ハナビ色の空
「今日は、流星が見れるらしいよ」
私が所属する天文学部こと、通称サボリ部に部長の声が響いた。
ちなみに、「サボリ部」は部員が二人しかおらずほとんど活動もしてないから付いたあだ名だ。 なんとも不名誉ではあるが否定出来ないところが痛い。
「部長・・・・・・そんなに大声出さないでください。聞こえてますから」
「ああ、ごめんね? だけど、天文学部としてはこれ以上に活動に適した日はないと思わない?」
「はいはい」
興奮しながら話す部長を軽くあしらって私は窓際に置かれている天体望遠鏡を見つめた。
埃まみれで薄汚れている望遠鏡。
(あれ、使うつもり?)
「どうしたの? ・・・ああ、あの望遠鏡か」
「あれ、使うんですか?」
期待も込めて部長に聞くと、部長は「ううん」と言って首を振った。
正直、あれを使うのは勘弁して欲しいと思っていた私はホッと肩をなで下ろした。
(あんな埃まみれなの、使えないし)
「じゃあ、どうするつもりですか?」
「えっと、今日はねー」
私の言葉に部長はニヤリと笑い、自分の鞄を漁り始める。そして--
「ここに行こうと思います」
そう言って、山の地図を私に突きつけてきた。
「くるまで、ですよね?」
「歩いて、ですよ?」
「明日、ですよね?」
「今から、ですよ」
「勘弁してくださいよ! 今何時だと思っているんですか! 朝の、11時ですよ! 夜まで時間が・・・・・・すっごいありました・・・・・・・・・」
いつもなら、土日は部活が午後からのはずなのに早く集合をかけて来たと思ったら、こういう事か!
私は、「うん!」と言いながらニコニコ笑う部長を睨みつけた。
「私、行きません」
「認めません」
私の言葉を食い気味に拒否して、部長は「はい、行くよー」なんていいながら、嫌がる私を引きずるようにしながら学校を後にした。
「着いた・・・・・・けど・・・・・・速すぎませんか?」
「あはは、だね・・・・・・」
学校をあとにしてかれこれ2時間弱。
山頂についた只今の時刻は1時過ぎ。
空には太陽が輝いている。
(この人は・・・・・・何にも考えてないんだから!)
部長にイライラしながらも、2時間かけてここまで来たのだから星を見たい。
私は、ため息をついて持参したブルーシートを地面に敷いた。そして--
「どうしたの? 春賀さん? ブルーシートをパンパン叩いて?」
「座れってこと! 部長、察しが悪すぎです!」
「っ! ・・・・・・ありがとう・・・・・・ごめんね? じゃあ、失礼しまーす」
「はい」
ブルーシートの上に、二つの影ができる。
今思ったのだが、ブルーシートと言っても結構小さい。
2人も座ればキツキツで、腕と腕がぶつかりそうな程に狭かった。
「・・・・・・あっつ・・・・・・」
部長が不意に、そう呟きながら制服の襟元を仰ぐ。
首筋に汗が流れて、それを拭うように肩が上がる。そして、ほんのりと赤い顔からぽたぽたと汗が落ちていた。
「・・・・・・あの、春賀さん、見すぎ・・・・・・」
暫く私が部長に魅入っていると部長がこっちを見もせずにつぶやいた。
「へ、あ、ご、ごめんなさい」
慌てて顔をそらす。
流石、夏の昼間だ。暑い。
そう、今、顔が暑いのは夏のせい。
(夏のせいだよ)
それからは、話すこともなくただ2人で夜になるのを待った。
お互いが動く度にお互いが隣にいるのを感じながら。
時間は、長いと感じていても短い物ですぐに夜へと変わっていった。
日が傾き、涼しい風が私の前髪をさらう。
「・・・・・・夜、だね」
約6時間ぶりに部長が口を開いた。
私も、「はい」とだけ返す。
夏の7時はまだ少し明るい。だが、日の暖かさと夜の冷たさが混ざりあって空はとても綺麗だった。
「綺麗・・・・・・」
「そうだね・・・・・・」
2人の間に流れる沈黙は、今日で何回目だろうか。
緊張する。
なんでいつも道理にできないのだろう。
綺麗な空もそれほど長くは続かず、空は黒一色へと変わる。
今、私からは部長が見えない。それは、部長も一緒で、部長から私は見えないのだと思う。
だけど、お互いの息遣いが聞こえてすぐそばにお互いがいることがわかる。
手を動かす。
腕が当たる。
そんな、何気ないことなのに。意識する事なんてないのに。
どうして私は今、ドキドキしているんだろう。
部長の顔を見たいと思っているんだろう。
どうして、部長の声を聞きたいなんて考えているのだろう。
「・・・・・・春賀さん・・・・・・」
「はい!」
「ぷっ、・・・元気だね」
しまった。
部長のことを考えていた時に声をかけられ、不自然な声を出してしまった。
「・・・・・・空をみて・・・・・・」
先輩の声で顔を上げる。
そこには、満天の星空空があった。
「う、うわぁあ・・・・・・な、え・・・・・・綺麗・・・・・・」
うまく言葉が出てこない。
綺麗だと言葉にして言いたいのに、この情景や感動を表せる様な言葉を私は知らない。
ただ、一つ一つが輝く星空は美しかった。
「春賀さん、泣いてる?」
「え? ・・・あ、ほんとだ・・・・・・」
「気付かなかった?」
「はい・・・って、部長も泣いてる・・・」
「うん、感動しちゃった」
暗闇に目が慣れてきて部長の顔が見える。
その顔は私を愛おしそうに見つめていた。
(今の、自意識過剰っぽい・・・・・・自分、気持ち悪いな)
自分の頭に浮かんだ言葉に苦笑いをする。
「あ、流星・・・・・・」
「あ、ほんとだ・・・・・・」
部長の呟きに、私は部長から目を離して空を見る。
そこには、とめどなく流れ続ける流星があった。
「流星群・・・」
「だね・・・」
ほうと見つめる。
部長と同じものを見ていると思っただけで胸が跳ね上がる。
ドキドキと脈打つ。
(あ、私、部長が好きなんだ)
「みてみて、春賀さん! 綺麗だよ!」
今初めて、部長が好きと自覚をした。
流れる星をキラキラと見つめる黒い瞳に星が写り込んでいる。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
不意に、目が合う。
お互いを黙って見つめる。
「ぶ、部長・・・」裏返る声。不自然な間。
その間を埋めるように流れる星。
気持ちがいっぱいいっぱいだった。
今にも、溢れだしそうだった。
ぱぁあん
不意に、そんな音がして空を見る。すると、何かが散った後だった。
「なんだ?」と空を見つめていると、謎はすぐに解決した。
それは、花火だった。
星の間を輝きちってゆく花火
「私、きっと死んでもこの日を忘れないです・・・・・・」
「俺も・・・・・・」
いつの間にかお互いに手を繋ぎ、そう呟いた。
最終回、ありがとうございました!
楽しかった・・・
また、いつか他の作品で出会いましょう!
では、また!




