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番外小話置き場  作者: わやこな
手先の手先
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神様の手先の手先 おまけ小話

本編前軸の小話。

シギのお節介もあってズヤウが寄越された、些細な理由の話。

【偉大なるシギさまのお節介な思いつきの話(本編前軸)】




 ちりん。

 小さな鈴を軽くつまんで振る。

 あまねく見守る我らが星の神マネエシヤの鳴らす清浄な音とはほど遠い。だが、かなり近い領域に辿り着けることができたその音。数百年単位で改良してきたというのに、何が足りないのだろう。

 手慰みにと始めた道具作りは、シギが予想していた以上に楽しく、今では立派な趣味となっている。

 茫洋と意識を彷徨わせてゆるく瞬きをしていると、いくらか呆れ返ったような声が思考に割り込んできた。


「シギ様、おはようございます。朝もとうに過ぎています」


 覚醒したてのままぼんやりと起き上がる。声の方を向けば、もぞもぞと布の塊が動いていた。いや、違う。あれは小間使い兼弟子だ。山程もある布の塊を部屋の中のソファに適当に放り込んでようやく姿を見せたのは、年若い青年だった。

 珍しい毛色をした青年は、シギが拾ってかれこれ百余年。それでもなお、そのままの姿でいるのは、シギたちと同じ存在であるから……というわけではなく、小さな存在である人間たちの涙ぐましい研究の成果とシギの気まぐれの結果であった。


(ああ。しかし、思えば……案外、いい拾いものであった)


 適当に切りそろえられたざんばら髪は鋼を思わせる鈍色。容姿の中でもひときわ目を惹く瞳は、静かな夜から鮮やかな朝焼けへと色が変わる。世にも珍しい魔力を乱す魔眼だ。

 その異常さは、瞳をよく観察すればわかるだろう。瞳孔は、蛇を連想させる縦に長いもの。人間ではない異形の獣の眼は、シギもお気に入りの宝石のようなものである。

 しかし、当人はそれが嫌なようだ。人の世の内乱が終わってシギの元に来て早々、自分の目をえぐろうとしていた。どうせえぐったところで、シギの手で元に戻されるだけだというのに。そもそも、自分の気に入りを勝手に損なうのも気にくわない。勿体ないので傷ついた方の目玉は透明な筒に入れて保管し、アセンシャに自慢をしたものだ。

 結果的にシギは新たな目玉という宝物を得られたが、ズヤウは「シギ様が必要であるのなら」と、何度も懲りずに潰そうとしたりえぐろうとしたりするのはいただけない。希少価値があるからこそ、よいものなのである。仕方なしに、シギは自身が作成した道具から目隠し布を渡してやった。以来、極力瞳を晒さずに生活をしている。


(蔵番のカイハン曰く、人は心の整理が必要である、だそうだが……相変わらず手間の掛かる生き物だ)


 上位者でもあるシギに、交渉を持ちかけた人の中でも図抜けた傲慢さと胆力が気に入った男であるカイハン。そのまま消すのは惜しかったので、シギがちょうど造っていた鳥の頭像に魂を入れ込んだ存在。面白おかしく愉快な様は、シギの無卿を慰めるよい人材だった。頭も良く、口も回り、気も効くために世界に点在するシギの宝物管理を任せているが、身の回りの些事をしているズヤウと合わせて非常に便利な小間使いである。精神面がもう少し快復したなら、ズヤウももっと適当に扱ってもよくなるはずだとシギは企んでいる。


「シギ様」


 最近、シギの考えや行動を予測して咎めるようになったズヤウに再度声を掛けられて、適当に手を振る。面倒見が良い男だが、こういうところは少々うるさいのだ。


「……ああ、ズヤウ。なにかな、それは」

「シギ様がほったらかしにしていた、土の国からの貢ぎ物ですよ。前に礼は端麗な布地がいいと言っていたでしょう」

「ふむ?」


 言われて思い出す。

 金銀財宝なんて、腐るほどあるし作れるのだからと適当に所望しておいたのだ。気まぐれに世に道具を放ったり、人の子の騒ぎに口出しをしているものだからすぐに忘れてしまう。呆れたように言ったズヤウが運んだ布地は、なるほど、まあまあの良品だ。


「そもそも人が作った布は、シギ様の目に適うのですか? それに、布なんて何に使うのです」

「素材はともかく、よりよい腕前は買うとも。使い道は……いろいろとある」

「シギ様がいくら器用でも、服を繕うならもっと良いものや男向きの柄ものでしょうに。これでは女物の……」


 ズヤウは黙った。

 そして静かにシギの方を顔が向く。心なしか軽蔑を思わせるような声色となっている。


「西の御方ですか」

「……いや、まあ、アセンシャは女の形をとっているし、服はいくらあっても困らんだろう? それに、まあ、各地の素材も持ってて損はないはずだ」

「シギ様、それ前回のアクセサリーでも同じこと言っていましたが。今度は何をして機嫌を損なわれたんです」


 懲りない方だ。言外に言われて、シギは、ベッドから跳ね起きた。掛け布を払って立ち上がり、片付けをするズヤウに詰め寄る。


「アセンシャは少々怒りっぽくてかなわない。そうは思わないか?」

「思いません。いい加減、西の御方のためのご機嫌取りに何度も巻き込むのをやめていただきたい。カイハンも管理に困るでしょう」

「管理? 宝は多くて当たり前では? それに多くても良いだろう? 宝だぞ?」

「限度があります。僕らの手は有限です。この間、廃棄された宝の山かと思われて、賊が侵入してお怒りになられ、一山潰したのはシギ様ですよ」


 ズヤウは、最初拾った頃と比べて、とてつもなく口が回るようになった。あのびくびく怯えて人間不振だった様子の欠片もない。本人曰く、反面教師ですといってシギを見ていたが、はなはだ疑問である。

 そして百年単位の付き合いともなれば、シギの行動も思考もある程度は把握したのだろう。現に、シギの言おうとすることも察してくれることがある。ますます便利である。ズヤウに言わせれば、経験から嫌でも学びました、とのことだ。おかげでここ数十年は快適に過ごすことができている。真面目な弟子は、呆れた顔をするもののきちんとシギの話に耳を傾けて動いてくれるのだ。


「あれは、私のものを取ろうとしたから当然の報いだ」


 弁明しようとすれば、ズヤウは片付けを終わらせて指先を部屋の入り口に指し示した。


「ともかく。シギ様が襲撃した件について、様子見をしてまいります。その間にでも、とっとと西の御方のご機嫌をとってください」

「ズヤウ、お前がたまには行ってみるのもよいのでは?」

「なに言っているんですか。西の御方は美しいものが好きだと聞いています。余計に不興を買う羽目になります」


 口だけで苦笑いをして、ズヤウは部屋からさっさと出て行った。軽い調子で言ってみせたが、まだまだあの調子を鑑みるに傷の根は深い。

 いい男なんだが、とシギは思う。上手い具合に良い相手が現れたなら、一つ祝福をかけてやるものを。相変わらず人々と一線を引いて、踏み込まないようにしているようだ。

 頭を掻いて、部屋をぐるりと見回す。丁寧に畳まれた洗濯物が目に入った。家事能力抜群に育ってしまったのは、己の教育の成果だろう。うんうんと一人満足にうなずいて服に袖を通してバンダナを巻く。重たい腰をあげて、シギは部屋のドアをくぐった。


(相手探しの占は、アセンシャの得意分野だったか)


 ズヤウが考えを見通せるなら、余計なことをと憤ることを考えてシギはにこりと微笑んだ。





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