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 私はどうやら、正式に聖女と認定される事になるらしい。

 お偉い様に呼び出されたかと思うと、もう少し遠まわしで装飾過多な表現でそのような事を告げられた。

 後日、認定の儀が執り行われるとのことだ。


「聖女なんて、ガラじゃないんですけどね」


「貴方ほど聖女に相応しい人間はいないと思うが」


 ふと溜息混じりに零せば。

 ほとんど間を開けず、本気でそう思っているのであろう事が伺える声で返されて。

 きょとりと見上げれば、真直ぐ過ぎる瞳が私を映す。

 目を逸らし、まあ多少珍しい能力は持ってますけど、と苦笑して。

 そのまま歩き出せば、何か言いたげな気配を纏つつ、じっと此方を見下ろす視線がついて来る。


 何度か角を曲がり、ふと人の気配が途切れたところで、ぽつりと。

 この剣で切れなかったのは、貴女が初めてなんだ、と。

 そう言って聖騎士様は、ごく僅かに頬を緩めた。

 それが、この人にとっての最大限の笑顔なのだろう。


 聖騎士様の様子から色々と察するものがあり。

 おっと、これは……と眉を下げた。

 そんな風に言われると、後ろめたさを感じてしまう。

 私が無事なのは、まあ、ズルをしたからだ。


 悪しきものだけを切るという、断罪の光。

 その判定の基準は、何なのだろう。

 分からないが、あのまま普通に切られていたら、きっと私は死んでいたと思う。


「悪しきものじゃなかったとしても、善いものだとは限らないですよ。人の心も、生き方も、綺麗に分類できるものじゃないでしょう」


 そう言えば、聖騎士様は何とも言えない困ったような顔をして。

 私には、難しいことは理解できん、と。

 そんな脳筋な答えに、思わず小さく吹き出してしまった。


 この人の世界には、善と悪しかないのだろう。

 単純で、真っ直ぐで、堅い。

 その考え方に賛同はできないけれど、分かりやすくはある。


 ・・・・


「君には明日、死んでもらう」


 聖女認定の儀とやらを翌日に控えたその夜。

 例によって部屋にひょこりと現れた男が、にやりと悪い笑みを浮かべ、そんなことを言ってきたので。


「あ、はい」


 分かりました、と、そう頷けば。

 可愛げのない反応だなと、男はわざとらしく唇を尖らせ拗ねてみせた。

 まあいい、と呟きながらベットに横たわり、自分の部屋かのように寛ぎはじめる図々しさよ。

 此方もそれに慣れきってしまっていて、今更文句を言う気にもならないのだが。


 さて。

 とりあえず明日、私は儀式の最中に、襲撃者に襲われて死ぬ。

 と、いう事になった。

 細かい段取りや事後処理等は、全て男が引きうけてくれるそうだ。


 どうも、男の言葉の節々に含みやら何やらを感じたので、恐らく「聖女の死」を上手い事利用して何らかの美味みを得ようとしているのだろうな、と。

 何となしに察して、けれど別にそれを咎めるような気にもならず。

 むしろ、この男なら本当はもっと上手く私という存在を利用するなり踏み台にするなりできたはずで。


「……何だ」


 不意に胸に湧き上がってきた感謝の気持ちを込めて、頭を撫でておいた。

 訝しげな顔を作るくせに、避けるでもなく撫でられつづける男に。

 分かりにくいようで、意外と分かりやすいな、と、ちょっと笑った。


 ・・・・


 そうして迎えた翌日。


 今まで着ていた真白修道女服にレースやら金の刺繍やらがプラスされた感じの、豪華な聖女様仕様の服に着替え。

 いつもの如く聖騎士様に付き添われながら、騎士様方がずらりと立ち並ぶ花道を通りぬけ、大聖堂の真中へ。

 定められた位置で聖騎士様は足を止め、そこからは一人、静々と足を進めていく。

 祭壇の前に立ち並ぶお偉いさん達の前で足を止め、教わった通りの作法で跪いた。


 そして。

 直後、私の体に無数の刃が突き刺さる。

 血飛沫が、目の前に立っていた大司祭様の足元を汚した。

 硬直、次いで、混乱。

 悲鳴や怒号が飛び交い、人々は訳もわからず逃げまどう。


 騒ぎを鎮めようと騎士が動くが、半狂乱になった人々を落ちつかせるのは容易ではない。

 混乱の場にあって、周囲の人々の行動を全て把握できる者はいないだろう。

 その上、周囲の目を誤魔化すための対策をしてあるとすれば、なおさら見咎められる心配はない。


 だから私は堂々と、人々の間をすり抜けて、教会の外へと走った。

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