第4章 幻獣の棲む島 その11
第4章 幻獣の棲む島 その11
如月島へと戻ってきた俺たちは、疲れを癒やすため、露天風呂へと来ていた。もちろん男女別だ。
「ふー、いやぁ、今日は大変な一日だったけど、一気に癒やされるぜ!」
「ハハ、確かにな。晃の言うとおり、今日は大変だったな」
「去年もこの露天風呂には入ったが、今日は一段と癒やされる気がするな」
露天風呂はかなり広く、俺たちだけで入るのが勿体無いくらいだった。
各々が戦いの疲れを癒やしている。
「はっはっは、こりゃいい風呂だわい!して、女風呂は向こうかの?」
「いや、やめてください、師範」
「むぅ、残念じゃの」
師範はすっかりいつもの調子に戻っていた。
というか、露天風呂ということもあり、若干テンションが高いぐらいだ。
「そういえば、銀の師範が戦っていた相手はどんなやつだったんだ? 最後も結局無言だったから、よく分かんなかったんだよな」
「ふむ、それは俺も気になるな」
晃と鈴原先輩が尋ねてくる。鈴原先輩はメガネをクイッとやり、やけに真剣だ。
いや、ちょっと待て、お風呂でもメガネ外さないのか、この人。
突っ込んだら負けだろうか? ツッコミ待ちだろうか? とりあえずスルーすることにする。
「実際、どんな相手だったんですか、師範?」
「ふむ、あれは、一言で言えば、“黒く深い”かの」
「“黒く深い”?」
「うむ、彼は何か負の感情を抱えている気がしたわい。それも、光が一切届かない程のな。それ故に、刀には、それ相応の覚悟が乗ってたわい」
覚悟がある負の感情、か。どれほどのものか正直想像もできないが、師範を追い込んだのは間違いない。
「師範、それで、彼の流派はわかりましたか?」
「真天一刀流じゃよ」
「え! それじゃあ……」
しかし、師範は首を横に振る。
「残念ながら、誰かは分からん。仮面もつけていたしの」
「そうですか」
(あやつに似たところを感じたが、あやつはこの世にはもうおらんしな)
と、ここで、隣の露天風呂の方から明るい声が聴こえてきた。
「わぁー、立派なお風呂! こんな大きなお風呂、わたし初めてかも!」
「うん、去年も入ったけど、ほんとに大きいよね! 星空も綺麗!」
「ふふふ、喜んでくれて嬉しいわ♪」
朋、楽々浦先輩、如月会長の順番だろう。声で分かる。
というか、俺の周りが急に静かになった気がする。
「やっぱり会長のは大きいですね!」
「あら、早瀬さんもなかなかじゃないかしら?」
「二人ともいいなぁ、わたしは、その……」
「あら、楽々浦さんのも、それはそれでいいものよ♪ きっと、宇佐見くんなら喜んでくれるわよ?」
「ちょ、ちょっと会長! ななな、何言ってるんですか!?」
いやいやいや、ほんとに何言ってるんだ、あの人は。
「ほー、そうなのか、宇佐見?」
鈴原先輩が真顔で尋ねてくる。
「いやいや、そんなことは! というか、隣の会話を普通に盗み聞きしてないで下さいよ」
慌てて俺は否定する。
「え、違うのか? 今日も楽々浦先輩と手を繋いでたような? というか、結構前から仲が良さそうだから、てっきりもう付き合ってると思ってた」
晃まで!? というか飛躍し過ぎだ!
「手を繋いでたのは、楽々浦先輩が怖がってたからだって。それと、付き合ってたりはしてないから」
とりあえず、事実だけを正直に伝えることにした。
師範は、俺たちの会話を聞きながら、大笑いしている。
「なんだ、まだ付き合ってなかったのか。それじゃあさ、銀は楽々浦先輩のことどう思ってるんだ?」
「どうって、俺は少なくとも、楽々浦先輩のことは好きだよ」
俺がそう答えると、なぜか隣の露天風呂からガシャン! と大きな音が聴こえてきた。
「きゃあ! 楽々浦先輩!」
「あらあら、大変、顔が真っ赤よ〜」
なぜか隣は大惨事の様子だ。
「おー! やっぱり好きなんじゃないか!」
「そりゃあそうだろ、楽々浦先輩も大切な仲間なんだからさ」
俺がそう付け足して答えると、辺りは静かになっていく。
そして、なぜかは分からないが、晃と鈴原先輩は呆れた顔でこちらを見ていた。
「ぶわーはっはっは! こっちの修行はまだまだ必要のようじゃな!」
師範は一人爆笑している。
その後、他にも会話を楽しみ、露天風呂を出た俺たちは、食堂に行き、シェフが用意してくれた海鮮メインの夕飯をご馳走になった。
なぜか、夕飯を食べる時、楽々浦先輩と二人だけの席を用意されて一緒に食べたが、終始、楽々浦先輩の顔は真っ赤になっていた。
そして、食後。
西館の遊技場にて、俺は晃、鈴原先輩と、ダーツを楽しんでいた。
「また銀はブルかよ! すげぇな、ほんと」
「中森、それだけじゃないぞ。宇佐見は20のトリプルもたくさん出している」
普通のカウントアップをやってるだけだが、なんだか盛り上がってしまった。
女性陣はというと、ビリヤードをやっているようだ。
師範はというと、ダーツではなく、楽々浦先輩とビリヤードをやっている。
というか、師範、ビリヤードできたんだな。
ここからでは分からないが、師範は何やら楽々浦先輩と会話しているようだった。
「銀、次お前だぞ〜」
「あぁ、分かった」
「お嬢さんは、銀のことを好いておるのか?」
「え、えーと、はい。好きです」
相楽宗有の急な問いかけに驚きながらも、楽々浦は素直に答えた。
「はっはっは! 素直でいいお嬢さんじゃの。して、どこが好きなのじゃ?」
「その、強くて、頼りがいがあって、それから優しいとこです。困ってるとすぐ助けてくれるから。もちろん、助けるのはわたしだけじゃないのも、知ってますけど」
「そうじゃな、銀は昔からそうじゃったわい」
そう言うと、相楽は銀の方を見る。
「ふむ、楽しそうにしとるわい。この学校に入って良かったようじゃの」
「えっと、どうして急にそんなことを?」
「そうじゃな、お嬢さんにならよいか。銀にはわしがこの話をしたのは内緒じゃよ?」
「は、はい」
「では、話すとするかの」
相楽宗有は姿勢を正し、真剣な表情で語り始めた。
「お嬢さんの言うとおり、銀はかなり強く、お人好しというくらい優しい子じゃ。だが、それにはちゃんと理由があっての」
「理由ですか?」
「うむ。お嬢さんは銀から家族の話を聞いたりしたかの?」
楽々浦は宇佐見との会話などを思い出すが、思い当たることは無かった。首を横に振る。
「ふむ、やはりそうか。まだ隠しておるのじゃな」
「隠すって、それってもしかして」
「うむ、銀は今一人なんじゃよ」
楽々浦は驚きを隠せなかった。
「母親は銀が生まれてすぐに亡くなったらしい。父親は5年前に交通事故で亡くなっていての。わしの弟子の一人だったからよく覚えておるわい。この学校に入るまでは、わしの所にいて、時々実家に戻って一人で生活してたんじゃよ」
「そんな大事な話、どうしてわたしにしてくれたんですか?」
楽々浦は泣きそうになりながら、相楽宗有に尋ねた。
「いつか銀が弱ってしまった時に、誰かにそばにいて欲しくての。銀のことが本当に好きなお嬢さんになら、任せられると思ったからじゃよ。まぁ、そこまで他人に優しくなれるお嬢さんなら、安心して任せられそうじゃの」
楽々浦先輩は涙を拭いて、こう答えた。
「はい! いつかその時が来たら、わたしが宇佐見くんを助けます!」
翌日、早朝。
師範は急用があるということで、先に帰るという。
「師範、本当にもう帰るんですか?」
「あぁ、最初にここまで来たのは地脈の件があったからだしの。今は元に戻っておるし、今日の午後には急用もある。名残惜しいが、今帰らないと間に合わんわい」
「相楽さん、お気をつけて」
「うむ、お嬢さんも銀をよろしくの」
いつの間にか仲良くなったのか、楽々浦先輩は師範に別れを述べる。それに対する師範の様子も少し変だった。
「船の用意ができたみたいよ」
如月会長が早朝から手際よく師範の帰りの船を用意してくれた。
「本当にわし一人のために良かったのかの?」
「えぇ、運転もお手伝いさんに頼んだから問題なく帰れますよ」
師範はありがとうと如月会長にお礼を述べ、荷物を背負った。
「師範、今回はありがとうございました。また次に会った時は、久しぶりに稽古をお願いします」
「うむ、その時は存分にやろうかの。はっはっは!」
そう言葉を残し、師範は如月会長の別荘から出ていった。
俺たちが後を追おうとすると、
「ここまでで十分じゃ。お前さんたちは夏休みを楽しんでおるのじゃろ? 存分に青春を謳歌するんじゃ! ぶわーはっはっは!」
師範は俺たちを制し、一人港へと向かっていった。
こうして、師範は、色々な思い出を残し、如月島から帰っていった。
海上、船の上にて。
「おっと、そういえば銀に伝え忘れたわい! もうすぐ、あの子が来るといことを。まぁ、銀なら大丈夫かの。はっはっは!」
第4章 完
To Be Continued…
みなさんこんにちは!トウミです。
第4章、終わりました!
執筆活動しながら、本業が8連勤だったりしましたが、なんとか毎日更新続けられて良かったです。
気づいたらブクマもたくさん増えていて♪
本当にありがとうございます!
これからも感想、評価、ブクマ、よろしくお願いします!
次回からは、夏休み特別編に入る予定です。
日常がメインになると思います。
新キャラも出てくるかも?
お楽しみに!




