四十話:一件落着
俺はいつもより遅い時間、日も上り切った朝に目が覚めた。
大きく伸びをして息を吐く。そしてのんびりと、朝の支度を始めた。
魔王の討伐から十日ほど。最近では珍しくもない、気分の良い朝だった。
適当に準備を終えて、すっかり平和になった外を眺めようとして――。
「ライル!ライルー!」
突如、部屋のドアが叩かれる。
「起きてるぞー」
俺がそう返すと、部屋のドアが乱暴に開かれた。そこにいるのはメアリーだった。一人のようだ。
「ライル!た、大変よ、今とんでもないことが」
「あーあーりょーかい、そりゃ大変だったな。でも俺も朝日を見るので忙しくてな……」
「そんな事やってる場合じゃないの!」
何がそんな事だよ、大事だろ日光浴。
俺がそう思っているのを気にもせず、メアリーは続けて捲し立てた。
「今『呪詛師』メイジー様が来てて、いや、その端末が、ちっちゃい子供みたいで。それで」
「メイジー・メイジーと呼べと怒られなかったか?」
「い、言われた……でもそれはどうでも良いの!とにかくあの人が言うには、トーファとライルが狙われてるのよ!」
そう叫ぶメアリーに俺は思わず面食らった。
狙われるなんて、全く予想外だ。俺はともかく、トーファは特に悪いことなんてしていないはずだが……。
……そもそも、なんでメイジーがこんな街に来てるんだ?だめだな、頭がすっかり平和ボケしている。今は何も考えたくない。
「あー、メアリー、落ち着けよ。狙われるっつったって誰が俺たちに勝てるんだ?そもそも心配なんかする必要ないだろ……」
「国読み様がトーファとライルを殺そうとしてるって言ってたのよ!未来が変わるからとかなんとか――」
「はあ!?ちょ、ちょっと待て」
国読み?国読みが俺たちを狙ってる?それは……まずい。すごくまずい。
「なんでそんな大事な事をさっさと伝えないんだ!?こんな所でのんびりしてる場合じゃないぞ!」
「だから!私は!それを伝えようと……!」
ぎゃーすか騒ぐメアリーを無視して、俺は思考を巡らせる。俺はひとまず、ポカポカ殴ってくるメアリーを連れて部屋を出ることにした。
***
リビングに降りると、チックとトーファは既にそこにいた。
三人から改めて話を聞き、それを整理する。
まず、メイジーは明け方、まだ日も出ていない明朝に訪れたらしい。
その体躯は小さく、メイジー本人が言うには端末であるとの事だった。
さて、メイジーの本体は今帝国中心、皇城にいるらしい。そこで開かれた緊急会議の内容が問題だったらしい。
つまり……国読みが見た帝国五万年の繁栄の未来を変えかねないトーファの存在についてだ。
国読みはひとまずトーファと、ついでに俺を拘束、それから処遇を決めるとの事らしかったが、十中八九無期限拘束か、死刑になるだろうとの事だ……。
メイジーはそれだけ伝えて時間が無いとか言って帰ったらしい。何故俺に直接伝えない……。
「……それで、どうするか……」
「どうするって、決まってるでしょ!そんなの拒否よ拒否!」
「僕も同じ意見だよ、まさか何もしないわけ無いだろう?」
メアリーとチックは血気盛んだが、こいつらは国読みの恐ろしさを知らんからそんなことが言えるんだ。
あいつに本気で敵対を選ばれたら基本勝ち目は無い。しかし、よく分からんが国読みの未来視を外させることが出来るトーファがいるから……。勝率は高い、か?
だが相手はこの帝国全てを支配する国読みだ。単純な戦力的に勝ち目が無い気もするが……。
かねてから準備を進めていた国読み抹殺計画はまだ準備不足だ、後八年は必要だしな。
息をゆっくり吐き、三人を見る。さて、どうするか……狙われているのが俺とトーファなら、メアリーとチックは関係無い、国読みに従った方が良いかもしれん。
そう考え、俺が口を開こうとすると……。
「私の魔術なら国読みさんの予知を外せるから、皇城に行って暗殺するのが良いと思う。指名手配でもされると普通に暮らすのも難しいし……」
トーファが物騒な事を言い出した。
衝撃で何も言えない。誰だ、トーファをこんな暴力的に育てたのは……!?
「皇城の警備は?普通の兵士なら良いけど、トールさんやメイジーメイジーさんがいると難しいと思うよ?」
「帝国七英傑は基本的に皇城にはいない、任務で外に出るのがほとんど。テスタの空間魔術と精霊なら皇城に貼られてる魔術結界を無視して空から侵入できるはず」
「対空術式の防御は任せて」
俺を置いてさっさと話を進める三人に思わず眉を顰める。
計画が詰められ、置いてけぼりの俺に、トーファが不意にくるりと振り返り不安そうに声を出した。
「それで……これで計画に穴は無いと思うけど、どうかな?お父さん」
そんな風に、すっかり自立した……思っていた自立の仕方と違うが……自立したトーファに、俺はため息を吐いた。
「国読みの未来視に対する警戒が足りないな、トーファの魔術で外せるとしても、大まかには当ててくるだろ、なら俺たちが国読みを襲う未来は見えているはずで、それなら皇城の警備に帝国七英傑が駆り出されるはずだ。だから――」
言いながら、本当にこれでいいのか?と不安になる。
何かもっといい方法があるんじゃないだろうか?
つらつらと計画の穴を述べながら、俺はなんとなく、にへらと笑った。
(ま、なんとかなるか……)
不安も、心配も、三人を見ていると無くなってしまう。
俺に何が出来るとか、そうじゃなく、この三人が協力してくれるなら、きっとなんとかなる。そう信頼できる仲間に、俺は恵まれた。
なら、大丈夫だ。
俺は国読み抹殺計画を話しながら、自然と笑みをこぼした。
……ちなみに後日、国読みが俺たちを狙っているというのは全くの誤りである事が判明したが、まあそれは別の話だ。メイジーの早とちりだったらしい。全くアホらしい。
ともかく、俺は平和に暮らしてる。メアリーに怒られ、チックにツッコミを入れ、トーファと他愛のない話をする……。
このバカみたいに楽しくてバカみたいにありふれた日常を。
という訳で完結です。何か感想などあれば是非ください。喜びます。20260414




