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六芒星が頂に~星天に掲げよ! 二つ剣ノ銀杏紋~  作者: 嶋森航
乱世の終焉と天下泰平への船出
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市と勘吉郎

「勘吉郎、正吉郎様が遺したこの国を、正しく導いてくださいね」

「もちろんです、母上」

 正吉郎の墓の前で、市が勘吉郎に告げる。正吉郎がこの世を去ってから十日。盛大に執り行われた葬儀と後処理が終わり、ようやく勘吉郎は市と二人で墓参りに伺う機会を得た。

 葬儀には決して悲壮感はなく、さながらお祭りのような盛り上がりすら見せていた。

 96歳という大往生だったということもあるだろう。

 一介の小領主から天下統一を実現し、泰平の世を作り上げた。人々の生活水準を大きく引き上げ、戦乱が終わってからは外国や海外領土との交易も盛んになり、先進技術も多く流入してこの国は大きく発展を見せている。

 正吉郎への感謝の気持ちを表明すべく、全国から葬儀に駆けつけたのだ。様々な金品や特産品を献上し、保管に困る事態にもなっている。

「正吉郎様、私もあと少しで正吉郎様の下へ向かいます。もう少しだけ待っていてください」

「滅多なことを言わないでくだされ、母上」

「いいえ、自分の身体のことは一番よく理解していますから。それに、早く行かないと正吉郎様が悲しみますし。あの人、実はとても寂しがり屋なんです」

 そう言って、はにかむ。その顔は、勘吉郎にはまだまだ若々しく見えた。

 でも、市は93歳とこの時代では異例の長寿で、いつ死んでもおかしくない年齢だ。

 正吉郎も市も、健康体で生涯を送ってきた。それは正吉郎が若い頃から積極的な肉食を好み、また天下が鎮まってからも欠かさず運動を行っていたことが要因だ。市もそれに倣い、自発的に取り組んでいる。

 そのおかげで、今でも市は誰の助けも借りることなく、しっかりとした足取りで歩くことができている。

 そんな様子を見れば市の寿命がもうすぐ尽きるというのは信じ難いが、実際のところ正吉郎が世を去ってからは市はこの世への未練をしっかり失くし、生への執着を失くしつつあるようだった。

 生への執着を失くしたからと衰弱しているわけではなく、残したことをやってから、というのが最近の市のモチベーションだったようである。

 それも一区切りつき、あとはゆっくり家族との時間を過ごすこと。

 それが、今の市が最後にしたいことであった。

「そんな顔をしないでください。私はもう、十分生きました。あとは孫とゆっくり時間を過ごして、静かに逝ければ十分なのです」

 とはいえ、息子である勘吉郎にとっては、そう割り切れるものではなかった。

「それにしても、父上がまさか未来からやってきた御人とは思いませんでしたね」

 勘吉郎は母親の死期についての話を早々に切り上げるべく、話題を転換する。

「私は薄々気づいていましたよ。まさかそんなはずはない、と思っていたので口には出しませんでしたけれど、ああして正吉郎様から告白されて、全てが腑に落ちた気分でした」

 なにせ、80年以上一緒にいた夫婦なのだ。その仲睦まじさは天下一であり、暇さえあれば二人は一緒にいた。さすがに気づいていてもおかしくはない、と思いつつも、息子である自分が全く見当もついていなかったことに、いささか疎外感を感じていた。

「父上が遺した書物を拝見しましたが、未来の知識というのは興味深いです。私もまだまだ死ねませぬな」

「あなたは私たち以上に生きてもらいませんとね」

「はは、善処します」

「貴方の父は、とても偉大な方でした。その事実が、重責になることもあったでしょう。そしてこれからも、「寺倉蹊政の子」という名は付いて回ります。でも貴方は、貴方が信じた道を進んでくださいね」

「はい。父上も、母上も、私にとって誰よりも尊敬できる方でした。これからも父上と母上の子としての名に恥じぬよう、邁進する所存です」

「ふふ、正吉郎様そっくりの眼ですね。頼もしい限りですね、正吉郎様」

 市は目の前の墓に語りかけるよう、話す。勘吉郎は少し気恥ずかしさを感じつつも、母の遺言のような言葉に物寂しさを覚えていた。






1月31日、HJ小説大賞を受賞した拙作「冷徹皇子の帝国奪還計画」がHJ文庫より無事出版されました。

全国の書店で販売されておりますので、ぜひ書店で見かけた際には手に取っていただけますと幸いです!


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Amazon等の通販サイトでも予約・購入が可能になっております。

この作品は異世界を舞台にした戦記もので、クーデターで一族を始末され、国を簒奪された帝国の元皇子が、弱小勢力からの成り上がり(逆襲)を目指していく物語になっています。本作同様に現代人が憑依する立て付けで、現代知識による内政チート要素もあります。

書籍化が決まってから一から書き直し、1年半かけ満を持しての出版です。

どうか応援いただけますと幸いです。

よろしくお願いいたします!

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