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荒れ狂う魔力に肌を焼かれ、はっと意識が覚醒した。
防衛本能に従い、自分を中心に周囲を結界で覆う。
直後、魔力の爆発によって闘技場の床が吹き飛んだ。
こんなにも壮絶な魔力を感じたのは初めてだ。
クレーター状に抉れた地面の中心には、青年が一人。
満身創痍といった様子の青年が、がくりと地面にへたり込み。
それと同時に、ふっと魔力が霧散して。
そこで、やっと、何が起きたのかをぼんやりと理解した。
地面の抉れ方から見て、おそらく殆ど暴走状態で魔力が放出されたのだろう。
放出というより、爆発と言った方が良いか。
追い詰められた状態での、無意識または意識的な……
と、何となく状況について考察していたが。
ふと途中で、別に深く考える必要はないな、と気づいて思考を止めた。
ようは、決着がついた、ということだろう。
まあ、なんだ。
気絶している間に全て終わっていた、という。
ちょっと残念なような、変に気を揉まないで済んで良かったような。
何とも言えない気分だ。
ふっと、吐息が肩にかかり、腹に回されていた腕が解かれる。
振り向けば、思わぬ近さに男の顔。
どうやら男の膝の上に乗せられていたらしい。
そのことに何かを感じるよりも早く、いやに優しい手つきで膝の上から下ろされた。
カチリ、と。
床に足がつくと同時に首輪が外れ。
自由になった首元を、男の手がするりと撫でていく。
楽しそうに、俺の負けだと笑い、ひらひらと手を振る姿に。
何故か少しだけ揺らぐ胸の内を悟られないように、出来るだけそっけなく背を向けた。
数歩進んでから、ふと足を止める。
一瞬迷い、さよならと、振り返らずに一言だけ囁いた。
後ろで声なく笑う気配には、気付かぬフリをする。
「私の負けだ。約束通り、私が所有している奴隷は全て開放しよう」
そう叫ぶ男の声と、それに応じて上がった雄たけびも。
男へと向かう無数の殺気も。
解放された魔族たちが、どういう行動に出るのか、なんて。
いつの間にか、自分の中に、ほんのり芽生えていた情のようなものにだって。
気付いては、いけない。
私はただ、何でもない顔をして、前に進めばいい。
あの男は悪だ。
けど、嫌いでは、なかった。
別に、だからどうと言うわけでもないけれど。