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星廻りの夢11「没頭」

一日一章アップしています。

文庫本一冊分くらいで終える予定です。


お付き合いよろしくお願いします。

       ※



 リトウ・モリは、サナレスが彼の研究室に持ち込んだこの設計図を元に、金がないなら投資を募るしかないと言った。


 投資とは、主に経済において将来的に金を産む、もしくは大成する人物を見定め、利益を生み出すところに貴族のような資産家が、資産を投じることだと教えてくれた。


『例えば、ラーディア一族を夜でも明るくするという計画が達成したら、皆が喜ぶよね。けれど仕組みがわからない人や、その日暮らしの貧しい生活をしているような人に、計画の資金繰りなんて頼めないじゃない? ーーだから貴方の企画が理解できて、尚且つお金を出せる相手を探して出資を頼めばいいんだよ』


 サナレスは学院の始まりと終わりの時間に、リトウの研究室に通いづめた。

 彼から言われたことを糧として、取り憑かれたように一日中、どうすれば早く自分の構想を現実のものにできるのかを考え続ける。


 簡単に答えは出ないから、焦っても仕方がない事だったが、考えが堂々巡りになってしまい、気がつくとぶつぶつとリトウが言ったことを咀嚼そしゃくするために独り言を呟いていた。


「おい、サナレス!」

 夕日が落ちる学院の廊下を歩いていると、後ろからルカに呼び止められた。ルカらしくもなく大声だった。


「いったいーーなんだ?」


「お前なぁ……。声かけたの、いったい何度目だと思っている?」

「ああ」

 抑揚なく答えてしまう。


「おまえは相変わらず、没頭すると寝食を忘れるタイプだな。顔色悪いぞ」

 自分の顔を覗き込んでくるルカを見て、少しだけ意識が戻ってきた。

「この前まで妓楼に通い詰めていたと思っていたら、今度は研究室か?」


 また心配をかけてしまっていたようだ。

 言われてみれば、このところの自分は抜け殻だった。

 学院には出席するし、必要最低限の日常生活行動は保っていたが、頭の中は水力発電のことでいっぱいだった。

 ルカの顔をぼんやり見て、サナレスは額に手をやって反省し、倒れ込むように彼に抱きついた。


 やってしまったーー。

 深いため息をつく。


「すまん。ちょっと死んでたわ」

「ーーいつものことだが、今回はかなり長かったな。今回ばかりは何か気に入らないことがあって、本気で私を無視しているのかと勘ぐったぐらいだ」

 「まさか」と失笑して、サナレスは否定する。


 あれから一週間経とうとしていた。

 ルカとは学院内で何度も顔を合わしていたはずだが、心ここにあらずで、ルカの姿も目に入っていなかった。サナレスはかろうじて習慣的動作を続けていただけで、声をかけられても一瞥すらできずにいた気がする。


「おまえのその特性、わかってはいたんだけど。それでいつ覚醒するのかと思って待ってみたが、こっちもちょっと限界。今日は一緒に飲まないか?」

 ルカから飲みに誘ってくるなんて珍しいと思ったが、先日の件もあって、ルカは気晴らししたいのだろうと了承した。


「いいよ」

 まだ少し冷めない頭で返事した。


「どこへ行く? ーーまさか妓楼か?」

 ルカが茶目っけたっぷりに聞いてくるので、サナレスは軽く睨み返し、顔の前で手をひらひらさせた。


「女はいい。久しぶりにおまえと水入らずで飲みたい」

「光栄だね色男。わたしは女達から妬かれそうだ」

 ルカは片方の頬を上げて半目になり、こちらを見て確かめるように言ってくる。


 軽口を交わしながら廊下を歩いて肩を組むと、二人は関係を確かめ合うように、にっと笑い合った。

「ここのところ何を食べていたのかも思い出せないから、うまい物を食いたいな」

 サナレスがいうと、ルカは少し考えた後に、提案してきた。


「せっかくだからちょっと遠出しないか? おまえに見せたい場所がある。衛生的にはどうかなぁって思うけどさ」

 いい事を思い付いた顔で、ルカは急ごうとサナレスに言った。


「どこへ案内してくれるんだ?」

 遊び慣れたサナレスの方が場所決めには自信があったが、ルカは嬉しそうに口笛を吹いている。


 だからサナレスは笑いながら肩をすくめた。

「よし、おまえに任せよう。けど一件付き合ってくれ。リトウ教授のところに今日は行かないって伝えないとな」

 このところ毎日入り浸っていたので、待っていてくれたら申し訳ないと心遣い、サナレスとルカは研究室に急いだ。


「おや、二人で来るとは珍しい」

 いつものようにリトウは、沢山の積み上げられた書籍の中に、背中を丸めて埋もれていた。


「先生、今日は出かけてくる」

 連絡すると、リトウは「いいことです」と言った。

「ーーそうですねぇ。煮詰まっているときは、行動するのがいいんですよ」


 意外だった。

 行動半径が極端に狭そうなリトウが、そんな事を口にしたのが面白くて、サナレスはふっと口のはしで笑った。


「あっ! サナレス殿下、貴方今、私をバカにしましたね。心外だなぁ。私だってね、行き詰まった時は学院の外に出る事だってありますよ!」

 何も言っていないのに、リトウは敏感に反応してきた。いつも書物と睨めっこばかりしている自覚はあるらしい。


「へえ、そうなんですね。先生が出かけている所など今まで見た事ありませんでしたよ」

 ルカの意見も同様らしい。

「このところ先生がサナレスを独占してしまうから、今日は私が連れ出すんですよ。先生の嫌いなラーディオヌ一族まで」


 意外な行先を知って、サナレスは確かにそれは遠出だな、と往復時間を考えた。

「馬で行っても、片道2時間以上かかるから、飲んだら戻れないな」

 サナレスは言った。


「明日は休日だよ。たまにはいいじゃないか」

「ああ」

 サナレスはうなづいた。

 ルカにとったら、ラーディアよりもラーディオヌ一族の方が気が安まるのだろう。


「この前呪術試験の時に見かけた夜市に、おまえを連れて行きたいと思っていたんだ。屋台って言って、珍しい食べ物屋が並んでいて、美味そうに見えた。おまえそういうの好きだろ?」

「いいね」

 想像はつかないが、腹が鳴った。そういえば最後に食事を取ったのはいつだったか。思い出そうとしていると、目の前でリトウもごくんと喉を鳴らしている。


 貴方もか先生……。

 関心のある事に過度に集中するタイプの人間二人が寄って話していると、衣食住がボロボロになっていく。サナレスが彼に水力発電の設計図を見せた日から、サナレスとリトウは食欲を忘れ、痩せてきている。


 何か、食いたい。

 二人とも似たような有様で、腹の虫がシンクロする。


「ラーディオヌ一族の屋台、美味しいんですよねぇ」

「先生も行きたいんですか? ダメですよ」

 ルカが即座に釘を刺す。


 リトウは指で頬をかいて、そんなお邪魔虫のように言わなくても、と苦笑する。


「もちろん遠慮しておきますが、私はラーディオヌ一族には度々行っていますよ。講義を聞いていただいているあなた達がご存知のように、私は呪術否定派ですが、誤解しないでいただきたい。決して呪術者が嫌いなわけでも、ラーディオヌ一族が嫌いなわけでもないんです」

 そう言って思い付いたように考え込み、リトウはメモとペンを取り出して、何かを書き記した。見たこともない文字列が並んだメモと、几帳面に図面になった簡略化した地図を渡された。


「せっかくラーディオヌ一族に行くのなら、明日にでもここを訪ねてみてください」

 リトウは言った。

 それから更に彼はポンと手を打った。


「あと……、おつかいも頼んでいいですか?」


「これ、買ってくればいいんですね……」

 頼まれた量の多さを知って、やっぱりこの人出無精なんじゃないか、とサナレスは結論付けた。

「破れた夢に先は、三角関係から始めます。」

星廻りの夢11:2020年9月5日

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