幕間 その2
幕間 その2
周りを見ると、カップル、カップル、カップルと、店内は見事にカップルだらけ。
そんな店内に、俺と楽々浦先輩が一緒にいるわけで。
なぜこんなことになってるかと言うと、そう、それは今から40分程前。
学校、正門前。
訓練を終えて、シャワーを浴び、簡単に荷物を持って到着する。
そこまで待たずに、楽々浦先輩もやってきた。
「宇佐見くん、お待たせー。へぇー、そういう私服なんだね?」
グレーのパンツに、白のシャツ、それから水色のジャケットというシンプルな格好なのだが、普段が制服なので、確かに私服姿は珍しいかもしれない。
「楽々浦先輩も、可愛い私服ですね」
楽々浦先輩は、ツインテールを青のリボンで結び、白のタンクトップに半袖のグレーのパーカー、下は黒のホットパンツにニーソと、絶対領域がまぶしい。
「えへへ、そうかな?」
「そうですね、子どもっぽくて似合って、痛っ!」
調子に乗っていたら蹴られた。
「もうっ、また馬鹿にして! ほら、行くよ」
「行くってどこに?」
「ちょうどお昼時でしょ? わたし行きたいところあったんだ♪ 一人だと入りづらくて、ダメかな?」
そんな、上目遣いに聞いてくるのは流石にずるい。断りづらい。まぁ、もともと断るつもりはなかったから、ここまで来たわけだけど。
「大丈夫ですよ。では、行きましょう」
「やった! それじゃ、こっちだから付いてきてね」
楽々浦先輩は、明るい足取りで、先に進んで行った。俺は、そんな光景を微笑ましく思いながら、付いていった。
5分程歩き、繁華街の中にある、レストラン前に到着。今思えば、この時に異変に気づけば良かったのだが、お腹が空いていたからか、全く気づかなかった。
「ほら、宇佐見くん、ここだよここ! 最近できたばっかで、ずっと来たかったんだけど、一人だと来づらくて」
「へぇ、確かにメニューも美味しそうですね。それじゃあ入りますか」
「うんうん」
そして、二人で店に入ると、すぐに店員が一人やってきて、声をかけてくれた。
「いらっしゃませ! 何名様ですか?」
「二人です」
そう答えると、なにやら店員さんは俺たち二人を交互に見比べ、何かに納得したような感じになり、
「二名様、いらっしゃませー。お似合いですね。では、奥にどうぞ♪」
そう言って、俺たちを店の奥の方へ案内したのだつた。
そして、今に至る。
よく見ると、“本日カップルデー”というポップが店内のいたるところに貼ってある。
メニューもカップル用と書いてあった。なぜ、外でメニューを見た時気づかなかったのか。
空腹というのは、こうも判断力に作用するのか。
ふと、ここに案内されてから一言も発しない、向かいの席に座った楽々浦先輩を見ると、顔を真っ赤にして俯いている。
それもそうか、確かに恥ずかしいだろう、カップルデーと知らずに入ってきたのだから。
「楽々浦先輩、大丈夫ですか?」
「え? う、うん! もちろん大丈びゅ、だ、大丈夫」
思いっきり舌を噛んだ気がしたが、気づかなかったことにした。
「ほ、ほら、せっかく来たんですから、何か食べましょうよ。美味しそうですよ。これなんてどうですか?」
ただ座ってるだけだと埒が明かないので、とりあえずメニューを見せながら、テキトーにメニューに指を差す。
「そ、そうだよね! お腹空いたし、何か食べないとだよね! じゃあとりあえずそれを……」
ぼふっと楽々浦先輩の頭が鳴った気がした。
慌てて、自分が差したメニューを見てみると、“カップル限定♪ラブラブフレッシュジュース”と書かれていた。
「す、すみません! よく見てなくて……」
そう言って、メニューをしっかり見ようとすると、ガシッと、楽々浦先輩にメニューを掴まれた。
「ううん、大丈夫! 宇佐見くん、それ頼もう!」
「え?」
「あと、お腹も空いてるからね! これと、これ、これも頼もう。うん、そうしよう」
何やら吹っ切れたのか、暴走したのか、楽々浦先輩は次々に注文を決め、気づいたら店員さんを呼んでいた。
“二人であーんバーグ”に“愛する人の名前を書こうオムライス”などなど、どれもがカップル用のメニューだったが、気づくとテーブルいっぱいに並べられ、二人で食べきった。
最後に例のジュース(ハート型のストローで二人で飲む)も飲み、お店を出た。
「宇佐見くん、ごめんね! カップルデーなんて知らなくて!」
「いえ、謝らないで下さい、楽々浦先輩。恥ずかしかったですが、結構楽しかったですし♪」
そう言うと、楽々浦先輩は嬉しそうにしてくれた。
「そ、そう? なら良かったー。ありがとう、宇佐見くん」
「まぁ、ほとんど味を覚えていないんですけど」
「あはは、わたしも」
「今度、また普通の日に来ましょうか、味を覚えれるように」
「うん!また、来ようね!」
二人にとって、人生で一番味を覚えていないレストランになったが、人生で一番思い出深いレストランになったことだろう。
俺たちは、再度このレストランに来ることを約束して、学生寮へと戻るのだった。
3連休初日はとても濃い一日になった。