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薄幸の魔導師オメガが冒険者になったら、最強勇者の子供を授かりました  作者: 碧木二三
第三章 最強勇者と魔導師オメガの俺が番になるまでの話

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18-1




 和やかな昼食の後。

 イコは、俺が集めた冒険者の手記が読みたいと言って、昔の俺の部屋に行ってしまった。何かしら感じ取って、気を利かせたのかもしれない。

 それ以外は全員、サロンに移動した。広い室内には、絹張りの椅子や上質な革製のソファーに囲まれた応接用のテーブルが何セットか、程よい距離を開けてバランスよく配置されている。

 冬間近。気を抜いていると、昼間でも肌寒さを感じる季節になってきている。俺たちは、赤々とした火が入った暖炉のそばにあるソファーセットに腰を落ち着けた。

 ソファーには、レオスと俺とパットが並んで座り、パットの傍にある椅子にはキリィが、レオスの傍の椅子にはヴォルフが座った。

 そこで俺は、レオス以外の仲間にも初めて、ホーンオウル家との因縁を語った。

 ただし、レオスはその当時の記憶をなくしているので、実質的には彼も初耳の状態である。そして、それを聞いた仲間たちの反応は、皆一様に同じであった。

 

 ──お前は別に、何も悪くないじゃないか、と。


 ホーンオウルが恨みを抱くべき相手は、俺の亡き父であって、俺に当たるのは見当違いだと全員が口を揃えてそう言った。


「いい? トワ。魔導貴族の矜恃だかなんだか知らないけど、あんたはこれ以上、まともに付き合わなくていいからね」

 

 と、パットはしらけたように鼻を鳴らして言った。


「いや、付き合うなと言われても……」

「何? なんかあるの? まさかとは思うけど、弱味でも握られた?」


 大きな目にじろりと睨まれた俺は、ブンブンと音が出るくらい首を横に振った。子供じゃあるまいし、この年齢でそんな仕草をすることになるとは思わなかった。


「トワ、あのマントは……」

「い、いや、あれは関係ない!」


 言いかけるヴォルフを、俺は大きな声で慌てて遮った。


「マント?」


 露骨に怪しむ目つきになったパットに向かって、また強く首を振ってみせる。

 レオスも顔を(しか)めながら言った。


「しかし、そのクィルとやらはまだ若いのだろう? 当時、トワに求婚した魔導貴族の当主は、確かトワの父上と同じぐらいの年齢の、とうに妻に先立たれたやもめで……」

「レオス?」


 俺は驚いてまた大きな声を出してしまった。


「ん、どうした?」

「レオス、なんでそれを……」


 俺は今、ホーンオウルの年齢や、やもめだったことはまだ言っていない。それをレオスに話したのは、彼が記憶をなくす前。もう十五年以上も前の事だ。


「え? ……ん、そうだったか。あれ、おかしいな……」


 俺に指摘されたレオスも、真顔で腕を組み、首を傾げている。


「レオ、お前、ひょっとしてトワのことを思い出しかけてるんじゃないか?」

「……うん、いや?」


 キリィに言われても、レオスにその確信は全くないようで、傾げられた首はなかなか元に戻らない。


「ここのところずっと、キリィとパットからトワの話をたくさん聞かせてもらっていた。俺がいない間のことや、昔の……忘れてしまったはずのことも」


 特に昔のことを話していると、そんなはずはないのに、ふとどこか懐かしいような感情を覚えたりすることがあったという。

 記憶の境界が、曖昧になってきているような。それも時系列にではなく、俺に関することの記憶だけが、少しずつ……。


「だが、やっぱり俺だけがトワのことを覚えていないという事実に、無性に嫉妬を覚えることが多々ある」

「ええ、知ってるわ」


 と、パットがニヤリとした。


「記憶がどうこう言う前に、トワのこととなると、レオは昔から何でも自分が一番じゃないと納得できないのよ」

「だよなぁ。記憶がないっていうのに、トワに対する執着度合いは昔と全然変わってなくて、笑ったわ」


 キリィにも揶揄(からか)うように笑われ、レオスは片眉を上げて無言で肩を竦めた。反論の余地なし、といったところか。


「……話を戻すが。そのクィルというのは、我々が島で遭遇した『ヨタカ』で間違いないか?」


 いつもの通り、ヴォルフが話の軌道修正をしてくれる。


「ああ、おそらくな」

「いやに芝居がかった、大仰な言い回しをする奴だったが」


 ……故にこそ。自身の若さを悟られたくなかったのだろうが、年相応の青さを隠しきれていなかった。


「じゃあ、さっきレオも言ったけど、昔、トワに求婚してきたっていう当主とは当然、別人よね。何者なのかしら?」

「やもめってことは、子供がいたんだよな」

「ああ。兄によれば、当人はすでに病没している。先立たれた正妻との間には娘二人と息子が一人。跡取り息子は身体も魔力回路も弱くて、彼もとうに亡くなっているはずだ」


 故に、魔導貴族としてのホーンオウル家は断絶している。残された郎党の中に、クィルとメグがいるのだ。


「メグは、本人曰くホーンオウルの当主の息子が、使用人に手をつけて生ませた娘だ。そしておそらく、クィルは外に嫁いだ娘二人のどちらかの子……、メグもはっきりとは教えられていないらしいが、自分こそが正当な後継だと(うそぶ)いていたようだから、長女の方の息子である可能性が高い」


 そのあたりは今、兄が配下たちに命じて情報を集めているので、じき判明するだろう。


「とにかく! いい? 向こうがどんなに勝手な因縁をつけてこようが、恨まれるべきはあんたの父親であって、トワはちっとも悪くないんだからね!」

「パット……」


「もう、何よ、景気の悪い顔をして! あんた、自責の念に駆られて落ち込んでる人間にいつも言ってるじゃない。『お前は悪くない』って。だったらあたしも、そっくりそのままあんたに返すわよ」

「──いつも?」


 レオスが目を上げて俺を見る。


「レオス?」

「そうか……。クロンの港で。グレンの船の中で、俺にもそう言ってくれたよな」


 美しい碧眼を、微笑みの形に(たわ)めながらそう言って。レオスの大きな手が、俺の手をぎゅっと握りしめてきた。


「あのとき、お前のことを何一つ思い出せない俺にそう言ってくれて、とても嬉しかった。だが、今の話を聞いてわかったよ。きっと、俺は以前にもそう言ってもらったことがあるんだろう。どこか懐かしいような嬉しさだと思ったのは、それでだったんだ」

「レオ……」

「だから、俺も言おう。トワ、お前の親のしたことで、お前が自分を責める必要は全くない。お前は、悪くない」


 力強く響くレオスの声。それでいて、俺を想う優しさに溢れた声だった。


 ──その通りだな、と。戸口からよく通る声が聞こえ、俺たちはハッと振り向いた。


「兄上! お戻りでしたか」


 俺はソファーから立ち上がる。ゆっくりとした足取りで俺のそばまでやってきた兄は、静かな目で俺を見つめてきた。


「それに、我々が考えるべき肝心なことは、ホーンオウルを名乗る者が今、一体()()()()()()()()()()()()()、だ」

「目的……」


 レイブン家への復讐じゃないの? とパットが首を傾げて言う。


「それは抽象的な事実に過ぎない。パトリシア嬢、私が言っているのは、彼奴(きゃつ)がわざわざ厳重に保管されていた勇者のマントを盗み出し、ヒュドラダンジョンに籠城(ろうじょう)しているのは、一体何の為なのか、ということだ」


「「「勇者のマント!?」」」


 パットとキリィ、レオスの声が綺麗に重なる。

 しかし、ヴォルフの表情だけはさっと険しくなった。彼も、俺と一緒に島でヨタカの言葉を聞いている。


「まさか……」


 俺と顔を見合わせ、呆然と呟いた。




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