語るに落ちた
語るに落ちた…というやつだろうか。
きっと、彼女は未だに公爵夫人の座を狙っているのだろう。
レイモンド様の婚約者である私――ジュリア・ロベール伯爵令嬢――が賊の襲撃を受けた。彼女らの依頼通りであれば、10人の男による襲撃にあった私は彼らから暴行を受けたことになる。
そうなると、私の貴族令嬢としての評判は地に落ちるだろう。たとえ被害者側に非が無くとも、キズモノとなった令嬢というものは、それだけで社交界では格好の噂の的になるのだ。なんとも不条理なことである。
そのような不名誉な令嬢との婚約は早々に破棄し、自分を婚約者に――などと、ナターシャ嬢は思っているのだろう。彼女のレイモンド様を見つめる目と表情が如実に物語っている。
しかし、彼女は自身の失言には全く気づいていない様子だ。それどころか誰も口を挟まないのを良いことに、「キズモノの令嬢など――」「ヴィレット公爵のことを思うなら身を引くべき――」だとか、色々言っているのが聞こえてくる。
隣に立つライラが怒りでぷるぷると震えているので、そっとなだめる。本来は私が怒る所なのだろうけれど、ここまでくるといっそ怒りなど湧いてこない。彼女の今後を思うと、むしろ哀れに思えてきてしまう。
バロワン侯爵以下二名はというと、はじめこそナターシャ嬢の失言に顔を青くしていたが、誰も口を挟まないために「バレていない」と思ったのだろう。完全に娘(姉)の発言に乗っかる姿勢を見せている。
「ご心配いただき恐縮ですが、もう結構です。」
話を遮ったのはレイモンド様だ。今までに聞いたことがないほどに冷え切った声だった。
「ところで、“キズモノの令嬢”というのはどういう意味か、伺っても?」
冷え切ったレイモンド様の声に驚いて言葉を失ったナターシャ嬢の代わりに、バロワン侯爵婦人が答える。
「そのままの意味ですわ。下劣な男達に乱暴された娘、清らかな乙女ではなくなってしまった娘。お気の毒ですけれど、そんな方に公爵夫人の座は荷が重いのではないでしょうか。」
ですのでぜひうちの娘を、とでも続きそうな言葉を、お兄様が遮った。
「なるほど。諸君は“賊の襲撃”という情報から、ロベール伯爵令嬢が“10人の男”から“乱暴された”と思ったわけですね。随分と想像力が豊かなようだが、なぜそのように思われたのでしょうね?」
「そ…それは……何となく、そう思っただけだろう、な!」
バロワン侯爵が引き攣った顔で家族に同意を求める。他の三人は無言でコクコクと頷いている。
「なるほど。それでは、10人という具体的な人数はどこから出てきたのですか?バロワン侯爵令嬢、答えて下さい。」
今度はレイモンド様が問いかける。
「それは…その…」
「答えられないのでしたら教えて差し上げましょう。あなた方がこの襲撃事件の首謀者だからですよ。ここへ連行したのも、その容疑に関して話を聞くためです。」
なかなか答えないナターシャ嬢に痺れを切らしたのか、レイモンド様が一気に捲し立てた。
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