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番外小話置き場  作者: わやこな
万屋荘
16/43

それからの、万屋荘4

『万屋荘は、にぎやか』の本編後日談。佐藤原バ美肉してた……な、とりとめのない一コマ小話。


【203号室、五年半後】



 佐藤原の部屋、203号室へお呼ばれをされた。

 そして、丁重に部屋の中へと案内された。

 用件は簡単なお願いらしいので、管理人である祖母の吉祥に一任された皓子が赴いたのであった。顎先で促されたともいう。


 佐藤原の先導につづいて相変わらず何もないリビングを抜け、物にあふれた個室へとさらに進む。いかにも宇宙船の中みたいな空間へと改造している部屋は、どうやって拡張したのか見知らぬ機材が増えていた。

 一番の注目が行く部屋の正面に鎮座する大画面には、いつも映っていたゲーム画面ではなく、なんらかの待ち受け画面が表示されていた。皓子が両手を広げても足りないくらいの幅もある画面には、現在時刻とかわいらしいキャラクターが動いている。

 アニメは詳しくない皓子でもピンとくるような、どこか見覚えのあるデザインだ。


(あ、マホマホ。それにカワウソに……あれはノルハーンさんに似てるかも? うん? じゃあ、隣は世流さん?)


 入れ替わり立ち替わり現れては去るキャラクター。万屋荘の住民たちをうまくデフォルメして等身を下げた可愛らしい姿に見える。

 そう思って見れば、吉祥らしきキャラもいたし、皓子に似たキャラとアリヤに似たキャラが歩いている。


「佐藤原さん、これは?」


 手狭な個室内で、皓子の後方に控える佐藤原は機材をチェックしている。おなじみのスーツケースからおそらくキーボードの役割を果たすのだろう半円のパネルを空中に広げていた。佐藤原の手先が器用に動くたびに、画面に背景や効果が追加されて変化する。

 皓子の質問に、顔だけ上げた佐藤原は淡々とした口調で質問に答えた。


「お察しのとおり、万屋荘の皆様です。もちろん、許可はいただいています。織本皓子さんも了承したもののはずですが」

「……ああ!」


 思い出した、と手をぽんと打つ。

 田ノ嶋と飛鳥が結婚をするにあたって、佐藤原がプロデュースしていた魔法少女番組も休止となった。そのため、しばらくは趣味と仕事に邁進することにしたという宣言が万屋荘のグループトークでなされたのだった。

 ついては、最近流行りの二次元モデル作成でもしてみたい。モデルにしてもよいか。

 そういったお伺いの連絡が宣言とともにあって、みんなが一つ二つ返事で了承していた。蛇足だが、吉祥だけは対価次第だと言っていて皆の分まで契約を作っていた。さすがといえばいいのか苦笑いすべきなのか迷うところである。

 その結果がこのキャラクターたちなのだろう。

 感心して画面を眺める。


「よくできてますねえ」

「そうでしょう。今回は我が――星の技術もありますが、地球のバ美肉文化も取り入れているのです。こちらを」


 淡々とではあるが、どこか誇らしげな声で佐藤原が半円のパネルをなぞる。画面に眼鏡の美少女が現れた。

 どこか冷たさを感じるような、理知的な印象を与える整った容姿。藍色の髪をツインテールにして、ファンタジックで露出が多めの衣装に身を包んでいる。


「こちら、私です」


 冷静に言ってのけた佐藤原に、皓子は思わず画面と佐藤原を二度見比べた。

 面影があるといえばあるような気もする。暗い髪色や眼鏡部分ぐらいだが。

 皓子の反応に、佐藤原は気にした様子もなく続けてパネルをいじった。そしておもむろに片耳からかけるマイクらしきものをつけて、声を発した。


「サアちゃんです。今回もよろしくお願いします」


 画面の美少女キャラが真顔で口を動かした。表情があまり変わらないところは佐藤原を基にしているからだろうか。そして声は佐藤原のまんまである。可愛らしいモデル造形のキャラが話すには違和感を覚えてしまう。だが、皓子の些細な驚きも続けて起きたことでさらなる驚きに塗り替えられた。


『サアちゃん、待ってた』

『ゲリラ配信かよ』

『いきがい』


 ほかにもいろいろな文章が大画面の右に羅列されて上へ上へと流れていく。チャットかそういったシステムなのだろう。

 そしてその言葉の数々はどれもこれも好意的である。いや、悪意のある言葉ははじいているのかもしれない。時折意味不明の言語が流れては、『モデレーター権限』とコメントがある。佐藤原が何かしているのだろう。画面を見ながら指先は別の生き物のように動いている。


「今日もまた、母星の虚無ゲームを遊びながら評価していきます。忌憚のないご意見ご感想をお待ちしています」


 佐藤原が話せばツインテールの美少女キャラであるサアちゃんもしゃべる。ゆるやかに右側のコメント欄も流れていく。もしかしなくてもすでに何度か行われていることなのかもしれない。反応は慣れた風だ。


「それから、この度はゲストをお呼びしました。ご愛好いただいている視聴者の方々が企画をしてはという声を採用して、個性豊かな協力者の方々をゲームを遊ぶ前に軽く紹介しようと思います」


 そう言うなり、佐藤原が皓子のほうを見た。そのまま見合って、首を傾げる。

 静かにマイクと腕輪らしきものを差し出された。一部が開口している腕輪は、流水のように動く光線が閉じ込められた金属製のワイドサイズだ。ジェスチャーではめるように指示をされて、なんとはなしに嫌な予感がしつつも受け取る。

 マイクはせず「お願いってこれのことですか?」と小さく尋ねれば親指を立てたグッドサインが返ってきた。


(……まあ、佐藤原さんにはいろいろお世話になっているし。恩を返す、とでも思えばいいかなあ)


 甘いと脳内の吉祥が叱る様子を浮かべながら、恐る恐る腕輪をはめる。

 すると、画面のサアちゃんの隣に新たなキャラクターが現れた。おそらく皓子がモチーフになっているだろう女の子だ。似ているといえば似ている。

 ふんわりとした黒髪のミディアムボブに、黒々とした丸い目。自分ながら可愛らしくデフォルメされている。とはいえ、隣に並ぶサアちゃんのきらきらしい容姿と比べるとかなりおとなしい。

 皓子が身じろぎすれば、画面の女の子も身じろぎした。


「母星の派遣員である私の協力者の一人……えー、なんと呼びましょう」


 佐藤原が言えば、コメント欄に突っ込みの言葉が流れていく。思わず小さく笑ってしまう。

 とんとん、と自分の耳に触れる動作をした佐藤原に、渡された片耳にかけるマイクを装着する。


「とりあえずお孫さんでいきましょう。私がお世話になっている住居管理者の孫です」


 ニッチな設定だという言葉に、どうやら皓子たちは架空の存在だと思われているようだとわかった。


「はじめまして。よろしくお願いします」


 言いながら、頭を下げる。反応に緊張したが反応は悪くない。皓子自身の体質も影響しているのかもしれない。おおむね好意的なコメントたちにほっと息を吐く。


「では続けて、お孫さんも交えて他の方の紹介を……」


 そうして佐藤原がパネルをいじりながら話す。画面ではサアちゃんがホワイトボードに写真を張りつけているのを皓子のキャラが手伝っている。なかなか凝っている。

 改めて紹介されていく万屋荘の住人たちは、どれもこれもよくできていた。コメント欄とともに感嘆の声をあげたり、感想を送るだけでも十分に楽しめた。一番人気だったのはやはりマホマホで、認知度も高かった。皓子は知らなかったが、これまでの佐藤原の母星で作られたゲームに何度か登場していたらしい。

 なにより淡々と実況や紹介をしていく佐藤原の技量もなかなかであった。適当な名前をつけつつも適格に人となりを説明しているので理解しやすい。運ゲーの神、派遣勇者、元皇女、兼業術師、幼女術師、管理人と、まあ誰が誰かとすぐにわかる。水茂だけは本人の希望でと注釈が入って、水茂様と呼んでいたが。

 そして客観的に聞いていても、大分現実離れしたメンバーたちである。宇宙人や魔法少女をはじめとして、異世界転移しつづける剛の者や逆に転移してきた皇族。元悪魔にその孫と元天使の息子。どう聞いても現実の出来事とは思われない。事実ばかりを言っているが、コメントにはどんな闇鍋設定だと笑われていて、そうだよなあと同意せざるを得ない。

 紹介が終わったところで、佐藤原はしみじみと言った。


「すごいですね、ネット上でもあなたの効果は抜群のようで」

「えっ、でもリア充うらやましいだとか言われましたけど」

「ある種の賞賛です。自分で得られないものを恨めしく思いつつも祝福しているのです。効果は出ているでしょう」


 もちろん効果なんて、皓子たち以外には通じないだろう。疑問のコメントには佐藤原が簡単に「未知のパワーです」と返している。実に和気あいあいとした交流に、宇宙人ながら非常になじんでいると感心してしまう。


 それからほどなくして始まる佐藤原のゲームプレイをコメントともに賑やかしていけば、時間はあっというまに過ぎ去った。


「それでは、今回はこれまで。次回もお付き合いください」

「お疲れさまでした。楽しかったです」


 サアちゃんの別れのあいさつに便乗して言えば、温かいコメントに送られて画面が切り替わった。キャラクターに対しての誉め言葉だろうが、『可愛い』や『癒される』は照れ臭く感じてしまう。普段アリヤに言われていても見知らぬ不特定多数の人からの言葉は戸惑うものだ。

 どきどきしていた心地を落ち着かせていると佐藤原が上機嫌に声をかけてきた。


「初めてながら、なかなかでした。また次もあればよろしくお願いします。御束アリヤさんも呼べればご一緒に。運ゲーの神がいれば、我が社の虚無のごときゲームでもましな見せ場が作れるはずです」

「あはは……アリヤくんが良いって言えば」

「ふむ。ご予定をうかがうメールでもお送りしておきましょう」


 相変わらず行動が早い。パネルをそのまま操作して、スーツケースへと道具をしまっていく。


(まあ、アリヤくんなら了承してくれるかなあ。たぶん)


 将来的には宇宙産業や支援事業関係に就くつもりらしいアリヤは、佐藤原とも良好な関係を築いている。佐藤原も佐藤原で運の良いアリヤは大変に便利のいい人員とみなしており、企業に好待遇で招くことも考えているようだ。図らずも就職難からは逃れているあたり、やはりアリヤは運がいい。

 今日の用件はこれまでで、と佐藤原に謝礼がわりにクーポン券や自社製のゲームを握らされて部屋から出る。

 隣の202号室をちらりと見る。当の住人である飛鳥は不在だ。秋のシルバーウィークに合わせて田ノ嶋の実家へ、田ノ嶋と二人で畑の収穫手伝いに行っているらしい。田ノ嶋の実家はちょっとした土地持ちの農家なのだ。お土産には秋の作物のお裾分けをするとのことなので、楽しみにしている。


(なんにせよ、佐藤原さんが楽しそうでよかった。またひと悶着あるとばばちゃんも水茂も騒いじゃうし)


 楽しかった気持ちのまま帰宅をして、玄関をくぐる。

 なお、佐藤原が流行らしいバ美肉をして美少女になって万屋荘の住民をモチーフにしたキャラクターと母星のゲームを評価しつつゲームしていると報告したところ、珍しく思考処理に戸惑う吉祥の姿が見られた。






***




【謎技術の塊】サアちゃんねるについて語るスレ8



501名無しの一般視聴者

また惜しくもない人をなくしてしまった……


502名無しの一般視聴者

宇宙人に管理されてるディストピアだからね、しょうがないね

悪いこと言うみんなはナイナイされちゃうよね、しかたないね


503名無しの一般視聴者

サアちゃんねる謎の治安の良さで居心地いいから好きだよ


504名無しの一般視聴者

今日の虚無ゲーもなかなかだったな。どうやってあそこまでつまらないゲームを見つけてこれるか不思議だわ。アーカイブ探っても出てこないし


505名無しの一般視聴者

そりゃ宇宙人産よ


506名無しの一般視聴者

お孫さん回楽しかった


507名無しの一般視聴者

自称一般庶民Aを名乗る運ゲーの神回もいいぞ


508名無しの一般視聴者

>>507

豪運はすごいけど、独り身にはつらい回だろ


509名無しの一般視聴者

あれ中の人がガチで付き合ってるやつ

俺は詳しいんだ


510名無しの一般視聴者

涙ふけよ


511名無しの一般視聴者

おや、わかりますか。また次回、再び二人をお呼びしますので、またよろしくお願いします


512名無しの一般視聴者

>>511

あっ、はい


513名無しの一般視聴者

所詮このスレも宇宙人の監視下……ってコト!?


514名無しの一般視聴者

そうだよ





必要最低限のマナーを守るように強制的に言論も統一され管理されるため、お行儀がいいサアちゃんねる。配信は不定期。ゆるい人気がある模様。

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