話し合い
「お気持ちはわかりますが、すぐに取り潰しというのはいささか無理がありますよ、お母様。」
「あら、レイモンド?彼女らは私たちの大切なジュリアちゃんを侮辱したのよ。放っておけるわけがないでしょう。」
扇を持つアンリエール様の手がぷるぷると震えている。にこやかな表情を保っているものの、相当お怒りのご様子だ。
「レイモンドも放っておくとは言っていないだろう。まずは落ち着きなさい。」
「そうですな。我が娘をそこまで思って下さるお気持ちは嬉しいですが…いくら無礼者とはいえ、相手は由緒ある家柄の貴族です。嫌味の一つや二つ口にしたり、適当な噂を流したりしたからといって、即刻お家取り潰しというわけには参りません。」
オーギュスト様とお父様がなだめてくれたおかげで、アンリエール様も少し落ち着いてきた様子だ。
「ロベール伯爵の仰る通りです。とはいえ、バロワン侯爵家が私の婚約者であるリアと司書の皆様を侮辱したことも事実ですので、捨て置くわけには参りません。」
「ええ。私のことはともかく、司書の仕事と皆様を侮辱したことは捨て置けませんわ。」
「いいえ!ジュリアちゃんを侮辱したことも重要ですわ。」
「お母様の仰る通りですわ!」
アンリエール様とロザリー様に、もの凄い剣幕で畳みかけられてしまった。
「そ、そうですわね。失礼いたしました。」
そうだった、今の私は未来の公爵夫人なのだった。現段階では婚約者の身とはいえ、ヴィレット公爵家の一員になるという自覚がまだ足りないようだ。
「バロワン侯爵家といえば…ご子息のマティアス殿は、気位ばかりが高い割には能力が低いと有名ですよ。」
お兄様の発言で、お父様とロザリー様は笑い出してしまった。アンリエール様は扇で顔を隠して肩を震わせている。
「し、失礼いたしました……ふっ…くく…」
「淑女らしくなさい」と言わんばかりのレイモンド様のひと睨みを受けて、アンリエール様が笑いを耐えながら謝罪を口にした。結局耐えきれていないが、いきなりあんな言い方をしたお兄様もどうかと思う。
ある程度落ち着いたところで、お兄様が言葉を続ける。
「ご存じの通り、バロワン侯爵家は古くから続く名家であり、それ故に彼らは気位が高いのでしょう。無駄に矜持だけが高く、“貴族だから自分たちは偉い、何をしても許される”と勘違いしている類の連中です。」
ついには“連中”呼びである。誰もお兄様を咎めないけれど、一応相手は侯爵家で、私達ロベール家は伯爵家であることを忘れてはいないだろうか。
「ちなみに、ご子息のマティアス殿の仕事ぶりはというと、遅い上に酷く雑です。それを指摘すれば“こんな仕事は自分には相応しくない”と駄々を捏ねて部門を転々とする始末。いよいよ行き先が無くなると聞いています。」
ここぞとばかりにお兄様の本音が駄々洩れである。マティアス・バロワン侯爵子息…随分と困った方のようだ。
「それではまるきり無能ではありませんの。」
ロザリー様…ちょっとそれは直球すぎやしないだろうか。キョトンとした表情から察するに、嫌味などではなく本心から言っているようだ。口には出さないだけで誰もがロザリー様と同意見だったのか、皆一様に苦笑している。
「当主のバロワン侯爵も、傲慢で不遜な物言いをする方でしたな。王宮内や社交界でも、彼ら一家の鼻持ちならない態度に辟易している貴族は多いでしょう。」
「やはり取り潰しにした方が、王国のためではありませんの?」
「アンリエール、それは駄目だとさっき話しただろう。残念なことに彼らは貴族の何たるかをお忘れのようだが、せめて改心する機会を与えてはどうだろうか?」
相変わらず物騒なことを言うアンリエール様とは対照的に、オーギュスト様は微笑みを浮かべて慈悲深いことを仰る…と思ったが、目の奥は笑っていない。
これは、あれだ。オーギュスト様もお父様と同じタイプの人種だ。“改心する機会を”とは言いつつも、その言葉の真意は“次がラストチャンス”と同義である。
「そうですね。それでしたら――」
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