第4章 幻獣の棲む島 その8
第4章 幻獣の棲む島 その8
「ふむ、お主は何者じゃ? 仮面をつけて素顔を隠してはいるが、その雰囲気、只者ではないことぐらいわかるぞ?」
「ふ、相楽宗有にそう言われるのは、光栄だな。だが、俺が何者かは今必要なことではない」
銀たちを助けようと、刀を抜いた相楽宗有の前に現れたのは、仮面を着けた謎の剣士だった。
この男も刀を所持していた。
「それもそうじゃな。では、いくとするかの」
相楽宗有は、抜いた刀をギュッと強く握る。
「老いて尚その気迫か。真天一刀流の開祖の実力、どれほどのものか、見せてもらおう」
仮面の男も刀を握り直し、二人は対峙した。
(あの男、師範と同じくらいか? すごい気迫だな)
俺は向こうで行われようとしている戦いが気になり、ついそちらの方を見てしまう。
「あら、宇佐見銀くんはあちらが気になって仕方ないって感じね、妬けちゃうわ♪」
エンチャントが、そう茶化してくる。
「宇佐見、今はこちらに集中してくれ」
「すみません、鈴原先輩。そうします」
鈴原先輩にも突っ込まれてしまった。
俺は改めて、エンチャントへと集中した。
「さてさて、学生のみなさん。準備が整ったところで、第二ラウンドのルールを決めましょう。ルールは簡単、あなた達がわたしに一撃でも入れられたらあなた達の勝ち。どう? 分かりやすいでしょ?」
「あら、舐められたものね。そちらが勝手に決めたルール、私たちが守ると思うかしら?」
「あはは、面白いことを言うお嬢さんね♪ 舐めているのは、どちらかしら?」
如月会長とエンチャントがバチバチやり始めた。
なんというか、この二人は似ているというか、相容れないって感じだ。
「まぁまぁ如月会長、その辺で。正直俺も舐められているとは思いますが、そのルールならすぐ決着しそうですし、いいじゃないですか」
というか早く決着させて、向こうに行きたいのが本音だ。
「宇佐見くん、それって向こうの戦いに行きたいだけじゃあ?」
楽々浦先輩に思考が読まれている。
というか、全員がこちらを見ている。
今の俺はそんなに分かりやすかったのか。
「うちの筆頭がこう言っているから、そちらのルールを飲むわ」
如月会長が、そうエンチャントに伝える。
「えっと、なんだか釈然としないのだけど、それでいいのね? それじゃあ、こちらも始めるわよ!」
エンチャントはなんだか怒っているような?
いや、怒ってるな。
と、エンチャントの周りに黒い蝶がたくさん集まってくる。そして、黒い蝶が飛び立つと同時に、早速異変が起きていた。
「な、何!? お姉さんが三人になっちゃった!」
朋が驚きの声を上げた。
朋の言うとおり、そこには三人のエンチャントがいた。三人とも同じ格好で、同じ鉄扇を持っている。
「あはは、わたしの力、ファントム。幻の力をあなた達に見せてあげるわ♪」
「幻か。なんだかわからねぇが、最初にいたとこが本体だろ!」
晃が大剣を振り上げ、自身の能力でスピードを上げて突っ込んで行く。
そして、最初からいるエンチャントへ大剣を振り下ろした。
ガンッと鈍い音が響く。
大剣はエンチャント自身には届かず、鉄扇でそれを受け止めていた。
「くっそ! すげえ力持ちだな、あんた!」
「あはは、真っ直ぐな攻撃ね。お姉さん痺れるわぁ♪ でも、力で攻撃するなら、こうしないとねっ!」
左右にいた別のエンチャントたちが鉄扇を構え、晃へと振り下ろす。
ガガンッ!
鈍い音を響かせながら、晃は大剣でそれを受けていた。
「く、重いっ!」
「偉い偉い、よく受け止めたわね♪」
エンチャントはだいぶ余裕がある感じだ。
いや、そんなことよりも……。
「何あれ!? 幻じゃないの? 全部“本物”じゃない!」
朋の言うとおりだ。三人のエンチャントは、全てが本物のようだった。
晃は、能力を使い、なんとかこちらに戻ってくる。
「鉄扇も、力も、全部本物だったぞ。どうなってんだ?」
「今はどんな力か分からない。だけど、たぶん彼女の幻は、分身みたいなものなんだろう。つまりは、本物と変わらないってことだ」
俺たちは、改めて、エンチャントの実力を知り、どう攻略しようか考え始めた。
キンッ!
キンッキンッ!
「はっ!」
「ふっ!」
キーンッ!
乾いた金属音が辺りに響く。
相楽宗有と仮面の男、互いの剣撃がぶつかり合い、相殺し合っていた。
「真天一刀流の開祖、まさかこれ程とは」
「はっはっはっ! まさかこの歳でこんな熱い剣戟をするとは思わなかったぞ。長生きするものじゃな」
ここまで、いくつか技を出し合ったが、互いに決め手にならず、無傷。
(ふむ、何度か技を見たが、この男の技は……)
「どうした? 何を考えている?」
「いや、なに。そうじゃな、一つ聞かせて貰うとするかの。お主、真天一刀流をどこで教わった?」
相楽宗有が尋ねると、仮面の男は、仮面に手をやり、下を向いた。表情は見えない。
だが、その行動に、相楽宗有はハッとした。
(今の動き、あやつを思い出すわい。だが、そんなはずはない。あやつはもう……。)
「やはり、開祖には分かってしまったか。だが、今はそれを明かすつもりはない」
「そうか、残念じゃわい。わしの代わりに教えられる者がいたと、少し喜んだとこだったんじゃがな」
「やはり面白い御老人だ」
男は仮面の下で笑みを浮かべた。
「さて、時間の無駄になってしまったようじゃ。では、再びはじめようかの」
「あぁ、そうしよう」
相楽宗有と仮面の男は、互いに刀を構え、再び剣戟をはじめるのだった。




