同僚のジェラルド
―――翌朝
「おはようございます。ジェラルド様、昨日はゆっくり休めましたか?」
「ジュリア様、おはようございます。久しぶりの休みだっていうのに、騎士団の鍛錬につき合わされてしまって…仕事よりも疲れましたよ。」
そう言って笑うのは、ジェラルド・ゲイラー様―――ゲイラー男爵家のご子息。茶髪にオリーブ色の瞳が優しげな、がっしりとした体格の好青年である。
私にとっては同僚で同い年だからか、それとも彼の人柄ゆえか、とても話しやすく親しみやすい。これまでは「噂好きの同僚」という印象だったのだが、昨日そこに先輩方の「過保護疑惑」が加わったところだ。
「それは災難でしたわね。でもジェラルド様はかなりの腕前だとか。なぜ騎士団に入団なさらないのかと、皆さん仰っていましてよ?」
「俺は騎士なんて柄じゃないですよ。剣の鍛錬はあくまで体力維持のため。俺個人としては、身体を動かすよりも本を読む方が好きなんです。」
「おっとジェラルド、そんなこと言っていいのか?またお前に負けたって、騎士団の連中が悔しがってたぜ?」
そう言って突然ジェラルド様の後ろに現れたのは、フレデリック様だった。
「おはようございます。フレデリック様。」
「フレデリック様!お、おはようございます。」
「おはよう。ジュリア嬢、それにジェラルド。」
驚いてつい声を上げそうになったが、なんとか持ちこたえた。伯爵令嬢たるもの、そうそう取り乱してはいけないのである。ジェラルド様は…思いきり取り乱していたようだが。
「それで?ジェラルド、お前また騎士団の連中に喧嘩吹っ掛けてきたのか?」
「そ、そんなんじゃないですよ!街を散策していたら見回りの騎士に見つかって、無理やり引っ張られて鍛錬に参加させられただけです。せっかくの休日を潰されて、こっちはいい迷惑ですよ。」
「ほ~。その割にはノリノリで手合わせして、結構な人数を負かしたらしいじゃん?」
「ですから誤解ですよ!手合わせして10人に勝ったら帰ってもいいって言うから…早く帰って休みたかったんですよぉ…」
10人も!本職の騎士団員を相手にそれは…ジェラルド様を司書よりも騎士にと望まれるのも頷ける。
「フレッド、その辺にしておきなさい。ジェラルドが困っているでしょう。」
「そうですわ!あまり後輩をいじめるものではありませんわよ。」
この声はテオドール様とオリヴィエ様だ。ひと通り挨拶を交わしあい、会話を続ける。
「ジェラルド様は司書でいたいのでしょう?私たちとしても、ジェラルド様が欠けると業務に差し支えますもの。それに、殿方ばかりの騎士団では素敵な出会いはありませんわ!」
オリヴィエ様…気にするのはそこですか?
前半はとても良いことを仰っていたのに、後半の言葉で何だか微妙な空気になってしまった。
―――すると、いいタイミングで始業の鐘が鳴り、執務室の扉が開いた。そこから、この王立図書館の責任者であり私たちの上司でもある筆頭司書、ダントン侯爵がゆったりとした足取りで出てきた。
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