アロイス・ダントン侯爵
アロイス・ダントン侯爵―――白髪交じりの髪に空色の瞳が印象的な壮年の紳士、いわゆるロマンスグレー。
生真面目な性格で、仕事ぶりは正確そのもの。しかし物腰は柔らかで、部下(私たち)からの信頼も厚い。
そんな彼のよく通る低い声が、図書館の朝の空気を震わせる。
「おはよう、諸君。」
「「「「「おはようございます。」」」」」
「本日の業務は通常通りだ。ただ執務室を少し散らかしてしまってね。…ジュリア嬢、この後片づけの手伝いを頼めるかな?」
「かしこまりました。」
珍しい。執務室の片づけなど、わざわざ部下に手伝わせるような方ではないのに。よほどひどく散らかしてしまったのだろうか。
「助かるよ。ではオリヴィエ嬢、ジェラルド、2人でジュリア嬢の午前の業務を分担してくれるかな。」
「「はい、お任せください」な。」
「それでは、各自業務に移って構わないよ。ジュリア嬢は、こちらへ。」
そう言って侯爵は執務室へと向かう。
「はい。オリヴィエ様、ジェラルド様、よろしくお願いいたします。」
2人に声をかけ、侯爵の後に続いて執務室へと向かう。
侯爵に促されて執務室へ入ると―――想像に反して綺麗に片付いた室内。
ん?どこが散らかっているのだろう?
私の頭の中をクエスチョンマークが埋め尽くす。
「まずは掛けてくれ。片付けというのは建前でね。君に話さねばならないことがあるんだ。」
「は、はい。失礼いたします。」
私を応接用のソファへと促した侯爵は、執務机から何やら書類を持ってきて私の正面に座った。
「騙すような真似をして悪かったね。ただ、正直に話があると言って君だけを呼び出すと、他の皆から詮索されるだろう?」
なるほど。確かに侯爵の仰る通りだ。
上司から「ちょっと話がある」なんて呼び出されようものなら、何事かと心配されるか、興味津々に詮索されるか…気づかれないに越したことはない。
「お気遣い痛み入ります。それで、お話というのは…?」
ダントン侯爵にしては珍しく、話があると言いつつもなかなか切り出さない。
言葉を選ぶのに時間がかかっているようだ。そんなに言いづらいことなのだろうか。
「そうだね…うん。単刀直入に言おう。昨日、ヴィレット公爵から君を部下にほしいと打診があった。」
「はい?」
そういえば………昨日公爵を尋ねた際にそんな話をしたような気がする。
あまりにも突拍子のない話だったので、さして本気にしていなかった。…いや、正直にいうと今の今まで忘れていた。
普段からお父様やお兄様からも文官に勧誘され、それらを断るのに慣れきっていたせいかもしれない。
それにしても、昨日の今日でこんな…公爵様、仕事が速すぎやしないでしょうか。あの後、例の山のような書類の処理もあったでしょうに。
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