第109話 強いシャチ
ヒト型って言ったけれど、こういうタイプは想定していなかったなぁ……。確かにヒト型ではある。異世界はすごい。
シンプルに日曜朝にやっている戦隊もののシャチモチーフの黒か青系。
黒部分の面積が多いモノトーンで、背鰭のような三角の飾りがあるフルフェイスのヘルメットにはシャチのアイパッチ模様がある。あのガラス?面どうなっているのだろうか。
右肩だけ覆う肘丈のマントや背中から繋がる長くて幅広の腰布、緩めの帯のおかげでひらひらしているから最終強化済み感がある。でも絶対主人公ではない。主人公が放っていい圧じゃない。
途中から二股に分かれている腰布が足元で結ばれているようで、裾のシルエットが尾鰭の形だった。どう見ても地面に着く長さのはずなのにどうして浮いているのかは気にしてはいけないんだろうな。
手袋は二の腕まであり、ブーツも太腿まである。結構ダボッとしているからか、それを押さえるように二の腕と手首、太腿と足首にそれぞれ2,3連ずつ銀色のバングルが嵌まっていた。
ひらひらもだけど装飾も多いな。変身装備が無いだけマシなのか?
「お魚さんすごいね!」
「すごいのか?」
「ぎゃおぁお!」
「にゃー!」
「ぷ!」
「そうか。ありがとう」
キラキラの目でシャチを見ているロボたちを見ると、どんな世界であっても子供はこういうザ・ヒーローって感じが好きなんだな。街の子供たちにも人気が出そう。
しかし背が高いな。頭があるナイトと同じくらいありそう。210センチくらいかな。プラス背鰭分か。ヘルメットに付いている背鰭は10センチくらいだからそこまで気にしなくても大丈夫かな。
「門に引っかかる心配は無くなりましたが、あんな風になるとは想定外でしたね」
「まあヒト型でギリギリ納得できるところかな……。ダンジョンのゴーレムがヒト型だったことを考えると全裸でなかっただけ有難いのかも」
まあ全裸でも服はナイトのサイズで足りるから問題は無かったか。
「ユウの鎧がバイク乗りのほうに似ていますからバランスは良いかも知れませんね」
「初耳なんだけど」
「鎧は本物の金属ですから重厚感は違いますし変身ベルトもありませんが、系統はそれに似ていると思いますよ」
マジで? 俺もヒーロースーツだったのか?
ネコが尾鰭の結び目に乗っかろうとするのを止めているシャチにナイトが声をかける。
「では契約を済ませてしまいたいのですが、どうしますか?」
「どうするとは?」
「その子たちはみんな私の獣弟として契約していますが、貴方はご自身で契約が可能でしょう? どちらにしますか?」
シャチは自分で随獣契約ができるのか。普通に喋って変身までできるんだし、そのくらいできるのか。
「別にこだわりは無いが……」
シャチはそこで言葉を切り、腕の中で藻掻いているネコを見てからナイトに顔を向けた。
「先程フェンリルが影を移動していたが、汝の獣弟になれば影を使った移動が可能になるのか?」
「できますよ。攻撃への転用はできませんが、魔力の及ぶ範囲で任意の影に移動が可能です」
「であれば、汝の契約にしておくか。このネルガルは中々に粗忽者のようだし、一々居場所を特定して空間転移していては間に合わぬ可能性がある」
粗忽者って言われちゃったよ。でも心配してくれているから優しいのかな。
「ネルガルじゃないよー! ネコはネコ! ぼくはロボで、アースとボムだよ!」
「相済まぬ。以後気をつけよう」
ロボに名前を紹介されてシャチが謝ったところでナイトが手を叩いた。
「では私が術式を書きますので、一度ネコを放してください」
「あいわかった」
ネコをロボに任せて、シャチがナイトの横に立つ。
「ユウ、彼の名はどうします?」
「い……オルカで」
「今インディゴと言いかけたか?」
「いや、うん。でもさすがに」
藍色鯱はちょっと、キラキラネームが過ぎる。むしろリングネームか。インディゴオルカにしたとしても最終的にオルカって呼びそうだし。藍でも可愛いとは思うけれど、2メートル超えたヒーロースーツに付ける名前ではないと思う。
名前も決まったので契約はすぐに完了した。
「じゃあ改めてよろしく、オルカ。俺のことはユウって呼んで。彼はナイト」
「ああ。よろしく頼む。己で言うことでも無いが我はそれなりに役に立つぞ。遠慮せずに良く頼れ」
「うん」
鎧越しだが頭をグシグシと撫でられた。なんでオルカこんなにお父さん感が強いのだろう。
再び結び目に登ろうとしているネコを押さえながらロボたちを撫でているオルカを見ながらふと思う。
「また黒色が増えたね」
「全体的に威圧感がすごいですね。まあオルカは白色成分もそれなりにあるので大丈夫なのでは?」
「そうかな」
そうかなぁ。まあオルカは腹側が白いし、俺も鎧でなければ黒くないし、ナイトも普段から真っ黒な武装しているわけではないからいいか。ロボとアースは可愛いのでいいです。
「とりあえずご飯にしましょうか。鶏肉が多いのでチキン南蛮にしましょう」
「やった」
「タルタルソースを作るのでユウはゆで卵を作ってください。オルカはロボとネコを洗ってくれますか」
ナイトの言葉にオルカが首を傾げた。
「洗う?」
洗うっていう概念が無いのか。
「汚れを水で落としてあげてください。洗いかたはロボが知っていますから」
「あいわかった」
アースは俺と一緒にゆっくりお風呂に入るから、ロボの背中から俺の肩に移動してきた。ボムはお風呂には入らないのでふよふよと漂っている。
鶏肉の準備をしているナイトの横でゆで卵を作るために焚き火を熾そうと台を準備しているとオルカがロボとネコを抱えて戻って来た。早すぎない? 5分もかかっていないよ?
降ろされたロボは大興奮で寄ってきたけれど、ネコはオルカに登って抗議している。
「早かったね」
「すごいよ!! ギュンって終わったの! 綺麗でしょー」
本当だ。艶々しているし完全に乾いている。ご機嫌なロボと違ってネコはオルカの腕にしがみついて不満の鳴き声をあげている。
「どうしてネコはそんなに不満そうなの?」
「わからぬ。汚れは落ちたのだが」
「ぬぁー!!」
どうしたの? 必死で鳴いているネコにロボがうーんと首を捻った。
「たぶんね、撫で撫でしてもらえなかったからかな」
撫で撫で。……もしかしてネコは風呂を「温かい湯に浸けられてたくさん撫でてもらえる行事」だと思っているのか?
「洗うのに撫でる?」
首を傾げたオルカにナイトが説明した。
「私は手で泡を立てて洗っていましたから、それを撫でてもらっていると認識していたのでしょうね。ロボの毛を梳かしながらネコを撫でてあげれば満足すると思いますよ」
梳かす……と反対側に首を傾げているオルカに影の中からブラシを持って出てきたロボが説明する。
一通り説明を聞いたオルカが片手でロボを梳かしつつ片手でネコを撫で始めるとネコの抗議が小さくなっていった。
撫でてもらえればなんでもいいのか?
食事の準備を整え、全員で食卓を囲む。ゆで卵固くなりすぎたかな? まあタルタルソースだからいいか。
食事中に今日あったことの話を聞く。
ロボとアースは楽しく森を探険できたらしく影の中に戦利品がたくさん入っているそうだ。
「あのね、ワニみたいなのと大っきいトリと、ウシみたいなのと……あとは……あとは、お兄ちゃんは聞かないほうがいいかな……」
楽しそうに話していたロボがゆっくりと目を逸らした。アースも顔を逸らしている。
虫か? 虫なのか? 虫なんだな!? 虫取ってきたんだな!?
「あとで鞄に移動させておきましょうね」
慈悲がない!!
「オルカ、お口に合いましたか?」
「うむ……食事をしたのは初めてだが、好ましい味だと思う」
「それは良かった」
もしゅもしゅとチキンを食べているオルカにナイトが声をかけると、頷きながらそう返していた。やっぱり食事しないで生きていける系魔物だったかー。
俺とナイトが使っているのを見ただけで器用にフォークを使いこなしているから頭いいんだろうな。
それはまあいいとして。
「オルカ、ちょっとごめんね」
「む?」
チキンが消えていくオルカの口元をつついてみるとコンコンと硬質な音がする。
完全にヘルメットの感触。ヘルメットが開いているようにも見えないのに、どうしてここに食べ物が消えていくの?
全然理解できないけれど、そもそも何も無いところに食べ物が消えていくナイトよりはマシだろうと思い直す。
あれより不思議なことは滅多に無いはずだ。
「オルカはどうやって戦うの? 魔法?」
「基本は魔法だな。肉弾戦はあまりしない」
一足先に食べ終えたロボがオルカに訊いた。ギュンって洗えるくらいだから魔法は使えるだろうと思ったけれど、肉弾戦をしないのは少し意外だな。ヒーロースーツだし体格が良いから肉弾戦も得意かと。
「じゃあ武器は持ってないの? ナイトは槍を使うんだよ」
「いや、一応槍を持ってはいるが我等の種の武器は世界の預かりだからな。滅多なことでは持ち出さない」
世界の預かり?
「どういうこと?」
意味がわからなくてロボの質問に質問を重ねる。
「使用するのに世界の許可がいる。悪戯に使うと世界を滅ぼしかねない威力を持っているから、必要に応じて世界に申請して持ち出すことになる。まあ、事後承諾に近いから拒否されることはないが、持ち歩くことはしないな」
「世界っていう概念が意思を持っているってこと? それでオルカの槍を預かっているの?」
「そう考えて問題ないだろう。管理しているのが冥霊王であるからそこまで厳格ではないが、槍を使って全力で戦うことはほとんど無い」
世界を管理している王様とかいるんだ……。世界に申請ってどうやるのか気になるけれど理解できる気がしないから訊かないでおこう。
異世界ってすごいなと改めて思っているとオルカが片手で額を覆った。
「無いはずなのだが……」
「彼はしょっちゅう使っていますね」
「何度女帝に叱られても欠片も堪えていないどころか、叱られたことを覚えてすらいないからな」
はぁぁ、と深いため息を吐くオルカに哀愁が漂っている。
「彼って?」
「我の同族だ。悪意は全くないのだが、結果としてそれが他者に悪く作用するということを理解できないのだ。都度女帝と一緒に説明しているのだが「何も死んでないから大丈夫!」と脳内変換する」
……大変そうだなぁ……。しかし女帝に怒られても懲りないとは。
「女帝って魔物全部に恐れられているのかと思ってた。魔物最強って感じで」
「強いことは否定しないが、抜きん出て最強ということはないな。我を含め同等の戦力を持っている魔物もそれなりにいるし、なんなら件の同族のほうが純粋な火力だけで測ればはるかに強い」
オルカの同族ヤベー奴じゃん。
「ただ、女帝と比肩するような魔物は基本的に彼女と争うようなことはしない。不毛な消耗戦になるだけで得られるものも無いからな。大体は我等の種と同様に協力関係にあるはずだ。件の同族も女帝と好き好んで喧嘩をすることは無いだろう」
へー。同族さん一応ヤバイなりに理性はあるのかな。楽しいことは好きだけど喧嘩は嫌いって性格なのかな?
ネッシーも女帝と協力関係にあるのかな? 女帝の代わりに森の魔物を見ているって言っていたし。
「貴方は影魔法以外の魔法は全て使えるのでしたか?」
「ああ。ただ空間転移はあまり得意ではない。一々時間と場所と出現高度を指定して術式を構築するのが面倒臭い」
空間転移ってそんな面倒なことしないといけないの!? 出現高度って何!? 必ず地面に出られるわけじゃないの!? もしかして空中に放り出されることとかある? しかも時間指定もあるの?
父さんポンポン使っていたけど、そんな難しいことをしていたのか。
オルカの話だったはずなのに父さんが規格外なことを知ってしまった。
「地面を動かしていいなら早いのだが」
「レギュレーション違反です。それこそ貴方が女帝に吹き飛ばされますよ」
「それが問題なのだ」
なんかすごいことを話している気がする。オルカ地面動かせるの?
ロボに続いて食べ終わったらしいアースが肩に登って顔を覗き込んできた。
「ギュ?」
「お兄ちゃんは今日何していたの?って」
「俺? 俺は……あ」
神官さんにバレたのすっかり忘れていた。何も手を打っていないどころか父さんに連絡すらしていない。あー……どうしよう。いや、もうどうしようもないな。なるようになれ。
海洋生物+武器が槍+超強い+女帝と張り合えるヤベー同族=……?となりそうですが、主人公の中ではシャチはキラーホエールorオルキヌスオルカという魔物なので何にも繋がりません。
レディがそのままオオメジロザメだった前例があるから一切疑っていない。




