時空を超えて
私が今年から通う学校は、桜の木が有名だ。
校庭をふちどる様に咲く桜はとても綺麗で県内の高校を紹介するパンフレットの表紙になるくらい。
だが、この高校には、もう一つ有名な桜の木がある。
どの季節になっても咲かない桜の木があると有名なのだ。
その木は、校庭の一番目立つど真ん中にどーんっと佇んでいる。
春なのに、桜も咲いていなければ枝も葉っぱもない。この木は、この学校が建つ前からある桜の木で、戦国時代から枯れずにこの場に佇んでいるらしい。
私は、その話を聞いて何故か涙が止まらなくなってこの場所に行きたいと強く願った。その結果、この学校を受験してここに通うことになった。
この場所は戦国時代にここを守っていたお姫様と、彼女の愛する武士が死んだ場所だった。
そんな、悲しい過去を背負う桜の木。
枝も葉っぱもない木は寂しそうだなと感じた。
放課後、私は何も無い桜の木の前に立って見上げる。
「この桜の木は、枝垂れ桜っていうんだよ」
「え?」
桜の木を見ていると、隣から声が掛かった。
隣を見ると、結構顔の整った男子が私の隣に立っている。そして、桜の木を見つめる男子の横顔がどこか懐かしいと感じた。
「・・・ここで亡くなったお姫様と武士は戦いで敗れて死んだんだよ。先に武士がお姫様を庇ってねそれで逆上したお姫様は敵の大将は倒したんだけど、武士の隣で自ら生命をたってね。結果的には負けちゃったんだよ。悲しい話だよね・・・」
「なんで、そんな話を・・・?」
「さあ、なんでだろうね」
私の問いかけに、彼は笑う。
なんなの? いつもならそう思うのに、彼の話を聞いて私の心臓はドクドクと波を打つ。
頭には、桜が咲き誇る中、私の腕の中で血まみれになりながらも私の頬に触れる暖かい手。
『最後まで、そばにいられなくてすみません、姫・・・』
『もう、喋るな』
『姫、私はあなたをお慕いしていますよ・・・』
『知っておるわ! だから、もうしゃべるな・・・』
『姫・・・もし、生まれ変わって姫と会えるなら私は・・・』
「何千、何億もの時を越えて、何億という人の中でもあなたを探し出してみせるから」
いつの間にか私は、涙を流しながらその言葉を口にしていた。
なんで、そんな事を考えたのか分からない。だけど、だけど、さっきの記憶は誰かの物じゃなくていつか私が見た景色。
「秀征・・・私はそなたに会いたい・・・」
口が私のものとは思えないほど勝手に動く。
桜の木をキッと睨みつけながら私の目からは涙が溢れる。それと同時に、頭の中は見たことがない景色であふれる。でも、その一つ一つが懐かしくて、心に染み渡る。
「姫、様?」
隣に立つ男子が驚いたような声をしている。
私は、顔を彼に向ける。そうすれば、彼の顔は私と同じように涙でグシャグシャになっていた。
「そなたは・・・」
今度は、勝手にじゃなくて自分の意思で口を動かす。
顔だけで彼を見ていたのを、体も彼に向けてちょうど桜の木の前で向かい合う。
すると、ブワッと風が吹いて私の髪の毛が空に舞った瞬間、さっきまで何も無かった木から桜が咲いている。
綺麗な枝垂れ桜が咲いて、私達だけの空間を作るかのように包み込む。
「姫、最後まで貴方をお守り出来なくてすみません。私が不甲斐ないばかりに、あなた様をお守りできなかった・・・」
目に焼き付くような桜色の中、彼が涙を流しながら私を見つめる。
「違う。私は・・・」
「違いません!」
「黙って話を聞いておれ!」
私の声に、苦しそうな顔をしながら彼・・・いや、秀征が俯いて私の言葉を否定するが、私の怒鳴り声で弾かれたように顔を上げて私を見つめている。
「私の記憶の中にある私は、笑ってた・・・秀征と一緒に笑ってた。楽しそうに笑ってたの。秀征が冷たくなっていくのを腕の中で感じながら私は秀征に出会って初めて泣いていた・・・貴方の手の最後の温もりを感じながら泣いたの。それから大将を倒して自分で死ぬ前に誓ったの。またいつか、誓の時に秀征とここで会えるようにって。だから、謝らないで・・・私のすべての記憶を否定しないで・・・楽しかったあの時間は、私だけだったの?」
「違う・・・違います!」
私の言葉に、目を見開いて聞いていた秀征は首を振りながら否定する。
ほんと、いつになったって、秀征は秀征だな・・・
「のう、秀征。私はな、そなたの事が大好きだぞ。触れられ無くてもいい。それでも、私はそなたが大好きじゃ・・・」
コツンと秀征のおでこに頭を当てるが、私の手が彼に触れることはない。それでも、溢れる涙をそのままにしながら何千もの時空を超えて想いを伝える。
最後まで言えなくてずっと後悔していた言葉。
すると、彼の体がどんどん透けていく。何だ、これは・・・
「すいません、姫・・・また俺は先に逝ってしまうみたいです。でも、大丈夫です。私は、何千、何億もの時を越えて、何億もの人の中からあなたを見つけ出して見せます。だから、それまでは少しの間お別れです。・・・大丈夫ですよ・・・そんな顔をしないで。この桜が咲いている限り、私はいなくならない。ずっと、あなたの胸の中にいる。だから、また出会えるまではどうか元気でいてください」
どんどん透けて光になっていく彼はいつになく笑顔で、悲しいほど綺麗な笑顔で・・・
「嫌だ、」そう言いたいのに、言葉にならない。「行かないで」って言いたいのに言葉にならない。
私は、私は、
溢れてくる涙の中、彼が最後に私の手を握りしめて、ほほに触れる。
「貴方にあえて良かった」
そう泣き笑いをして、秀征が空へと消えていく。
触れられないはずの手からは温もりがあって、ほっぺたには彼の感触があって、それなのに私の前に彼はいない。
なんで、なんで、私は
「うわぁあああ・・・うわあああん」
その場に座りこんで、桜の中で泣き叫ぶ。
秀征が見たら、
「まだまだ子供ですね」
って言って笑ってくれるはずなのに、私の隣には彼がいない。
いつ来るかわからない未来よりも、今、この瞬間を大切にしながら2人で笑いあっていたかった。
触れられなくてもいい。ただ、隣にいてくれるだけでよかった。
風に揺れる桜の木が私を励ましてくれているようで、「泣いてないで、秀征を笑顔で迎えてあげるために前を向いて」って言ってくれているようで冷たくなった心が、桜の色で埋め尽くされる。
この木を見ていて思う。
またいつか、一緒に笑いあってこの木を眺めたいと。
「秀征・・・私、この人生は秀征のせいで生涯独身だったじゃない・・・」
1人、病院のベッドに横たわりながらよれよれになった手で空に浮かびながら綺麗に輝く月をなぞる。
あの月の向こう側に、あなたはいるのかしら。
いなくてもいいか。
でもね、お願い。
来世では、私を秀征に会わせて。
記憶なんてなくたっていい。運命じゃなくたっていい。結ばれなくたっていい。
ただ、隣で笑わせて・・・
今の生命はすぐに途絶えていいからさ・・・
「姫、行きましょう」
暗闇の中、秀征が窓に立って私に手を差し伸べてくれる。
私は、静かにその手を取って空へと旅立った。
「この、桜の木・・・」
「やっと会えましたね、姫」
「秀征・・・まちくたびれたぞ」
「はい、私もです。ずっと、こうしたかった・・・」
「私もだ・・・」
ある高校の桜の木で私達は何千、何億もの時を越え、何億もの人の中でお互いを見つけた。
これが運命じゃないなら、言葉なんて要らない。
ただ、心の中にはお互いを想いあって笑い続けるお姫様と、その傍らでお姫様を愛おしそうに見つめる武将がいるだけでいい。それだけで、いいんだ。
これから先、また何度も死んでは生まれ変わり、発展していく技術と壊れていく地球を見るだろう。私達は出逢い、別れて、また出逢う。
きっと、何度も何度もお互いに恋をする。
そうやって、地球は回っていく。
人は何度だって、生まれ変わるのだ。
ほら、貴方の中にも運命の人がいるように、あなたには前世があった。
その時、愛し合った2人が時空を超えて出逢うことを人は運命と呼ぶ。
愛に時間や年の差や身分なんて関係ないんだ。
ただ、相手を思いやる気持ちがあれば、それで十分なんだ--
きっと、誰にだって前世はあると思うんです!
だって今現在、生命は1人減っては2人増えたりしてるんですよ?今までの歴史から考えたら何兆以上の生命があったって事ですよ。そんなにたくさんの生命があったなら記憶はリセットされていても今よりもずっと前、他の人生を歩んでいたりするんじゃないのかな?って思うんです。まあ、現実味はないですけどね。
だから、時空を超えては結構お気に入りです。ボクの夢を詰め込んだ話だから。それでは、また明日ー




