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星廻りの夢33「ウルの王」

一日一章以上投稿しています。

クライマックスに近づいてきているので、私はひたすら肩こりと闘っています。

先日は電気マッサージ機を自室に設置。

このままでは登場人物の肩が外れる前に、私の肩も外れそう。


応援よろしくお願いします。

        ※


「異様な悲鳴が聞こえると思ったら、こんなところに鬼が出たのか」

 荒れ狂う天候の中、自分の前に立っている男は、敵の大将だ。


 敵の首を切り裂いて突き進んできたサナレスの前にいる巨体の男は、サナレスを見てそう言い薄く笑った。


 サナレスは殺した兵から浴びた血で赤く染まった頬を、手の甲で拭う。拭った手も血だらけで、血の痕が広がっただけだった。


 おまえを倒したら終わるのかーー!?

 血走った眼差しで敵の大将、ウルの王を睨む。


 ウルの王ギロダイが、自分を見てみくびった様子で目を細めた。


「戦は初めてか?」

 サナレスを見ても一歩も引かないどころか、サナレスの心中を見透かしてくるように泰然としている。


 騎乗した状態で間向かっても、頭一つ以上大きく、彼の肩幅を見ると、馬が小さく見えるほどだ。


 サナレスは本能で敵の裁量を察知した。

 ゾクゾクと全身が泡立つのを感じる。


「殿下! 下がってください」

 そう言って自分の前に来ようとするトーボウの声が聞こえたが、こいつは違う。

 他の兵士とは違う。


 トーボウの敵う相手ではない。


 化け物だ。


 リトウやヨースケの国の言葉を借りれば、この状態はーー。

 やばい。


 ーー一瞬で追い詰められたように体が萎縮した。


 先ほどまで一心不乱に敵を斬りつけて進んできたというのに、彼が前に立った時、自然とサナレスの歩みが止まった。


 まずサナレスの馬が首を振って、進行することを躊躇っている。

 大物の肉食動物を前にして、怯んでいるのだ。


「おまえがこの戦況を作り出した大将か?」

 ウルの王は表情一つ変えずに問うてきた。


 赤道色の肌に金色の双眸が覗くが、感情が底知れない。

「どうした? 答えよ。おまえがこの隊の大将か?」


 ウルの王は暴れる雄牛。戦で大国を作り上げた王の戦歴の影に、数千の屍が見えるようだ。積まれた屍の上に君臨する王は、一眼でサナレスの初陣を見破った。


 今まで刀で斬りつけてここまで進んでいる時は、自分の体に重みなど感じなかった。それなのに彼を目にした時に、自分が肩で息をして、重くなった腕を引きずっていることを自覚する。


 相手に飲まれるという初めての感覚だった。


 やばい。やばい。やばい。


 動け私の体! 動け腕! 考えろ頭!


 叱咤してやっと、刀の柄を握る手に力が入った。


 構えようとしたその時、ウルの王が長剣を頭上から振りかざした。

 サナレスは鼻先でそれを躱した。


 ーーけれどウルの王の狙いはサナレスとは別だった。振りかざした剣は、サナレスの馬の脛骨を砕いた。

 ゴキュッという鈍い音と共に、よだれを流しながら馬が崩れる。


 圧倒的な腕力で、愛馬の首をへし折られ、サナレスはその瞬間をゆっくりとコマ送りにされる静止画のように見つめた。


 傾いていく馬の目はサナレスの方を見ていた。

 歪んだ口から泡まじりのよだれを吐いて、その瞳から涙が溢れる。


 落馬したサナレスは左肩から地面に転がったが、身を庇うよりも馬のことを凝視していた。


「ほう? 馬に愛着があるか?」

 馬鹿にしたように見下ろされた。


「だがこれは、おまえが我が国の民に仕掛けてきたことだろう?」

 同じことをしてやったまでだと、せせら笑う。


 サナレスは形相が変わるほど、

ぎりぎりと奥歯を噛み締めた。

 相手に飲まれている場合などではなかった。

 だから大切な命を一つ奪われた。


 そうだな、と思う。

 ウルの王が言うように、自分は彼の兵を斬りづつけてここまで来た。


 これが戦争なのだ。

 奪ったから、奪われた。


 当然のことに、何を今更愕然としているのかと、サナレスは一時でも戦から目を背けたくなったことを恥じた。


 体勢を低くして、後ろ手に刀を構える。


「図が高かったからな。いい格好だ」

 サナレスが戦闘態勢に入ったのを見て、ウルの王も馬から降りた。


 大将と大将の戦いである。

 首をとった方が即ち、戦の勝者になる。


 サナレスは前に駆け出して、速さと体重を乗せた渾身の一撃をウルの王に放った。王はそれを真っ向から受け止め、二人の力と力がぶつかり合った。


 サナレスはじりじりと押し負けた。

 ウルの王が剣で刀を弾き飛ばす。

 握っていた手から柄が離れた。


 一瞬で身を守るものも、戦う武器も奪われてしまったサナレスは、何も持っていない自分の掌を見た。

 ウルの王は間髪入れず、自分を砕こうと剣を振り下ろす。


「殿下!!!」

 間に入ったのはトーボウだった。

 双剣を胸の前で十字に構えて、ウルの王の一撃を止める。自分よりも小柄なトーボウが必死で耐えていた。彼の二の腕にできた力瘤がぶるぶると悲鳴を上げている。


「殿下、いったん退却を!」

 ここは自分に任せろと、トーボウは言った。


 馬鹿な。あんな巨体相手に、おまえが敵う相手ではないだろう?


 死ぬ気か。馬鹿……。

 サナレスは今にも突破されそうな、トーボウの盾になった姿を見て、咄嗟に飛び出した。


 ウルの王の足に向かって、全身で体当たりする。

 ほんの僅か、巨体の重心がぐらついて、トーボウは後ろに飛び退いた。


「殿下!?」

 彼の膝に飛び込んだサナレスの肩の関節が外れた。

 右肩が不自然に垂れ下がり、激痛が走る。


「己の兵は、馬のようには、見過ごさぬか?」

 サナレスの外れた腕をウルの王がすかさず掴み、サナレスは身体ごと宙に浮いていた。

 腕が不自然な形で頭上へねじり上げられる。

「好きで私の馬を見過ごすものかーー!」


 強がりを言っても、痛みに呻き声が漏れそうだ。

 圧倒的に筋力に差があった。もっと身体を鍛えていればと、自分の非力さに歯噛みしたい。


 絶体絶命で死を覚悟した。

 血の気がひいて、目を閉じる。


 大将は首を取られるのだ。

 そして敵の勝利の証として、その首は晒される。


 ほんの少しだけ、覚悟が足らなかったのだと思った。

 首を取った覚悟、そして首を取られる覚悟。


 ムーブルージェは命を張って、自分がこの場に向かわないように止めていたのにーー。

 だがこれで、君と自由に旅に出られるだろう。


 潔く敵に命を預けた時だった。

 ゴウゴウと渦を巻く嵐が巻き起こった。

「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」

星廻りの夢33:2020年9月16日

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