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芸能事務所『スターライト・ユニバース』本社。
都内一等地。
超高層ビル。
社長室。
そこで。
「のだぁあああああああああああああああ!!」
大泣きしている男がいた。
社長。
田中レイ。
二十五歳。
イケメン。
超絶ボンボン。
そして。
芸能界を舐めていた男である。
「デキ婚なのだぁあああ!!」
机を叩く。
「薬物なのだぁあああ!!」
ソファを叩く。
「熱愛発覚なのだぁあああ!!」
床を叩く。
「ネット炎上なのだぁあああ!!」
観葉植物を叩く。
「不倫なのだぁああああ!!」
ついに絨毯に突っ伏した。
「うぇえええええええん!!パパのお馬鹿ぁあああ!!絶対嫌になって吾輩に押し付けやがったのだぁああああ!!」
その横で。
秘書の田村は無言だった。
「社長」
「なんなのだぁ」
「まだあります」
「嫌なのだぁ」
「聞いてください」
「聞きたくないのだぁ」
「アイドルグループのセンターがファンと同棲していました」
「のだぁああああああああ!!」
「人気俳優が深夜の路上で泥酔していました」
「のだぁあああああ!!」
「若手女優がSNSで一般人と大喧嘩しています」
「のだぁあああああ!!」
「ベテラン歌手が生放送で放送禁止用語を言いました」
「のだぁああああああ!!」
「あと所属タレントが社長の悪口を配信で言っています」
「誰なのだぁ!?」
「全員です」
「うぇええええええん!!」
レイは泣いた。
本気で泣いた。
そもそも。
レイは芸能界に興味などなかった。
父親が引退した。
そして言った。
『レイ。お前に会社をやる』
『やったのだぁ♡』
『芸能事務所だ』
『嫌なのだぁ』
『頑張れ』
『嫌なのだぁあああ!!』
こうして。
押し付けられたのである。
そして一年。
レイは理解した。
芸能人は。
問題を起こす。
ものすごく起こす。
想像以上に起こす。
「普通にしてればいいだけなのだぁ!!」
会議室で絶叫した。
「どうしてできないのだぁ!!」
幹部たちは静かに目を逸らした。
ベテランマネージャーが呟く。
「社長」
「なんなのだぁ」
「芸能人だからです」
「意味がわからないのだぁ」
「普通の人は芸能人になりません」
「のだぁ?」
「普通の人は目立ちたがりません」
「なるほどなのだぁ」
「普通の人はSNSで喧嘩しません」
「なるほどなのだぁ」
「普通の人は夜中に配信で歌いながら泣きません」
「なるほどなのだぁ」
「普通の人は突然海外移住しません」
「なるほどなのだぁ」
「普通の人は元恋人との暴露合戦をしません」
「のだぁああああああああ!!」
レイは机に突っ伏した。
数日後。
さらに事件が起きた。
「社長」
「もう嫌なのだぁ」
「まだ言ってません」
「聞きたくないのだぁ」
「所属アイドルが突然引退しました」
「のだぁ」
「理由は世界一周したいからです」
「のだぁ」
「そして三日後に復帰しました」
「のだぁ?」
「世界一周に飽きたそうです」
「のだぁああああああああああ!!」
別の日。
「社長」
「なんなのだぁ」
「人気女優が熱愛報道です」
「結婚するなら別にいいのだぁ」
「相手が三人います」
「のだぁ?」
「記事によって違います」
「のだぁ?」
「本人も誰の記事かわからないそうです」
「意味がわからないのだぁあああああ!!」
さらに。
ある日。
レイはテレビ局に呼ばれた。
謝罪会見である。
主演俳優が炎上した。
なぜか。
本人が来ない。
「どこなのだぁ?」
「沖縄です」
「なんでなのだぁ?」
「釣りしてます」
「会見あるのだぁあああ!!」
「電話しました」
「なんて言ったのだぁ!?」
『魚が釣れそうだから無理です』
「うぇええええええん!!」
レイは代わりに謝罪した。
芸能記者たちに囲まれる。
「社長はどうお考えですか?」
「吾輩も知りたいのだぁ」
「再発防止策は?」
「吾輩も知りたいのだぁ」
「管理責任については?」
「吾輩も知りたいのだぁあああ!!」
翌日。
ネットニュース。
『正直すぎる社長が話題』
『なぜか好感度上昇』
『疲れ切った若社長に同情の声』
レイはさらに泣いた。
「なんで吾輩だけ働いてるのだぁあああ!!」
すると。
秘書の田村が新聞を見せた。
「社長」
「なんなのだぁ」
「好感度ランキングです」
「嫌なのだぁ」
「社長が一位です」
「のだぁ?」
「所属芸能人全員より上です」
「のだぁ?」
「国民が社長を応援しています」
「のだぁ?」
「苦労人枠です」
「嫌なのだぁあああああ!!」
数か月後。
さらに事件。
さらに炎上。
さらに謝罪。
さらに問題。
レイはどんどんやつれていった。
「もう嫌なのだぁ……」
社長室。
魂が抜けている。
そこへ。
所属女優たち。
歌手たち。
アイドルたち。
俳優たち。
大量にやってきた。
「社長ー」
「お腹空いたー」
「社長ー」
「ご飯連れてってー」
「社長ー」
「相談あるー」
「社長ー」
「新曲聞いてー」
「社長ー」
「新しい彼氏できたー」
「聞きたくないのだぁあああああ!!」
絶叫。
しかし。
全員笑っていた。
「社長面白いし」
「怒らないし」
「なんだかんだ助けてくれるし」
「優しいし」
「一番まともだし」
「パパみたいだし」
「のだぁ?」
レイは固まった。
そして。
気づいた。
問題児だらけだが。
なぜか。
全員。
レイを頼っていた。
「……のだぁ」
少しだけ静かになる。
その瞬間。
スマホが鳴った。
ピロン。
田村が確認する。
「社長」
「なんなのだぁ」
「速報です」
「嫌なのだぁ」
「所属アイドルが生配信中です」
「のだぁ」
「結婚発表しました」
「のだぁああああああああああああああ!!」
再び絶叫が事務所中に響いた。
「もう嫌なのだぁあああああ!!芸能界なんて嫌なのだぁああああ!!吾輩は牧場でも経営するのだぁあああ!!」
しかし翌日。
また普通に出社した。
なぜなら。
問題児たちは今日も元気に問題を起こすのである。
そして。
そのたびに。
「のだぁあああああああああああ!!」
という社長の悲鳴が本社ビルに響き渡るのだった。




