星廻りの夢12「馬」
一日一章(以上)投稿しています。
ミスってしまった。
12話入れた気でいて、13話を先にアップしてしまった。
章管理でなんとかなるのかな。
不安に思いつつ、すみません。
※
「飛ばすか」
サナレスが馬の手綱を引いた。
体を低くして、馬の重心に人の重心を合わす。
馬を早く走らせるには騎手も重要な役割を担う。人馬一体になって走れば、時速70キロを超える速度で走ることができた。
サナレスは騎手として一流で、ルカが付いていくには骨が折れた。
「腹が減ってきたんだ。ちょっと飛ばして、休憩して、また飛ばそう」
ラーディオヌ一族までの道のりは2時間強だが、ルートの途中で馬を飛ばせは、1時間と少しで着くことができる。
ラーディアとラーディオヌ一族、国境にまたがる道ベミシロードの中頃には、星光の神殿があり、そこが馬を休憩させる地点だった。
馬を飛ばす時、サナレスの体の太腿だけが、馬の体に付いている部分だった。休憩地点までの30分弱であれば、サナレスではなく自分がその姿勢を取れる事を見越して言ってきたのだ。
サナレスは馬の走り方を熟知していた。馬の走り方は、最初とスピードが乗ってきた時で違う。そして最速で走れる距離や、個体によるスタミナを把握している。
「ルカ、心配するな。私の可愛い馬達だ。おまえを乗せて走るくらい、朝飯前だ」
そう言ったサナレスは、馬の立髪と体を一直線にして、風を切っていく。
束ねた金髪の紐をほどき、彼は風の呼吸を整えた。
白金の髪が眩しい。
幼なじみにして、これほど人の心を煽る男に出会うなんて幸福は、そうありはしない。
ルカは思った。
溢れ出る才能と、それ以上に人をたらし込む魅力は、万人を虜にする。人ではないものをいの一番にあげるとしたら、それは自分の親友サナレスでしかない。
権力ある貴族も、高位の呪術者も、何人も見てきた。けれど誰よりも可能性を秘めている。サナレスは今まで見たこともないほど魅力的に思える男だ。
ルカも重力を加減して、馬の走りに体を添わせた。
決して抜くことはできない白金の髪を揺らし、サナレスは疾走する。
彼は、自分がついてくることを信じて疑っていないのだ。
そんなもんじゃないんだが。
舌打ちする自分がいた。
滲み出るような努力をしても、一般人は一部の天才に勝つことはできない。
半年前の年度末試験の結果で、それは嫌というほど味わっていた。学院での講義を一度も休まず、予習復讐を欠かさず、成績上位の座を譲らない。それをモチベーションに自分の感情をコントロールしていたが、常にサナレスを脅威に感じていた。彼が本気を出したら、この形成は逆転する。
頭脳、身体能力の全てにおいて、サナレスは自分よりも優れていた。
認めたくはないが、レイトリージェは本能でそれを見破っており、より優れたものを好ましいと思っている。
天道士になり、爵位を回復するだけでは、サナレスを相手にするには不十分だった。
もっと確固たる自信が、ーー力が必要だ。
他の追随を許さない非凡さに、なんとか食らいつこうとして必死に努力する自分は、ほとほと小さな器だと感じている。
ここ数日間においてもそうだった。
サナレスが本気になった時、彼は身の回りの一切を目に入れなくなってしまう。
それはつまりーー、自分達は彼が余裕のある時だけ相手をしている存在に過ぎないということだ。
幼い頃から、サナレスは冷酷非常だった。
子供の頃は遠慮なんて知らないから、本当に興味のあるものしか反応しない。
幼い頃サナレスの興味を引いたのは、ルカでもレイトリージェでもなかった。彼は天使の歌声を持つ、ムーブルージェだけに引き寄せられ、近づいていった。
この事実は、ルカやレイトリージェに大きな劣等感を抱かせた。
所詮天才は、天才にしか惹かれない、そして相入れないのだと。
自分のことは、まだいいと思った。男だし、努力を積み重ね、高い目標ができたと思えば、悔しくともさほどではなかった。
ーーけれど、レイトリージェはどうなのだろう?
異性としても圧倒的な魅力を放つ彼と、しがない自分を比べた時。ーーそして、彼女の姉ムーブルージェと彼女自身を比べてしまった時、耐え切れないのではないか、そればかりを案じてしまう。
もっと強くならなければ。ルカは思った。
サナレスが疾走するなら、その横を彼と同じ速度で駆け抜け、彼が天性で与えられなかった呪術で、彼の才能に追いつければ、いつかそれは自分の自信にすることができるだろう。
人は努力でなんとかなるのだとーー、ルカ自身が自分に、常に言い聞かせてきた言葉だ。
先日、ラーディア一族で開かれた軍議の後、レイトリージェの父親が自分の元を訪ねてきた。
彼は自分に、百人将のケリオーとして、呪術士達の部隊を率いて出陣することを、提案してきた。
フェリシア公はただ、娘にたかる虫を振り払うほどの気持ちだったかもしれない。
けれどルカにとっては、命を天秤にかけても、千載一遇のチャンスだった。
爵位を返してもらい、そしてレイトリージェの父親に認めさせることができるのであれば、受けて立たないはずはなかった。
「サナレス、飛ばそう!」
ルカも内腿で馬の重心を感じ、サナレスを抜いて行った。
彼の興味をひき、彼の隣を並走するのは、いつでも自分以外あり得なかった。サナレスを見ていると、彼の才能に対して、自分の感情は憧れと嫉妬で溢れ出そうになる。
小さい頃、天使に出会ってしまったルカは、この金髪の天使にご執心だ。
追いかけるのではなく、出来たらマウントをとって追いかけさせたい。
彼の目標になる位置にいたい。
いつしかそれは、ルカが抱いた夢になりつつある。
笑ってしまうのは、ラーディオヌ一族で見たこともない夜市を初めて目にした自分は、レイトリージェではなく、サナレスの喜ぶ顔しか思い浮かべることができなかった。
ラーディア一族という狭い世界を飛び出して、サナレスは異世界を目にしたい。
そんな彼に案内するにはぴったりの場所だと嬉しくなった。
ただサナレスに見せてやりたい。
サナレスの喜ぶ顔が目に浮かぶ。
サナレス、おまえにレイトリージェはやらない。
けれど誰より、レイトリージェがサナレスを慕う気持ちを理解してしまうルカは、彼女以上にサナレスが好きだった。
「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」
星廻りの夢12:2020年9月6日




