表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/45

10

 荒れ狂う魔力に肌を焼かれ、はっと意識が覚醒した。

 防衛本能に従い、自分を中心に周囲を結界で覆う。

 直後、魔力の爆発によって闘技場の床が吹き飛んだ。


 こんなにも壮絶な魔力を感じたのは初めてだ。


 クレーター状に抉れた地面の中心には、青年が一人。

 満身創痍といった様子の青年が、がくりと地面にへたり込み。

 それと同時に、ふっと魔力が霧散して。

 そこで、やっと、何が起きたのかをぼんやりと理解した。


 地面の抉れ方から見て、おそらく殆ど暴走状態で魔力が放出されたのだろう。

 放出というより、爆発と言った方が良いか。

 追い詰められた状態での、無意識または意識的な……

 と、何となく状況について考察していたが。

 ふと途中で、別に深く考える必要はないな、と気づいて思考を止めた。


 ようは、決着がついた、ということだろう。


 まあ、なんだ。

 気絶している間に全て終わっていた、という。

 ちょっと残念なような、変に気を揉まないで済んで良かったような。

 何とも言えない気分だ。


 ふっと、吐息が肩にかかり、腹に回されていた腕が解かれる。

 振り向けば、思わぬ近さに男の顔。

 どうやら男の膝の上に乗せられていたらしい。

 そのことに何かを感じるよりも早く、いやに優しい手つきで膝の上から下ろされた。


 カチリ、と。

 床に足がつくと同時に首輪が外れ。

 自由になった首元を、男の手がするりと撫でていく。

 楽しそうに、俺の負けだと笑い、ひらひらと手を振る姿に。

 何故か少しだけ揺らぐ胸の内を悟られないように、出来るだけそっけなく背を向けた。


 数歩進んでから、ふと足を止める。

 一瞬迷い、さよならと、振り返らずに一言だけ囁いた。

 後ろで声なく笑う気配には、気付かぬフリをする。


「私の負けだ。約束通り、私が所有している奴隷は全て開放しよう」


 そう叫ぶ男の声と、それに応じて上がった雄たけびも。

 男へと向かう無数の殺気も。

 解放された魔族たちが、どういう行動に出るのか、なんて。

 いつの間にか、自分の中に、ほんのり芽生えていた情のようなものにだって。

 気付いては、いけない。


 私はただ、何でもない顔をして、前に進めばいい。


 あの男は悪だ。

 けど、嫌いでは、なかった。

 別に、だからどうと言うわけでもないけれど。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ