どうしようもない
彼は日本に戻った。
どこにも行けなかった、 どこに行っても、同じだった。
心が折れた。
何をしても、彼の居場所はなかった。
生きている意味を見出せないまま、魔法の力を使わずに、普通の「人間」としての死を選ぼうとした。
そして死ぬならせめて、生まれの故郷である日本で死のうと、思い入れのない日本に帰ってくる。
街を彷徨った。
足元が重く、自分の体が動く度に、全身が重く感じられた。
足元がふらつく。
街の景色も、まるで夢の中のようにぼやけて見える。
歩きながら、自分の存在がどんどん薄れていくような気がして、息をするのがやっとだった。
彼は、もうどこにも帰れないことを痛感していた。
自分の力が、もはや呪いでしかないことを理解していた。
そして、彼は自らの命を断とうと決意した。
だが、彼はその前に、もう一度だけ、あの場所を訪れることにした。 あの時、彼が魔法を使って子供を救った場所。 あの時、彼が初めて「人」としての価値を感じた場所。
彼はその場所に向かって歩き続けた。 そして、ようやくその場所に辿り着いた。
そこには、あの時と同じように、子供たちが遊んでいた。 彼はその光景を見て、少しだけ心が温かくなった。
「あの時、俺は間違っていなかったんだな・・・」 と、彼は呟いた。
あの時、彼が初めて「人」としての価値を感じた場所。
あの出来事が、彼にとって唯一の「救い」だ。
あれを思い出すと、彼はその間だけ自分の事を肯定出来る。
だが、その温かさも束の間だった。
突然、背後から足音が近づく。
振り返るまも無く、冷たい手が彼の肩を掴んだ。
抵抗しようとするが、体が固まり、力が入らない。
心の中で最後の希望を断たれたような感覚が広がった。
彼は、もうどこにも逃げられないことを悟った。
そして、再び「魔法を使える存在」として、国家の管理下に置かれることとなるだろう。
彼は、もう何も感じなかった。
ただ、無力感と絶望だけが彼を支配していた。
そして、彼は車に乗せられ、少し前までいた施設へと車が進み出した。
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彼は、車の中でただ無感情に座っていた。
外の景色が流れていくのをぼんやりと見ていたが、その心は完全に空っぽだった。
もうどこにも帰る場所がない。
逃げる場所もない。
1人でひっそりと隠れようとしても、すぐに見つけられる。
彼が感じるのは、ただ無力感と、深い絶望だけだった。
車が渋滞に巻き込まれた。
ほとんど進む事なく、もう1時間程が経つ。
窓の外を見ていると、何かが見えた。
道路脇に立つ子供たち、その中の一人が地面に膝をついている。
彼は何気なく視線を向けたが、すぐにその光景に違和感を覚えた。
数人の子供たちが、その少年を囲んでいた。
彼らは嘲笑しながら、少年に何かを投げつけたり、押し倒したりしていた。
少年は必死に立ち上がろうとするが、周囲の少年たちは容赦なく彼を押し倒す。
1人の少年が、一回り大きな子供達に、虐められていた。