くなり、家に遊びに行く。


 これで自然にダーリンの家に行ける。仲良し兄妹なのでダーリンと遊ぶ機会も増えるはずだ。後は花音の良さを教えてあげて、タイミングを見計らって正体を教えてあげる。これが最善の方法。


 この方法で素敵なポイントはお姉ちゃんにバレても彩音ちゃんが目的だと言える点にある。花音が寝る間も惜しんで考えた作戦。

 

 生まれて初めて自分から友達になりたいと言った。

 

 断られるのが怖かった。でも、逃げるわけにはいかない。相手はいずれ義妹になる人だから。


「ホント!? 実はあたしのほうから言おうと思ってたんだ!」

「……うれしい」


 もしかしたら社交辞令かもしれないけど、そう言ってもらえて自分でも驚くほど気持ちが高揚していた。


 花音たちは握手した。


「これからは名前で呼んでもいいかな?」

「うん。こっちもそうする」

「これからよろしくね。花音ちゃん」

「……こちらこそ。彩音ちゃん」


 将を射んとする者はまず馬を射よ。

 

 ダーリンは見たところモテる人じゃない。他の女に盗られる心配は少ないはず。だからここは、焦らずゆっくりと攻略していく。特にお姉ちゃんには絶対バレないようにしないとね。

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