最後に一言
お兄様に言い負かされて項垂れるマティアス殿、口を真一文字に結び、娘の肩を抱く侯爵夫人、その腕の中ですすり泣くナターシャ嬢、真っ青な顔で俯くバロワン侯爵。
「それで、後はたしか…“今度は私達家族を陥れようだなんて”でしたか?これも丁寧に否定しなければわかりませんか?」
そして容赦ないレイモンド様。
ナターシャ嬢は小さく悲鳴を上げ、ふるふると首を振る。恐怖と緊張、そして泣いてしゃくりあげているあの状態では、上手く言葉が出ないのだろう。
「そうですか。では、いい加減四人とも罪をお認めになる、と解釈しても?」
レイモンド様の問いに、無言でこくこくと頷く四人。
「では騎士団長、あとはお任せしても?」
「ま、待ってくれ!最後に一言、ロベール伯爵令嬢に謝らせてほしい!」
そんなことを口にしたのは、バロワン侯爵だった。意外な申し出に驚いて目を向けると、一瞬で心が冷えるのを感じた。
目の奥で、嗤っている。
殊勝な態度を見せれば罪が軽くなるとでも思ったのか、近づいた私を何か害するつもりなのかわからないが、何かを企んでいるのはわかる。お父様とお兄様があの通り狸とキツネなので、そういった表情や空気には敏感なつもりだ。
「結構ですわ。口先だけの謝罪に意味はございません。本当に悔いているのなら、取り調べでは正直にお話しくださいな。今夜のような振る舞いでは、騎士の皆様に迷惑ですので。」
「な…小娘風情が、このワシが頭を下げると言っておるというのに…」
今度は顔を真っ赤にしてぷるぷると震えているバロワン侯爵。青くなったり赤くなったり、忙しいことだ。
お兄様の真似をして、敢えて煽るような言い方をしてみたのだが…化けの皮が剝がれるのが早すぎやしないだろうか。手間が省けて何よりだが、なんとも浅はかな。
「謝りたいと言った舌の根も乾かぬうちに、それですか。もう結構です。騎士団長、お願いします。」
「はい…連れていけ。」
バロワン侯爵一家は騎士たちに連れられて部屋を後にした。
「さすがはジュリアだ。よく彼の見せかけの謝意をはね除けたね?」
疲れてソファに掛けた私に笑いかけるのはお父様だった。
「なんとなくですけれど…彼が何か良からぬことを企んでいるような気がしましたので、お兄様の言い方を真似てみましたの。」
「ええ。恐らく私達の前で詫びる姿勢を見せて、減刑を図る算段だったのでしょうね。さすがはリアです。」
「酷いなぁ、ジュリア。僕そんなに意地悪じゃないよ。妹にそんな風に思われていたなんて…さすがに傷つくよ?」
全く傷ついていない様子で笑うお兄様。こんなやりとりも慣れっこだ。
「それは失礼いたしました。でも、おかげで彼の本性がすぐに出たのですから、許してくださいな。」
「そうだね、まさかあんなすぐに本性を出すとは僕も思わなかったよ。あんまりあっさり態度が変わったものだから、笑いを堪えるのが大変だった。」
「耐えると言えば、ベンもライラもよく耐えてくれたね。辛かったろう?」
お父様の問いに、数秒迷った末に口を開くベン。
「正直に申し上げますと、彼らに対する怒りや憤りを抑えるのは至難でした。しかし、使用人の身分で侯爵家の方々に手を出すわけには参りませんので。」
「辛いと言いますか、お嬢様を侮辱されたり下卑た目で見られたりして、嫌な思いはしましたし、何なら彼らの口を縫い付けて差し上げようかとも思いました。ですが、旦那さま方が揃ったこの場で彼らが許される道は無いと確信しておりましたので、耐えられました。」
ベンとライラの毒舌に、お父様とお兄様は大笑いする。レイモンド様は、相変わらず冷静でいらっしゃるけれど、使用人の不敬な言葉を咎める様子はないので安心した。
「さて、もう夜も遅い。あとは騎士団に任せて、私たちはさっさと帰ることにしよう。」
お父様のひと言で、その場は解散となった。
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次回は番外編「才色兼備な伯爵令嬢の周囲のあれこれ」の方を更新する予定です。
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