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星廻りの夢25「自分の隣」

一日一章投稿しています。

お付き合いよろしくお願いします。


        ※

「よし、交代しよう」

 前衛の隊と、自分が率いる後衛の隊を動かして入れ換える。


 ここからは平地を行かずに山を行くことになり、充分足を休ませている後方部隊が率いていく。

 平坦な道を行く方が、ドレイク共和国の首都に着くのは早い。


 けれど首都を隣国のウルの王、ギロダイが狙っている。アドと合流しても千五百の兵にしかならず、三千人将として兵を率いているギロダイに真っ向から勝負しても勝てはしない。また現時点ではアドの兵が千残っているかどうかも怪しい。


 今までドレイク共和国が永世中立国として守られてきたのは、何も条約のせいだけではない。周りを海に囲まれ、後方をラーディア一族、そしてウル国との間には山脈が立ちはだかる地形の恩恵もあった。


「トーボウ、作戦はわかっているな?」

「はい。私達左翼の舞台は山脈を途中で下り、ウルの兵の左へ着く。殿下は山を登りきり、一揆に海側に回り込んで、三千の兵を挟む」


「ああ、それでいい」

「それでも敵は自分達の倍の数です」

「通常なら兵力は歴然。けれど海側に続々と到着する兵を、船ごと爆破した時に、ウルの兵の注意も右翼側に向くはずだ。必ずそこのチャンスが生まれる」

 好機は自分で作り出すものだ。強い敵を出し抜くには、本来なら到底考えられないことをやってのけなければならない。


「では殿下、もう少し、私の兵が先を引いた方がよろしいのでは? 殿下の兵の方が、移動距離や道のりがきついでしょう?」

 ああ、やはり賢い男だと思った。


 話さずに実行しようと思っていたことを、トーボウには伝えておくべきだと思い直しておかなければならない。

「トーボウ、おまえは随分兵を動かすことに慣れているようだ」

 初陣であるサナレスとは経験値が違うようだ。


「ということは、私の右翼にもおまえの息がかかった者がいるのだろう?」

 おそらく、一人ではないはずだ。それでなければ、彼自身が右翼に入り、隊長の自分を護りに来たはずだ。それをせずに、自分のいう通り、左翼を率いることを承諾した。

「三人か?」

 それくらいが、妥当な人数だろうと言い当ててやると、トーボウは驚いたようだった。


 兵を休ませるために、後方に下げたり、前方に上げたりする時に、サナレスの指示を聞いて兵を率いる要となる男が三人いた。おそらくそれが、トーボウに通じる者達だ。

「殿下、よく見ていらっしゃる」

「やはりな」

 だからトーボウに隠し事をできないと踏むしかないのだ。


「いや、私の兵を、今休ます必要はない」

「ですが」

「こちらの兵は山頂に着いたら、一時足を休ませる時間を与える」


「殿下はいったい何をお考えですか?」

 計画を口にして、彼はどんな反応をするだろうか。楽しみですらあった。


「山頂から第一陣で一気に駆け下りるのは、私一人だ」

 トーボウの目がカッと見開く。

「火薬の扱いに慣れているのは私だ。先に爆薬を仕掛けさせてはいるものの、効果的な爆発を実行するには私が出向く必要がある」

 自分の立場が大将であることを差し引いても、合理的なのはその方法だ。


 ーーさて、トーボウなんて言う?

 技量を見てやろうと視線をやると、トーボウは自分を一瞬睨みつけ、ふっと笑った。

 予想外の反応だ。


「てっきりラーディア一族の出来損ない殿下かと思っておりましたが、人の噂はあまり当てにならないものなんですね」

 腹が立っているのか、全力で失礼なことを口にされる。

 口が悪い。


「いいでしょう殿下。そういう無茶をする人は、嫌いではありません」

 予想外、しかし予想以上の反応を返してきたトーボウに向かって、サナレスは満足げに微笑み返した。

「けれど、一人では行かせませんよ」

 彼は断言した。


「ギユウ、ナリス、前に出ろ」

 トーボウの声がけで、二人の男の馬が、サナレスとトーボウの横に並ぶ。


 やはりこいつらか。

 あと一人は、赤髪の目付きの鋭い男で、サナレスの兵の速度をコントロールしている。


「殿下、左翼をこの二人に引かせる。そして私が、右翼へ付こう。第一陣で切り込むのは、貴方と私の二人で行く方がいい」

 状況判断が早い、そして思考回路も問題ない。


 トーボウの言うように、一人で山を駆け下りた場合、万が一落馬したり、馬の足がどうかなった時のリスクを考えれば、二人いる方が安全だ。

 大将が危険なところに乗り込むのを止めるという判断や、部下を危険に巻き込むなんてといった道義心など、二人の間には微塵も存在しない。

 勝つにはどうすればいいか、それだけだ。


 やはり、この男いいな。

 赤髪を一人、右翼に残すのも、自分と二人で先に出た場合、この隊を赤髪に任せると決めている。


 彼は自分を完全に信じているわけではない。同情を引いてみても簡単に信頼してくるような相手ではないはずだ。

 彼が一緒に来る理由は二つだ。勝利への合理性と、もうひとつは、自分から目を離さないと決意である。


「承知しよう。ただし、私の早さに付いて来られるならな」

 サナレスはくくっと試すように笑う。けれど瞳の奥では、相手の度量を計っている。

「付いて行きますよ。ーー心配ですから」

「用心深いのはいいことだ」

 信じていないんだろう? 追ってこい。


「断っておきますが、ーー貴方を大将としては信頼していますよ」

 サナレスの考えの先手を打ってくる。小気味いい頭の回転に、文句ないな、と感じている。


「けれどね、戦場でいつ死んでもいいって顔つきでいられると、目を離せないんです。ーー実際恋人が死んだって聞いて、理由には納得していますが、殿下は大将なんで。今、私達五百人の兵を率いているってこと、私達が命預けてるってこと、忘れられちゃ困るんですよ」

 だから目を離さない、とトーボウが言った。


「一緒に駆けましょう、サナレス。貴方の計画を成功に近づけるには、私の存在は欠かせないはずです」

 根拠のない自信ではなさそうだ。


 不思議だった。

 こんな戦場でも、興味をそそられる人間に出会うらしい。


 だが斜に構えたサナレスは本心を口にしない。

「残念だが私は言葉は信用しない」

 実力があるなら示してもらわなければ、横に並んでもらっては困る。


 今まで自分の横は、ルカにしか走らせなかったのだ。

 ルカだけが隣にいていい。


「少し、休んでおけ。程なく、山道に入る」

 サナレスは前を引いた。

「壊れた夢の先は、三角関係から始めます。」

星廻りの夢25:2020年9月12日

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