ひと安心
それで、リアはお二人のお眼鏡に叶ったのですね?―――
「ああ、もちろん。芯の通った答え、意志の強さを示す揺らぎのない瞳…正直、予想以上のご令嬢だ。お前にはもったいないくらいの、な。」
よかった。オーギュスト様にも及第点が貰えたようでほっと胸を撫でおろす。最後のひと言には異議を申し立てたいところであるが。
と、そこに口を挟んだのはアンリエール様とロザリー様だ。
「ええ、ええ!私はわかっていましたわよ?だからテストなんて必要ないと申し上げましたのに、この人ったら融通が利かなくて…」
「お母様の言う通りですわ!せっかくこんなに素敵な方が朴念仁のお兄様の婚約者になってくださったというのに。意地悪されたのが嫌で破談にでもなったら、どうするおつもりでしたの?お父様!」
何というか…すごい剣幕である。お二人とも褒めてくださるのは嬉しいのですが、買い被りすぎかと。
「アンリエール、ロザリー、二人とも落ち着きなさい。気持ちはわかるが、大事なことだ。それに、今後はあの程度では済まない悪意や嫌がらせがあるかも知れないんだぞ。」
ごもっともである。私が司書から王太子補佐付に異動したときでさえ…直接的な嫌がらせはなかったものの、他の文官たちに妙な噂話や陰口を流されたのだ。
それが成り行きとはいえ、今度はより競争率の高い婚約者の座を射止めてしまったとなると…まぁ、何かひと悶着あってもおかしくはないだろう。女性の嫉妬というものは本当に恐ろしいらしいから。(オリヴィエ様談)
それが全く怖くないといえば嘘になるが、私とて貴族だ。生半可な覚悟で婚約を受け入れたわけではない。決めた以上は、何が起ころうとも引くことなく、立ち向かう覚悟はできている。
「あの程度で婚約を取り止めたり、泣き出したりするような令嬢だったなら、むしろ破談になった方がお互いのためなのだと、何度も説明しただろう。」
「お父様の言う通りですよ、二人とも。それに、ロザリー?兄に対してその言い方はないでしょう。お客様の前なのですし、もう少し淑女らしくなさい。」
その言い方…というのは“朴念仁”発言のことだろうか。まあ、実の妹とはいえ公爵家当主に対する言葉としてはちょっと…他人に聞かれるのはよろしくない。
「もう!お兄様もお父様に似て頭が固いのね!そんなだといずれジュリア様に愛想をつかされてしまいましてよ?」
「余計なお世話です。」
ロザリー様の言葉をレイモンド様がバッサリと切り捨てる。政略結婚なのだから愛想をつかすも何もないのだが、それは黙っておこう。
突然、パチン!と手を叩く音が聞こえた。そちらに目を向けると、手を叩いたのはアンリエール様のようだった。
「さて!そろそろ配膳をお願いしましょうか?せっかくのお料理が冷めてしまってはシェフに悪いですもの。」
「そうですね。もう話は終わりましたので、食事にしましょう。」
そう言ってレイモンド様が目配せをすると、先ほどの壮年の男性――たしかオスカー、と呼んでいたが、家令だろうか?――がサッと扉の向こうへと消えた。恐らくキッチンへ伝えに行ったのだろう。
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