夢の話
ああ、懐かしい。
これは夢だな、とぼんやり宙に浮かんだ私は見下ろしていた。
私が物心ついた時には、兄は一日中図書室にいた。
会いたくなったら、図書室に向えば会うことができた。
「にいさま、ごほんよんで」
「ふむ、アンジェリーナの年齢なら絵本かな。いや、冒険譚はどうだろう」
図書室のソファで本を読んでいる兄に声をかけると、兄は嬉しそうに私に合った本を選ぼうとしてくれた。
「ちがうの。まほうじんがよみたいの」
「ええ?魔法陣?アンジェリーナには早いと思うなー。魔法の出てくるお話じゃダメかな?」
「せんせいが、アンはまほうのてんさいだからまどうぐもつくれるようになるだろうって。まどうぐは、まほうじんがよめないとだめなの」
この頃の私は、魔法の勉強を始めたばかりなのに、魔力操作や生活魔法、初級の属性魔法をあっさり覚えたことを褒められて、魔法の勉強が楽しくてしょうがなかった。
兄はなんでも知ってると思ってたから、魔術師になりたい人しか勉強しない魔法陣も、教えてくれると疑ってなかった。今考えると無茶ぶりにも程がある。
「ああーなるほど。アンジェリーナは魔導具が作りたいのか。んー、魔法陣は先生が教えてくれるまで待とうか。その前に、魔導具の素材になる物を調べよう!」
「そざい?」
「うん。魔導具は、素材がないと作れないんだぞ。そして、素材は魔法陣よりもいーっぱい勉強しないといけないんだ」
「おべんきょういっぱい?」
「魔物の種類、素材になる部位や特性、鉱石の種類、薬草の種類、お勉強することは色々あるぞ!」
「ふぁ、なんでもしってるにいさますごい」
「フッ兄様はすごいだろう?素材を自分で採りに行こうと思ったら、戦闘方法や魔物の解体、採取や採掘、外国語なんかも勉強しなきゃいけないんだぞ。だから、今日アンジェリーナが読むのはこの本だ!」
兄が差し出したのは、“冒険者の心得”だった。
冒険者ギルドで有料で貰える冊子が、なぜ図書室にあったのか。そして、なぜ兄はその冊子を選んだのか。
「ぼうけんしゃのこころえ」
「これは冒険者ギルドのことや、武器や防具、身近にある薬草の種類、よく出る魔物と解体方法、野営や森の歩き方、ダンジョンについて、簡単に書かれてる本だ!この中で気になったことがあったら、兄様がもっと詳しい本を探してやる」
「はい!きょうはこれをにいさまとよみます」
ああ…これを読んだ次の日に、先生に“冒険者になる!”って言って困らせたんだ。
結局、貴族の勉強を進める内に王宮魔術師団に就職が一番だなって考えなおしたのよね。
「ここに書いてある冒険に連れていける魔馬はうちで繁殖してるんだぞ。明日牧場に見に行ってみるか?」
「つよいおうまさんいるの?」
「いっぱいいるぞ!父上が詳しいから聞いてみよう」
「うん!」
転移魔法や飛翔魔法を覚える前は、よく魔馬に乗って出掛けたっけ。
最初は魔馬が大き過ぎて、乗れるようになるまで苦労したわ。
色々思い出してぼーっとしていたら、図書室にいる私と兄が成長した姿になっていた。
「アンジェリーナ、お前が魔法が大好きなのはわかってる。だから、兄様と約束してくれ。禁忌魔法だけは手を出すなよ」
「何言ってるの。禁忌魔法なんだから手を出しちゃいけないのよ?」
これは…学院入学前かしら?
「わかってる。でも、我が家の血筋は好きな事に貪欲だ。いつか興味を持つかもしれない」
「それはそうだけど…わかったわ!約束する!禁忌魔法には手を出しません!」
「ふぅ。魔術学院の図書館に閲覧制限のある本があるらしくてな、心配になったんだ」
「ああ、あれは本に才能を認められないと読めない本らしいわ。他にも条件付きの変な本が学院にあるって聞いたから、詳細がわかったら教えるね」
「なんだ、禁忌魔法の本じゃないのか」
「たぶん?そんな危ない本は置いてないんじゃないかな」
二人が話してる姿がだんだん遠くなって、ふっと目が覚めた。
学院の図書館に行ってみよう。
召喚魔法について、何か手掛かりが掴めるかもしれない。
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