使節団(1)
使節団の到着により、会場のざわついた雰囲気は徐々に落ち着いていった。それと同時に、ヴィレット様と私は場所を移動する。
ヴィレット様は王太子補佐という立場にあるため、王家主催のパーティーや舞踏会では、王族(正確には王太子殿下)の脇に控えているべきなのだ。当然ながら、ヴィレット様の部下であり今夜のパートナーである私も同様である。
そして、国王陛下による歓迎パーティー開始の挨拶が始まった。
「親愛なるアメスト王国の国民たち、そして歓迎すべきトルマ王国からの客人方、よくぞ参られた。我等はこれまで隣国同士でありながら、その関係性は良くも悪くも不可侵であった。
しかし、これからはよき隣人として互いに助け合い、高めあっていける関係を築くことこそ、より良き未来に繋がるだろう。
此度の交流が、双方にとって有意義なものになることを切に願っておる。皆、大いに楽しむがよい。」
陛下が挨拶を終えると、大広間には割れんばかりの拍手が巻き起こった。
拍手が収まる頃には楽団も演奏を再開し、参加者たちも再び会話を楽しみ始めた。使節団の方々は、順に国王陛下をはじめとした王族の皆様へと挨拶に向かってくる。
主賓である使節団の方々の挨拶が終われば、あとは自由に歓談や食事、ダンスといった交流を楽しむ時間になる――そう思って油断していると、不意に王太子殿下がくるりと振り返って話しかけてきた。
「こんばんは、ジュリア嬢。今日はまた一段と美しいね。」
「こんばんは、殿下。お褒めに預かり光栄ですわ。」
「殿下。公の場でレディに対して“嬢”は失礼ですよ。」
突然の褒め言葉に驚きながらも当たり障りなく答えていると、すかさずヴィレット様から殿下へと注意が飛んだ。王太子補佐というのは、お目付け役も兼ねているのだろうか?
「相変わらずレイモンドはお堅いなぁ。その様子じゃ、今宵のパートナーのこともちゃんと褒めていないんじゃないのかい?」
いいえ殿下、先ほど私には十分すぎるほどのお褒めの言葉を頂きましたが。
「殿下には関係のないことですので、どうぞお気になさらず。…さて、そろそろ文官の皆様や使節団の方々に挨拶をしに参りましょうか、ジュリア様?」
「はい、公爵。それでは殿下、御前失礼いたします。」
殿下に挨拶をし、ヴィレット様の手を取ってその場を後にした。
「まずは使節団の方々にご挨拶をいたしましょう。援助や今回の訪問に関する書類でお名前はひと通りご存じだとは思いますが、実際にお会いするのは初めてでしょう?」
「はい、お名前は存じております。公爵は皆様と面識はありますの?」
そう尋ねると、何やら微妙な表情をされた。なにか気に障るようなことを言ってしまったのだろうか。
「あの…公爵?何かお気に障りましたでしょうか?」
「……」
うう、無言の圧が怖い。
「…なぜ、その呼び方なのです?」
「え?」
「いえ、普段と呼び方が違うものですから、少々違和感がありまして。」
ああ、確かに仕事中は“ヴィレット様”と呼んでいたし、パーティーが始まる直前まではそうだった。
しかし、ここは公の場。パーティーのパートナーとはいえ、公爵という立場にある上司を、いつものように馴れ馴れしく呼ぶのは憚られたのだ。
「ここは執務室ではなく公の場で、それも王家主催のパーティーの最中です。他の貴族たちの目もありますので、あまり馴れ馴れしく接するのは良くないかと思ったのですが…」
そう告げると、表情は微妙なままだが、いくらか雰囲気は和らいだようだ。
「なるほど。お気持ちはわかりましたが、今宵はパートナー同士。あまりに他人行儀なのもかえって不自然です。できれば、いつも通りに呼んでくださいませんか?」
本人からそう言われてしまうと、これ以上食い下がれない。というか、そのお美しいお顔で真正面からじっと見つめられるのは心臓に悪いのでやめていただきたい。
「かしこまりました……ヴィレット様。」
「ああ、やはりそちらの方がいい。」
笑った!?あの(鉄仮面の)ヴィレット様が?いや、それとも気のせい?でも一瞬、口角が少し上がったような…。すぐに顔を背けられてしまったのでよく見えなかったのが残念だ。
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