第3章 能力消失事件 その2
第3章 能力消失事件 その2
6月17日木曜日。寮の自室にて。
(昨日の如月会長の言葉、あれが本当なら、どうやって戦うか?)
昨日、生徒会棟。
「俺の能力を使って欲しいって、どういうことですか、如月会長?」
会議終了後、俺だけ残るように頼み、如月会長が言ってきたのは、“俺の能力を自分自身に使って欲しい”ということだった。
「そうね、ただ能力を使って欲しいなんて言っても驚かせるだけね、ごめんなさい、宇佐見くん」
如月会長が深く頭を垂れる。
そして、しばらく考えた後、言葉を続ける。
「宇佐見くん、これから話す事は他言無用でお願いしたいのだけど、いいかしら?」
「はい、わかりました」
如月会長がいつも以上に真剣な表情を浮かべる。
「実は、先月の学校襲撃の時に、わたし、能力を無くしたのよ」
如月会長から語られたのは、驚きの事実だった。
「能力を無くしたって、そんなこと……」
あるわけない、そう思った時、如月会長を見て思い出した。あの事件の後、聞いていたのだ、如月会長の能力を。
だが、こちらの言いたいことを察したのか、如月会長は首を横に振る。
「残念ながら、わたしの能力で存在ごと消せても、“能力だけ”を消すってことはできないのよ」
「それじゃあ、あの時に能力が消えたというのは……」
「えぇ、あの時に宇佐見くんたちが外で戦っている時、わたしはB棟にいた。その時、得体の知れない何かと戦ったのだけど、その何かに触れられた時、能力が消えたのよ」
「得体の知らない何か?」
「そうね、見た目は普通の少年にしか見えなかったけど、あれは、人間ではないと思うわ」
少年のようだけど人間ではない。そんな存在がいるのかとは思ったが、話す如月会長は真面目なままだった。
「残念ながら、あれは何か分からなかったけど、正直言うわ。まともに戦っていたら、どうなっていたか分からないわね。あの時は、向こうは戦うつもりはないって言っていたから、助けられたという感じかしら」
如月会長が戦って勝てない相手か。正直検討もつかない。ただ、如月会長と同等、いや、それ以上の能力を持つ相手と戦うとなると、どう戦えばいいのか。
「今は、その存在について不確かな情報しかないから、みんなにはまだ伝えないで欲しいの。一応、宇佐見くんも出会う可能性があるから、注意はしておいて」
不確かな情報か。能力消失の事件の重要参考人となりそうだが、得体の知れない何かなんて曖昧な情報は、不安にさせるだけということか。
「わかりました。一応こちらでも注意はしておきます。それで、俺の能力を使って欲しいというのは、つまりは、消えた能力を戻すってことですね?」
俺が尋ねると、如月会長はお願いできるかしら?と聞いてきた。
「消えた能力を戻すなんてやったことないですが、わかりました。じゃあ、やってみます」
(如月会長が能力を失ったのは、先月の学校襲撃の時。なら、その前日の状態に戻せばいいのか)
「対象者の状態のみを能力影響下にセット、いきます! メノス!」
パチッと指を鳴らすと、如月会長を光が包む。
しばらくして、光は消えた。
「どうですか?」
「そうね、見ただけではわからないから、宇佐見くん、そこのコップを取ってくれるかしら?」
そう言われ、机の上にあったコップを渡そうと、如月会長の手に渡した瞬間、一瞬にしてコップが消えた。
「消えた! ということは?」
「えぇ、ありがとう宇佐見くん♪ おかげで能力が戻ったわ」
「はは、ありがとうございます。良かったです、元に戻って」
「お礼にハグでもしようかしら?」
「いえ、遠慮しておきます」
「あら、つれないわね♪」
こうして、如月会長の能力を元に戻し、話は終了。能力を失っていたこと、それから、その原因となった得体の知れない何かについて、以上は他言無用と改めて念を押され、俺は生徒会棟から出たのだった。
そして、次の日もこうして、いろいろと考えていた。
(得体の知れない何か、か)
如月会長は少年のような人間ではない何かと言っていたが、今回の能力消失事件の犯人、もしくは何らかの形で関与しているのは確実だろう。
つまりは、いつか対峙するかもしれないということだ。
(ダメだな。うまい戦い方が浮かばない)
と、誰かが部屋の入り口のドアをノックした。
「宇佐見くん、いる?」
「楽々浦先輩?」
慌てて、部屋のドアを開けに行く。
部屋の外には楽々浦先輩が立っていた。
「良かった〜、いたんだね」
「どうしたんですか、こんな時間に?」
今日も授業が終わった後に生徒会の会議があり、今はすっかり夜になっている。
「う、うん。そうなんだけど、今日の会議中、宇佐見くんずっと何か考えていたみたいだったから、気になって」
「そうだったんですか、すみません」
と、何やら美味しそうな匂いがしてくる。
「楽々浦先輩、何を持ってきたんですか?」
「あはは。あのね、ただ訪れるのも悪いかと思って、夕ご飯作って来たんだ♪ 良かったら一緒に食べたいなって」
ほんとにこの先輩は。そんな上目遣いで頼まれたら断りづらい。
「それじゃあ、一緒に食べましょうか。ちょうどお腹空いてましたし」
「うん! ありがとう! お邪魔するね? わー、意外と綺麗だねぇー」
とてとて部屋に入っていく楽々浦先輩の後ろ姿を眺めながら、俺は考えるのをやめた。
その時が来たら、その時に考えよう。そう結論を出した。
今はただ、楽々浦先輩と一緒にご飯を食べることに集中しよう。
「宇佐見くーん! ほらほら早く!」
「わかりました。今行きます!」
今は、この幸せな時間を大事にしたい。
楽々浦先輩は、早くもテーブルの椅子に座っていた。
俺も椅子に座る。
「楽々浦先輩」
「ん?」
「ありがとうございます」
「なんだかよくわからないけど、どういたしまして! うん、いつもの宇佐見くんの顔だね♪」
ニコッと微笑むその顔を見て、俺は楽々浦先輩の頭を撫でた。
「ちょっと、宇佐見くん! 子供扱いしないでよー! ほ、ほらほら、ビーフシチュー冷めちゃうから〜」
(どうやって戦ってもいい、大事なものを護るために、できることを全てやるだけだ)
そう、決心した。




