その後の応接室
ベルクマン侯爵はまだ何やら叫んでいたが、騎士のお二人に連れられて行った。一応は国賓であり、まだ嫌疑の段階であることも加味して、滞在している部屋に軟禁という形をとるそうだ。
彼が出て行ったことで、張りつめていた室内の空気が一気に弛んだ。それを表すように、いつもの気さくな雰囲気を纏った声で王太子殿下が口を開いた。
「いやぁ、想像以上に面白…面倒な男でしたね。」
殿下…一瞬“面白い”と言いかけましたよね。
「全くです。時間さえあれば、証拠もキッチリ揃えて再起不能な程に追い詰められたのですがね。」
お父様、笑顔が黒いです。
「それに関してはご心配なく。今回の証拠も必ず押さえますし、以前から怪しまれていた別件の横領容疑は既に固まっておりますので。これでようやく彼の罪を糾弾することができますよ。余罪と合わせて、必ず裁きを受けてもらいます。まぁ、爵位の剝奪は免れんでしょうな。」
余罪…彼には女性関係のトラブルだけでなく、横領だとかの罪もあったのですね。爵位剥奪になるほどの罪を今まで裁けずにいたとは、ご苦労お察ししますわ、ラインハルト公爵。
「しかし、彼が自ら押し掛けてきたのは幸いでしたね。当初の計画では、誰かのお茶会か夜会でジュリアとバッタリ会った彼に暴走してもらうつもりでしたが…帰国の日も迫っていましたし、主催者の方に申し訳ないだろうと頭を痛めてもいましたので。」
そんな計画があったのですか、お兄様。実行に移されなかった幸運に心から感謝したいですわ。
「それにしても、まさかジュリア様を偽物呼ばわりするとは…やはり彼の目は節穴ですね。」
「ははっ!思い出させないでくれよ、レイモンド。君、あの不意打ちはどうかと思うよ?おかげでシリアスな空気ぶち壊しだったじゃないか。」
確かに、皆さん大笑いでしたものね。ベルクマン侯爵にはお気の毒でしたけれども。
「思ったことをそのまま口にしただけです。婚約者を侮辱されて黙っていられるほど、私は寛容ではありませんので。」
まぁ、肩書は“ヴィレット公爵の婚約者”ひいては“未来の公爵夫人”ですからね、私。ヴィレット公爵家の威厳を保つためには、侮辱する言葉や態度は捨て置けないものなのでしょう。
「おっと、惚気なら他所でやってくれよ?」
「ただの事実です。」
ええそう、ヴィレット様の仰る通りです。私のためではなく、ヴィレット公爵家の体裁のため。殿下は何か勘違いをしていらっしゃるようです。
「そう言えば、まだ彼の口からジュリア様への謝罪を聞いていませんね。」
そうポツリと呟いたヴィレット様の目には、またもや先の冷たさが宿りつつあったので、慌てて諫める。
「も、もう十分ですわ。ヴィレット様をはじめ皆様が尽力して下さったおかげで、私個人には実害はなかったのですし。それに、正直に申し上げますと、これ以上ベルクマン侯爵とは関わり合いになりたくありませんもの。」
「そうですよ、ヴィレット公爵。彼のように感情的になりやすい人間は、追い詰めすぎると逆上して何をしでかすかわかりません。ジュリアと貴方、二人の身の安全のためにも、ここらで引き下がった方が得策です。」
お兄様ナイスフォロー!というか、そういう危険性もあるのか。軟禁状態になるとはいえ、ベルクマン侯爵の滞在中は一応身辺に注意しておこう。
「そうですね、お二人の仰ることもごもっともです。仕方ないですが、今回は引き下がりましょう。」
読んで下さってありがとうございます。
第2章はここまでとなりますが、いかがでしたでしょうか。
第3章を投稿する前に、番外編を更新する予定です。
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