温もり
「もう、会えない」
急に別れを告げられた。
「なん、で?」
「・・・・・・俺、吸血鬼なんだよ」
「は?」
彼があまりに深刻な顔をして会えないなんて言うから何かと思えば、こいつ、くだらない冗談を言ってきやがった。
私が静かにキレていると、彼は私の怒りに気がついたように、「ごめん、冗談」と悲しそうに笑う。
なんで? 何でそんな顔をするの?
悲しそうに笑う彼の顔を見ていると、胸が締め付けられる。
「もう暗いし帰ろうか」
「・・・うん」
私に優しく笑いかける彼の顔。
月明かりでよく見えない。
だけど、私の手をそっと、ぎゅっと握りしめる手は暖かくて安心する。
そのまま、手を握って私の家まで送ってくれた彼。
「じゃあ、また明日、学校でね!」
玄関の扉を開けて彼に手を振る。
彼は・・・・・・
「・・・・・・うん。また、ね」
さっきと同じ悲しそうな顔をする。
そして、そのまま自分の家へと帰っていく。
待って!
そう言おうとしても、声が出ない。
彼を捕まえようとした右手は何も掴まない。
暗闇に消えていく彼が悲しくて、本当に消えちゃいそうで、何故か私はその場で涙を流していた。
プルルルル
スマホがなる。
電話だ。
「・・・・・・はい」
電話の向こうにいる人に、私が泣いたことを悟られないように無理をして明るい声を出す。
『俺、お前にもう会えない。ごめん』
「・・・・・・うん」
『俺、留学するんだ』
「・・・・・・そっか」
『あのさ、』
「何?」
『俺、、何でもない』
「・・・・・・そっか」
電話の向こうにいる彼の言いたいことは分かってるんだ。
『じゃあ、もう切るな』
だから、さっさと話を終わらせたそうにしている彼の声を耳に残す。
「あのさ、吸血鬼、なんだよね」
私が言うと、電話の向こうで息を呑む音が聞こえる。
それが何だかおかしくて、つい笑ってしまった。
『大丈夫、か?』
心配そうな声で彼が呟く。
大丈夫なわけないよ。
ずるいよ、その聞き方は・・・
「・・・・・・大丈夫」
私がちょっと強がって大丈夫だと呟くと、今度は彼から笑い声がした。
『じゃあ、また、いつかな』
「うん」
短い一言で通話が終わる。
どちらからともなく電話が切れる。
もう、彼に会うことはない。
きっと、明日には彼の存在は私からも世界からも消えているだろう。
それは、彼が選んだ道であり、吸血鬼の使命。
でも、きっと月を見る度に思い出す。
だって、私の左手には彼の温もりがあるのだから。
でも、私知ってたよ?
彼が吸血鬼だってこと。
だって、私も吸血鬼なんだから
だからね、「またいつか」の「いつか」はすぐにやってくるよ
私、彼を忘れない。
彼を離さない。
ねぇ、どこにいるの?
彼が地球から消えてしまうなら私は、月の裏に彼を隠してしまいたい。
私と、彼のふたりだけの世界を見てみたい。
ねぇ、だからね、
もう一度だけ、私の前で笑ってよ・・・・・・
今回は、BehindMoonという歌をイメージに使わせてもらいました。
ある音ゲーの中のユニットが歌っているのですが、これまたいい曲で!
ぜひ、聞きながら読んで頂けると嬉しいです




