指先
「ねぇ、」
目の前を歩く男友達の袖を引く。
きょう、言うって決めたんだ。
彼が振り向いて、首をかしげながら「ん?」という。
大きく深呼吸して、私が彼に「好きだよ」と伝えるのと電車がホームに到着するのは同時だった。
だから私は、「先に乗るね」といって電車に乗った。
(やっと、言えた・・・)
ずっと隠し続けてきた思い。
伝えきれなくて、不安で。
それでも伝えたいから何度も手紙に想いを綴っては破り捨ててきた。
緊張なんてしすぎてこの場で吐いてしまいそうだ。
だけど、緊張よりも、喜びの方が多いんだ。
彼の、左斜め後ろから見る景色には飽きてしまった。
彼女でもないのに、さりげなく車道側を歩いてくれる彼。
約束をしてるわけでもないのに、放課後には私を待っていてくれる。
フラれたっていいんだ。
「友達」というポジションにあぐらをかいてその場所で満足している私じゃない。
たとえそれが、彼の隣から遠く離れてしまう判断だったとしても、私は同じ景色は今日でお終いにすると決めたんだから。
(でも、明日からもう話せないかも、しれないんだよな・・・)
電車の開かない方のドアにもたれかかって、外を見つめる。
窓が曇っていて、白っぽくなっている。そのせいで外がよく見えない。
私は、指で曇った窓に触れ、彼の名前を描く。
そしてその上には傘を描いた。
彼の左隣は空白。
誰が、この場所に名前を刻めるのだろうか。
誰が、彼の隣にいることを認められるのだろうか。
分からない。分からないが、その場所が私の名前で埋めれたらいいのにな、なんて考えながら、手のひらでその文字をかき消した。
「ただいまー」
家の玄関を開けてリビングに入ろうとする。
すると、中から母の楽しそうな声が聞こえてきた。
父は、出張でいないはず。なら、だれと?
不審に思いながらも、恐る恐る中を覗くとそこには、私が告白をしたばかりの彼が座っていた。
「あの子と、ね--あ、おかえりなさい」
夢中になって彼と話していた母が扉の前に突っ立っている私に気づいてから近づいてくる。
「え、なんで私の家に?」
驚きで手からスクールバッグがドサッと音を立てながら落ちる。
だって、彼の家は私の家からは反対方向だし、自転車でも軽く10分はかかるはずだ。なのになぜ?
唖然とする私に、母が
「彼氏の前でなんて顔してるの? ほら、座りなさい」
という。
「は? 彼氏? 私の? 彼が? いつから?」
母の謎の言動で訳が分からなくなる。
私はフラれたはずで・・・
「さっきので、お前は俺の彼女になったの! 嫌がってもダメだからな!」
あほ面で、ぽっかーんとするあたしの元に彼が走り寄ってきて、私は抱き締められる。
抱き締められる?
「え、ちょ、なっ!?」
あわあわとしながら、どうしたらいいのか分からない手を宙に浮かせて左肩に乗っている彼の顔を横目で見る。
すると、彼の耳は真っ赤に染まっていた。
「可愛・・・・・・・・・」
「なっ!? バカ!」
「あ、声に出てた?」
可愛いと心で言った瞬間、彼が離れてしまう。
ちょっと残念。
だけど、真っ赤な顔をした彼の顔が見れただけで嬉しかった。
そして、どちらからともなく笑いあって、その日の我が家は賑やかな笑い声で満ち溢れていた。
「あんたの彼氏、いい人そうじゃない」
彼が帰った後で食器を洗いながら母がテレビを見ている私に言う。
「うん」
テレビから視線を外して、キッチンに立つ彼女を見つめると、彼女は私を見て微笑む。
「良かったわね」
「っ! うん!」
まるで自分の事のように喜んでくれる彼女の笑顔が嬉しくて私も笑顔で返す。
すると、彼女は
「じゃあ、ふたりが出会うまでを聞かせてぇー? あ、その前に、父さんに言わなきゃねー」
と言いながらポケットからケータイを取り出して、父へと楽しそうに電話をする。
私の大好きな彼がこの家の敷居を跨ぐ事は、一生無いだろうなとその時は感じていた私。
だけど、それは10年後、小さな手を2つ繋いで毎年1度は跨ぐようになるのだった。
今回は、ハッピーエンド!いや、1~3話も前を向くきっかけができたんだからハッピーエンドっちゃ、ハッピーエンドなんだけどね
初めてのカップル成立!
このカップルは、番外編としてちょくちょく出てくるはずですよー
期待しないで待っててね!
では、また明日ー




