9−7
このまま眠りたい。目が覚めたら全部どうにかなってないかな。
投げやりなことを考えていると、
「……もしかして、全部終わりましたか?」
穏やかな声がかけられる。
視線を向けると、入り口に和服姿の男性が立っていた。
「おー、おっちゃん。呼び出して悪い」
マオを抱えているのと反対の手をあげると、男性はつかつかと寄って来た。
「いえ、遅れてすみません。非番で自宅にいたもので」
「ああ、家、遠いんだっけ」
中年のその男性は温和そうな顔を、痛ましそうにひそめた。
「だいぶ、お怪我をされているようで」
「まあ、ぼちぼち?」
「すみません」
「気にしなくていいって」
ゆっくりと上体を起こす。
「悪い。色々あるんだけど、とりあえず今は家に戻りたい」
「はい。お送りします。その格好じゃ、外歩けませんしね」
言われて改めて自分の全身を見下ろす。真っ赤だった。
「職質物件だなこりゃ」
苦笑いする。それから倒れている黒服三名と赤服一名を指差す。
「これらの後片付けも」
「はい、引き受けます」
「本当、申し訳ない」
「いえ、こちらの不手際ですので」
右手を出されたので素直に掴まる。そうして立ち上がると、車のキーを渡された。
「すぐそこに止めてあります。とりあえず乗っていてください。こっちをどうにかしたらすぐにお送りします」
「頼む」
素直にそれを受けると、マオを抱えて倉庫から外にでる。
今は一体何時ぐらいなんだろう。もうよくわからない。
出てすぐに止めてあった黒塗りの車に乗り込む。
倒れ込むようにして後部座席に座ると、目を閉じた。
あとのことは、あとで考えよう。
今はとりあえず、マオと一緒に帰れることを喜ぼう。
眠ったままのマオの顔を見て、少しだけ笑った。




