13 おっさん 最低の英雄と呼ばれる
魔王軍本隊は、王都までかなり近づいてきた。もう時間も残り少ない。俺は伝令に言って決死隊の部隊員を城壁前に集合させた。
全員がある種の諦観と、戦いの前の興奮が入り混じった独特の表情をしている。
「決死隊は、これから出発する。よし、お前たち出来るだけ密集体勢を取ってくれ」
そして俺は、決死隊に行かずに残った兵士達に集めさせたある物を、巨大なバケツに入れさせた。
「これはおれからのプレゼントだ」
そう言って、俺はそれを決死隊の面々にぶちまけた。
「ぐわ、なんだこれ。うわっ臭い」
口々にそう叫ぶ、決死隊の面々に俺は言った。
「臭いだろう。なんせ、ウ○コだからな」
一瞬唖然としていた決死隊の面々だが、次の瞬間顔を真っ赤にして怒り出した。
「よおし、しゅっぱ〜つ」
そう言うと俺はエルンファストを魔獣の群れに向かって突っ込ませた。
「ふざけるな、てめえ。逃すか。追っかけろ」
数十名の決死隊たちは、俺の後を常には出ない速度で追ってきている。魔獣の群れもそんな彼らが近づくと何故だか道を開けるように離れていく。
彼らにぶちまけた液体は、肥料ように集められた物で魔王軍が来た際に放置されたものを集めた物だった。確かに主成分はウ○コなのだがそれに様々な薬品を加え、その臭気はスカンクも裸足で逃げるレベルになっていた。特に魔獣はこの手の匂いを嫌うため決死隊たちは誰一人怪我をすることもなく魔王軍本隊にたどり着いた。
怒りにまかせ俺を追ってきていた決死隊の面々は、自分達がいつのまにか魔王軍本隊に来ていることに気付き魔族たちと戦い出した。
魔族たちも防戦しようとしたが、その猛烈な臭気と臭気の発生源が汚物に塗れた人間だと気付けばまともに戦えるはずもなく、終始こちらが有利な状態で戦いを進めていた。
しかし肝心の魔王の姿が見つからない。俺は目立ちすぎるエルンファストを自動操縦にして戦わせ、エルンファストから降りて魔王を探すことにした。
「あ、てめえこんなとこに居やがったか」
決死隊の一人が俺を見つけて近づいて来た。そしてその手に持ったバケツの中身を俺に向かってぶちまけて来た。
どうやら残った汚物を執拗に持って来ていたらしい。
その時、俺の視界に少女にしか見えない少年の姿が目に入った。
「見つけた〜」
「ひいいいいいい、近づくなあ〜〜」
ただでさえ前回の戦いで俺にトラウマを持っていた魔王だが、その俺が頭から汚物を被りとんでもない臭気を撒き散らしながら近づいてくるのだ。恐ろしくないはずがない。
魔王の護衛が俺を阻もうとしたが、そいつらを全員叩き伏せ俺は魔王ににじり寄った。
「近づくな、わかった、降伏する。だからよせ。うぎゃあああああ」
俺に抱きつかれた魔王が、断末魔もかくやと言わんばかりの悲鳴をあげた。
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王国暦3478年9月12日
王国と魔王軍の間に終戦協定が結ばれた。その協定を結ぶことに多大な貢献を行なった勇者は、王国と魔王軍双方から最低の英雄と呼ばれた。