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星廻りの夢24「母神」

一日一章投稿しています。

お付き合いよろしくお願いします。


        ※


 策士というのは、同時に多くの策を講じている。

 冷静な状況判断で、感情よりも先に頭が働く。

 目的のためにどう行動すれば得策か、自分に有利になるように、無意識に考えることを常とする。


 自分のこの性格は、人としてはあまり褒められたものではなかった。

 けれど戦場では活かすことができるかもしれない、サナレスは思った。


 チェスと同じで、戦況を幾重にも想像しておかなければ、足を救われる。

 不安要因はにわかで集めた連帯感の足りない隊、伝令を送ったアドの隊の反応、そして行方不明のルカの呪術隊。

 そして最大の懸念材料は、必ず味方に付けなければならない天候である。


 出陣の数日前、サナレスはダイナグラムの女帝ラァ・アルス・ラーディオヌを訪ねていた。


 サナレスが来ることを予想していたのか、彼女はサナレスを見て本題に入ってきた。

 そして「ラーディオヌ一族が雨季になると、天候の芽の発達期だよね」と言い、サナレスが考えている策の不確定要素の多さを指摘した。


「おまえが考える通り雨乞いは政治的な神事。ーーそもそも神の氏族が誕生した発端になったのも、日照りが続いた時、人が祈る存在を必要としたことから始まった」


 水の属性の最高位の術士であるラァは、一族ができた由縁を見てきた人だ。

「おまえは自然科学から可能性を予測した。過去の事例から推測統計をとって、天候が荒れる時期を予測し、地学的特性を掴んだ気になっている」

 けれどそれは、どれだけ正確に予測しようとしても、外れることもある。あくまで確率が高いというだけだ。


「だからこそラァ様、貴方のお力を借りたいのです」

 祈雨の御神体として近づく雨雲を引き寄せる女神は、サナレスの意図を知って苦笑した。


「神の子の力を、あくまで確率を上げるために利用するおまえは、ーーとても人間らしい」

「私は、1%でも上げる可能性があるなら、何でも試しますよ。正確に分析できる手段があれば、ひとつの要因も見逃さない」

「間違いではない」

 ラァは言った。


「私達呪術者は、蠱毒と同じ」

 小さな入れ物の中に大量の生き物を閉じ込めて共食いさせて、最後に残った一匹を呪術媒体とする。


「私達が神の子として生き残るためには、多くの偽りの神々が人を裏切ったとして処分された。雨を降らせなかったと処刑された仲間も多く、奇跡を起こせなかったと虐殺される者もいた。そんな中で、生き残ってきたものだけが、呪われたように力に目覚めた」

 おまえが言うように、だから確率を上げることができるのは、私達術士だ。けれど、「ひとつ誤算がある」とラァは言った。


「どうして煮詰まった蠱毒、一番の適材である術者を選んでいない? この戦に一番の強い思いを持っている術者は、私ではないだろう?」

 蠱毒で考えてもわかるはずだ。呪術には呪術者の因縁が強い能力になる。


「言いたいことを存じております。適任は、ルカでしょうね。何としてもこの戦いで功績を上げたい。彼の思いは誰より強い。ーーただ彼を今、捕まえることができないのです」

「だからこの私にーー?」

 それは無謀とは言えない。一番高い確率にできないのであれば、次の手を打つだけだったから。


 ラァは本当に面白そうに、声を出して笑った。

「一族の母神であるこの私を……、そんな底辺の扱いぐらいに見積もりおって。ーーおまえは最初から私を、二番手に考えているのかい?」

 眉を歪めて楽そうに笑う。


 そして彼女は、サナレスを認めた。

「わかっているのであれば、もう言うこともないねぇ。ーーおまえのために、力を貸してあげよう」

 ルカに会えるといいな、とラァが言った。


 そして。

「おまえは本当に若い時のジウスによく似ている」

 また同じことを言われた。

 同じ道を進むことをこよなく嫌っている自分の父に、そんなに似ていると言うのか。

 何度も言われることに辟易して、サナレスは聞いた。


「いったいどこがそんなに似ていると言うのです?」

「おや?」

 予想外の質問が来たとばかりに、ラァはサナレスをじっと見つめた。


「ジウスから聞いていなかったのかい? 彼もまたおまえと一緒で、幾度となくラーディア一族を出て行こうとした。つまり若い頃の彼は、私をいつ欺こうかと、そんなことばかり画策していたね」


 ジウスがーー?

 思いも寄らないことを聞かされて、サナレスは絶句した。

「血は争えないねぇ。合理的で、計算高く、ラーディア一族の貴族社会を誰よりも疎んじている。いとも簡単に、一族に、ーー身内に背を向ける。それなのに皮肉なことに、誰よりも総帥に相応しい頭角を表すんだから」

 似ていないかい?

 ラァは可笑しそうに言うが、すぐには信じられなかった。


 ジウスが自分と同じように一族を出ていくことを考えていたなんて初耳だ。

「だからジウスは、おまえに一度でも総帥になれなどと、口にしたことはないだろう?」


 言われてみればその通りだった。

 勝手な圧を感じて、反発していたのは自分自身だ。


「今のおまえの気持ちを誰より理解しているのは、彼かもしれないよ」

 サナレスは黙った。


 思い当たる節がありすぎて言葉を無くした。

 仮にジウスが過去に自分と同じようなことを考えていたのであれば、サナレスがこれまでとってきた小さな抵抗は、ジウスにとってお見通しだったということになる。

 考えると、顔がかぁっと火照った。


 父親でありながら、ジウスのことを何も知らない。話そうともしてこなかった自分を、少し悔やむ。


 戦が終わったらーー、対話から始めてみるか。

「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」

星廻りの夢24:2020年9月12日

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