クロードの不運と幸運
私は、クロード・ハイエンドル。公爵家の嫡男。
幼少期から、第一王子殿下と学友として交流し、側近に選ばれた。
当初、側近に選ばれるとは思っていなかったが、選ばれた面子を見て納得した。
殿下は、いつも冷静で飄々としているが、少し冷酷な所がある。王には必要な資質だと思うが、殿下は、側近で視点を増やすことにされたのだと思う。
私は、昔から本が好きで、色々な専門書を幅広く読んでいた。外国語も堪能だ。全体の調整役となった。
カルロスは、頭が良く、法に詳しい。口下手な為に、雑談をするような客人の相手は向かないが、交渉に強い。
ルーカスは、剣術が好きなことを活かし、近衛に師事し、護衛との調整役となり、殿下に一番近い護衛となった。
ウィリアムは、社交性が高く、伯爵位という立場と側近の立場を使い、高位貴族から下位貴族まで幅広い交友関係を築き、情報収集担当となった。
この5人は、なかなか上手く回り、学院でもわいわいと楽しく過ごした。
ここまでは、私の女難はたまに揶揄われる程度で済んでいた。ちょっとしつこい、ちょっと面倒くさい、そんな女の子がいたなと、笑い話になるくらい。
学院が男女別校舎だったから平和だったのだと、私はデビュタントを迎えて知ることになる。
夜会に出るようになった私に寄ってくる女性は、何故か、いつも厄介な女性だった。
彼女達は、礼儀もなく押し掛けてくるのは当たり前で、約束してあると平気で嘘を付く。タウンハウスは、家族や使用人達が追い返してくれたが。
そしたら、今度は職場に押し掛けられるようになり、近衛騎士が追い返そうとするが帰らず、私が出ていくことになる。業務の邪魔ばかりされる。
仕事帰りを待ち伏せされたり、休日の外出まで後をつけられ、偶然を装って近付いてくる。いつからか、後ろから声をかけられるのが怖くなった。
夜会で見つかれば、腕を絡ませて離れない。なんとか、殿下達が呼び出しなど偽って引き剥がしてくれた。
媚薬を飲み物に入れられる。全て回避したが。
手作りの差し入れは、何が入ってるかわからない。一度、好奇心から押し付けられたマフィンを割ったら、髪の毛が大量に入っていた。怖過ぎて悲鳴をあげた。買った物を手作りと言う女性の方がまだマシだ。
王宮の泊まっていた部屋に、侵入しようとして捕まった女性もいた。
一方的な手紙が沢山送られてくる。返事は出していないのに、彼女達は、妄想の私に返事を貰っているらしい。
果ては、監視されてるような匿名の手紙や贈り物が届く。
彼女達と話しても、全く言葉が通じない。
私は、好いていないし、照れていないし、喜んでいない。何度伝えても分かってもらえない。
こんな女性はひと握りだと分かっていても、余りにも普通の女性と関わることがなくて、私はどんどん女性が怖くなっていった。
何人かの問題ある女性が消えても、また新たな問題ある女性が現われる。周りは婚約者が決まり、平和なのに。私ばかり理不尽だ。
騎士や使用人では追い返せないので、王宮では側近仲間が一緒に行動してくれるようになったが、頼もしいけど、申し訳ない。同情されるのも、どんどん辛くなる。
休日まではどうにも出来ず、外出は控えるようになった。いや、外に出るのが怖くなったのが正しいか。
たぶん、私は追い詰められていたのだと思う。
もう結婚はしないで、家督も弟に譲ろうかと考え始めていた。
そんな私の転機は、最悪で最高の日だった。
「俺は結婚なんかしたくない!!!」
そう叫んだ次の瞬間に、執務室に入ってきた女性に一目惚れするなんて、最悪だ。
「な、な、な、な!」
私は、ドキドキする胸と冷や汗をかく背中を同時に体感し、言葉が出せなかった。
直前に言った自分の台詞は、ウィリアムが反応したのだから絶対に聞かれていた。
如何やって挽回すればいいか、ぐるぐる考えていたら、更に最悪な事実が判明する。
ずっと揶揄われていると思っていた公開プロポーズが現実で、さっき一目惚れした女性にしていたなんて、信じられない。信じたくない。
殿下と彼女が話しているのを聞きながら、余りにも酷い自分の対応に頭を抱えた。
無理だ。記憶がないプロポーズ。嘘だと思って、彼女からの手紙を放置した期間。さっき聞かれた叫び。挽回できる気がしない。
しかし、話を聞いていて気づいた。
婚約をするかしないかの選択は、私に委ねられていることに!
もうこれは、素直に謝ってもう一度婚約を申し込むしかない。私は、覚悟を決めた。
結果、私の婿入りが決まった。
この時の父からの言葉は、忘れないだろう。
「クロード、第一王子殿下と話してきたよ。ロウウェル伯爵令嬢には、伯爵位が与えられる。領地はうちの隣だ。クロードは、婿入りになる。
…お前は、公爵の立場が重荷だっただろう?まだ幼かったお前に盗賊の処罰を見せた時から、お前が悩んでいたことに気づいていた。
お前は優しい子だ。公爵になれば出来ることはわかっていても、苦しむだろうこともわかっていた。お前の婚約者が決まらないことをいいことに、私は決断から逃げていたんだろう。すまなかった。
今回の婚約は、お前が掴んできた新しい未来だ。新しい伯爵家に、ハイエンドル公爵家は協力を惜しまない。婚約者と力を合わせて頑張りなさい」
自分でも理解できていなかった、長年のモヤモヤした感情を、父は理解してくれていた。嬉しかった。
私の婚約と婿入りに、母も弟も喜んでくれた。
「クロード、おめでとう。早く婚約者に会ってみたいわ!結婚式の準備楽しみね!」
「兄さん、おめでとう!公爵家は任せて。でも、相談くらいは乗ってね」
家族に愛されて、私は幸せだ。
アンジーとの付き合いは、最初の頃は私が空回りしていた。失敗してオロオロする私に、彼女は毎回呆れた顔をして、それから慈愛のこもった眼差しで手を引いてくれた。
だんだんと距離を縮めることに成功し、仲良くなり、アンジーの遠慮もなくなった。
ドラゴンスレイヤーであり魔術師であるアンジーは、すごく強くて、デートに護衛もいらず、あちこち連れてってくれた。
初めての体験がいっぱいで、たくさん笑って、穏やかな時間を過ごした。
あんなに怖かった女性が、あまり気にならなくなった。なにかあっても、アンジーが助けてくれる。
男としては情けないが、アンジーがわかってくれていればそれでいい。
「アレは、私でも怖いです。同じ言語で話してるはずなのに、話が通じない。必要があれば私が出ますよ。ハルトン伯爵家をなめられないようにするのも大事ですから」
そう言う彼女の悪辣な笑顔に、思わず見蕩れた。
きっと、私はもう大丈夫だ。
青空が広がるとてもいい天気の今日、私は結婚する。
教会へ向かう馬車の中、私はとても緊張してるのに、同時にドキドキワクワクしている。
アンジーと結婚できる実感が、じわじわと押し寄せる。嬉しくて叫び出しそうだ!




