二人の女子会(1)
今日はお休みである。
オリヴィエ様にお茶に誘っていただいたので、先日のお茶会に出したものと同じイチゴのマカロンを作って持っていくことにした。
「ごきげんよう、オリヴィエ様。お招きありがとうございます。」
オリヴィエ様のお屋敷、クラルティ子爵家のお庭を拝見するのは初めてだが、柔らかい色彩の花々がきれいな、素敵なお庭だ。
「ごきげんよう、ジュリア様。お待ちしていましたわ!どうぞ、お掛けになって!」
オリヴィエ様に勧められてテラスの椅子に掛けつつ、マカロンの入ったバスケットを差し出す。中身を見たオリヴィエ様はとても喜んでくれたようで、早速今日のお茶菓子にマカロンを加えてくれた。
「それで、ヴィレット公爵とはその後どうなんですの?」
お茶を一口飲んですぐ、待ちきれないといった様子でオリヴィエ様が尋ねてきた。
「どう、と言いますと?」
オリヴィエ様が私たちの婚約のことを知っているかわからないので、とりあえずは返事を濁す。婚約したこと自体は隠すようなことではないのだが、既に知っているかどうかで報告の仕方が変わってくる。
「んもう、ジュリア様ったら!歓迎パーティーでパートナーだったのでしょう?私たちと別れたあと、何か進展があったはずですわ!だってあの日のジュリア様は、いつにも増して美しかったのですもの。」
この様子では婚約のことは知らないようだ。“いつにも増して”というのはお世辞だとしても、そんなに褒められるほどだったとは…帰ったらライラに伝えてあげよう。
「進展と言いますか、いろいろとありまして……実は先日、ヴィレット様と婚約しましたの。」
「まああ!!そうでしたのね!おめでとうございます、ジュリア様!その“いろいろ”を、詳しくお聞かせ願いたいですわ。時間はたっぷりありますもの。」
オリヴィエ様に促されるまま、事の顛末を話した。
歓迎パーティーの場でベルクマン侯爵に求婚されたこと――「まるで恋愛小説のようですわ!」と顔を紅潮させていたオリヴィエ様だったが、相手が父よりも年上の男性だと知ると、微妙な表情をしていた。
連日の手紙攻撃のこと――その内容に「それで求愛のつもりなんですの?まるでなっていませんわ。」と憤慨してくれた。
ヴィレット様から婚約者にならないかと言われたこと――「“貴女が必要なのです”だなんて、それはどう考えても愛情故の言葉ですわよ?ジュリア様ったら鈍すぎですわ。」と言われてしまった。そんなことはないと思うのだが。
婚約が成立して、ベルクマン侯爵には今後関わらなくなったこと――このことに関しては、最低限のことだけを掻い摘んで説明した。応接室でのやり取りは、外部には漏らすべきではないだろう。
ひと通り話し終わってお茶を一口飲む。
「素敵なロマンスですわね。」
「そうでしょうか?」
ロマンスどころか、お互いの利害が一致した、見事な政略結婚なのだが。
「ええ。隣国の侯爵からの突然の求婚、それも一目惚れ。恋敵が現れたことによって焦り、加速する想い。そしてヴィレット公爵の、愛しい婚約者を守る騎士のような振る舞い…」
指摘したい点は多々あるが、オリヴィエ様がとても嬉しそうなので水を差すのはやめておこう。
「これでベルクマン侯爵が、ヴィレット公爵と遜色ない若さと美貌を兼ね備えた殿方でしたら、本当に物語のようなロマンスでしたのに。」
また随分と無茶な注文である。あれほど整った容姿の殿方が、そうやすやすと見つかるとは思えないのだが…まぁ、想像するだけなら自由というやつだ。
「うーん…いっそ、お二人の馴れ初めを恋愛小説にしてみようかしら?ベルクマン侯爵を、隣国の素敵な王子様などに置き換えてみて…意外といいかも知れませんわ。実は私、小説家を目指そうと思っていた頃もあったんですのよ。」
いくらなんでも恥ずかしいのでやめてほしい。
「オリヴィエ様、小説は空想だからこそ楽しめるものでしょう?実際に起きたことを題材にするなんて面白みに欠けるでしょうし…その…自分とヴィレット様との話が大衆に広まるなんて、恥ずかしいのですが。」
最後の方は小声になってしまったが、ちゃんと伝わっただろうか。
「そ、そうですわね!これはお二人の大切な思い出ですもの、大衆に広めるべきではありませんわね。失礼をお許しください、ジュリア様。」
オリヴィエ様の顔が心なしか赤い気がするが、大丈夫だろうか。心配して声をかけたが、何でもないと返されてしまった。
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