甘やかしてるのは
アンジーが疲れてる時はすぐに分かる。
たぶん無意識なんだけど、迎えに来た時に“おいで”って少し両手を広げてくる。
いつもは私が抱き着くのを、仕方がないなって顔で受け止めるのに、その時は抱き着くと嬉しそうな顔をする。
手を繋いで歩く時も、私の手をにぎにぎと握り返してきてとても可愛い。
家について着替えてからは、話しながら目が合うとたくさんキスしてくる。
食後のお茶を飲む時も、ポンポンって膝を叩いて膝枕をしてくれる。私の髪を撫でたい合図だ。
結婚前は、座っている私を後ろからワシャワシャと撫でていたけど、結婚してからは膝枕が定位置だ。
お風呂も一緒に入ってくれるし、魔法でもこもこの泡を作って全身洗ってくれる。
お風呂からあがると、アンジー特製のアロマオイルで全身をマッサージしてくれる。
うつ伏せで背中から足裏まで終わると、仰向けで首から頭まで。とっても気持ちいい。
まあ、最後は食べられちゃうんだけど。
おいしく食べるために丁寧に下ごしらえされてるみたいだな、なんてたまに思う。
翌朝のアンジーはご機嫌で、疲れは全く感じられない。朝から抱き締めてたくさんキスをしてもらい、朝食もベッドで一緒にとる。
ただただ幸せだ。
「坊ちゃんのおかげで、今日のアンジェリーナ様は絶好調ですね」
タウンハウスにいる補佐の一人が、微笑ましいものを見る目で笑う。彼は親戚の一人で、昔はハイエンドル公爵家のカントリーハウスでよく遊んでもらった。
「あの坊ちゃん溺愛モードがストレス発散なんて、面白いですよねぇ。元々ヒステリーを起こすタイプじゃなさそうですけど、研究とか訓練で発散するタイプかと思ってました」
もう一人の補佐も、昔からハイエンドル公爵家に仕えてくれている一族の者だ。
「私にもアンジーを手伝えることがあるかな?」
「坊ちゃんが側にいてくれるだけで助かってますよ」
「そうそう。仕事のスピードが全く違いますから」
「ええー?もっと力になりたいのに」
「「甘やかしますねえ」」
補佐の二人がしみじみと呟く。
でも、甘やかしてるのは、どっちなのだろう?
私の方が甘やかされてる気がする。
「アンジェリーナ様といる坊ちゃんは包容力の塊ですね。私なら無理です」
「お二人の相性が良かったんでしょうね。アンジェリーナ様の愛し方は、下手するとダメ人間を作り出しますから」
「え?」
ダメ人間を作り出すって酷くないか?
「アンジェリーナ様って、地位もお金もある上に、頭も良いし、見目もいい。更に、そこらの男より強いときてる。貴族女性には珍しく料理も上手いし、性格は穏やかで愛情表現も豊かだ。
もし、普通の男が相手なら、劣等感を拗らせるか、依存しちゃうんじゃないかな」
「坊ちゃんは元々ダメ人間になる素養がないですからね。しっかりした性格で自立してるし、お酒は飲まない、女性と遊ばない。
アンジェリーナ様はまめにプレゼントを贈るタイプでしょう?あれも、下手な男なら貢がれてると勘違いして増長したりするんですよ」
「はぁ、なるほどね」
私はアンジーが初めての相手だし、比べられる相手と言っても、今まで身近に頭がオカシイ女性ばかりだったから、アンジーと誰かを比べることもなかった。
でも、そうか。アンジーをまるごと受け止めることが出来る男は、そんなに多くないのかもしれない。
「クロード様、お出かけしましょう?」
「もう領主の仕事は終わったの?」
「ええ。せっかくクロード様とお休みがかぶったのに、一緒に過ごせないのは嫌ですから」
「ははっ、俺、愛されてるね?」
むず痒い気持ちを誤魔化すように、ふざけて告げた言葉は、あっさり肯定された。
「もちろんです。とっても愛してますよ」
照れて俯いた私の頬にアンジーが触れた。背伸びしたアンジーが、私の顔中にキスをする。
エメラルド色の瞳が細められて、返事を催促する。
「愛してる」
私の答えに満足そうに笑う顔がとても可愛い。
やっぱり甘やかされてるのは私じゃないかな?
補佐1「はああああ、今日もしょっぱいメニュー頼もう」
補佐2「辛いメニューがいい。空気が甘い、激甘だ」




