第24話 ネトゲの嫁は頼りになる
氷川花音との昼食が終わった日の夜。
俺は嫁に感謝を伝えるためにゲームに繋いでいた。今回の一件が上手くいったのはすべて頼りになる嫁のおかげだ。
ノンノンが来る前に準備を整える。感謝の気持ちを伝えるためにサプライズでプレゼントを贈る予定だ。
しばらくして、ノンノンがログインしてきた。軽く挨拶をすると、家で合流した。
『どうだった?』
結果が気になったらしく、挨拶もそこそこに切り出してきた。
『ばっちりだったぜ。ノンノンの言う通りにしたら上手くいった。一緒に昼飯を食ったし、色々とお喋りしてきた』
俺は今日の出来事を報告した。
協力してもらった以上は顛末を話すのが礼儀だと考えたからだ。当然だが、花音の名前は伏せておいた。
報告すると、ノンノンは満足気だ。
『上手くいったみたいだね』
『ありがとな。アドバイスが役に立った。さすがに”子猫ちゃん”って言うのは恥ずかしかったけど、かなり効果的だった』
『アドバイスした甲斐があったよ』
得意気なノンノンは上機嫌を意味するエモートを出した。俺は自分のキャラを立ち上がらせると、嫁の頭をポンポンする。
『ねっ、ノンノンの言う通りだったでしょ?』
『本当にな。実はちょっと疑ってしまった。申し訳ない』
『疑うなんて酷いなぁ。ノンノンを信じれば全部上手くいくって言ったのに。そこさえなければ満点だったのに』
惜しくも満点は逃してしまった。反省すべき点だろう。
『それで、目的の子に会った感想を聞きたいな。相手の子はどうだった?』
嫌な質問が来た。
どうするか。ネトゲの中といえ相手は嫁だ。花音を可愛いと褒め称えるのはかなりまずい気がする。浮気者と罵られても反論はできない。実際、昨日は浮気者と罵倒されたわけだし。
とはいえ、嫁相手に嘘も吐きたくない。
『素直に言っていいよ。絶対怒らないから』
『ホントに?』
『ノンノンは嘘吐かないっていつも言ってるじゃん。ここは正確に教えてほしいかな。特徴とか、雰囲気とか、実際に話した感想とか全部。それを正直に言うのが半分浮気したダーリンが見せる誠意じゃないのかな』
確かにそれが誠意だな。一方的に浮気みたいなことをしておいて、おまけにアドバイスを貰っておいて報告が適当とか最低だよな。
よし、素直に言おう。
『相手は可愛かったな。顔立ちは整ってたし、立ち振る舞いも美しい感じだった。ざっくりいえば美少女でお嬢様って感じかな』
チャットを打った後、しばし空白の時間があった。
『……性格は?』
『まだよくわからなかった。ノンノンと違ってお喋りが好きじゃないみたいで、物静かだったからさ』
あえて友達が少なそうとかマイナス面の話をするべきじゃないだろうな。
『ダーリンはお喋りのほうがいいの?』
『どうだろうな。お喋りな人が特別好きとか嫌いとかはないかな。個人的には反応してもらえればそれでいいよ。後は趣味の話とかして引かないとか』
『確かダーリンの趣味ってアニメとゲーム、それからVtuberだっけ?』
『我ながら全然モテなさそうな趣味だよな』
そう返すと再び沈黙。
あれ、どうした?
俺の趣味に関しては昔から言っていたし、今さらオタクだから嫌悪しているとは考えられないが。ならば、やはり浮気に怒っているのだろうか。
不安になったが、ノンノンはグッジョブのエモートを出した。
『ダーリンはそのままで大丈夫だよ。掴みは完璧だから、その調子で頑張って口説いちゃってよ』
『えっ、頑張っていいのか?』
『えっ、頑張らないの?』
疑問を疑問で返されてしまった。
『いやほら、昨日は浮気者とか言ってキレてただろ』
昨日と違いすぎるだろ。ブチ切れすぎて俺を見放したのか?
全然ありえる。浮気した俺を見限ってしまったのかもしれない。捨てられると思った俺は焦ってチャットを打つ。
『ゴメン、俺が無神経だった。俺の嫁はノンノンだ。浮気みたいな事態になってるのは事実だけど、俺の一番はノンノンだから』
必死に弁明した。
『ありがと。けど、ダーリンには頑張ってほしいんだ。妹さんとは相手を口説くまでが約束でしょ。今後もアドバイスは継続してあげるから安心して』
『……今後か』
『続きはないの?』
今後については難しいところだ。接点が出来たとはいえ、非常に薄い。そもそも氷川花音の目的が愚妹との友情だと判明したからな。
それに、別の問題も発生している。
『実は微妙でな。妹が満足したみたいなんだ』
あの昼食の後から彩音の様子がおかしくなった。家に着くなり、今回の攻略に関してストップするように言ってきた。
無理やり一緒に食事させたことが不満で何かしらのアクションを起こすかもと身構えたが、そういうわけでもなさそうだ。
『今後も絶対続けるべきだよ!』
『マジで言ってるのか?』
『大マジだよ。ダーリンが女の子に慣れるのは重要だと思うんだ。女の子に優しく出来ればノンノンの気持ちとかもっとわかるかもでしょ』
一理あるな。
女の子の気持ちを理解すれば嫁に優しく接せられる。ノンノンが優しいから注意されていないだけで、本当は俺に苦言を呈したい時もあったかもしれない。
嫁の優しさが身に染みる。
『浮気になる可能性だってあるけどいいのか?』
『ならないから!』
俺には攻略不可能って意味だろうか。酷い言われようだが、間違ってはいないな。
今後どうなるのか不明だが、正直俺としてはあまり積極的に関わりたい姫ではない。下級生の教室に行くのは避けたいし。
『まっ、その辺は妹と話し合ってみるよ』
『前向きに話し合ってね』
ノンノンがここまで推して来るのは謎だが、どうせ日曜日の報告で話し合う予定だ。個人的にも攻略ストップは驚いたからな。
『とにかく、ノンノンは全力で応援するから。今後も相談してきてね。いつでもアドバイスしてあげる。リアルで恋人になっても全然問題ないからね』
『馬鹿言うなよ。俺にはノンノンがいるだろ』
『もぅ、恥ずかしいこと言うんだから!』
金髪エルフが顔を赤らめた。その可愛い反応はどこか花音のようで微笑ましかった。
『そうだ、感謝の気持ちにプレゼントを買ってきたんだ。受け取ってくれ』
購入したイヤリングを渡す。
前からノンノンが欲しがっていたそれなりに高価な装備だ。この間の狩りと、倉庫にあった装備をいくつか売って購入した。
『これ欲しかった装備だ。ダーリン超好き。愛してる!』
浮気を容認したり、愛してると言ったり、ノンノンは自由だな。そういうところも魅力的だけどさ。
その後、イヤリングを装備して上機嫌なノンノンとまったりして過ごした。会話も弾み、嫁といる時間が一番だと改めて実感した。




