第50話 天空のマイホームへ
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォン……!
神話の迷宮の天井が、眩しい光の奔流と共に大きく左右に割れていった。
何百年もの間、厚い岩盤に閉ざされていた最深部の空間に、本物の、温かくて青い空から太陽の光が差し込んでくる。
「わぁ……! 主様、見てください! 雲が下に見えます!」
ルナがバルコニーの欄干から身を乗り出し、嬉しそうに耳をパタパタと揺らした。
巨大な空中都市『アヴァロン』。
システムが正常化されたことで、この古代の空中要塞はゆっくりと地中から離脱し、王都の遥か上空へと浮上を完了したのだ。
眼下を見下ろすと、地上の王都では、数え切れないほどの人々が広場や通りに集まり、青空に浮かび上がったアヴァロンを見上げて歓声を上げ、俺たちの名前を叫んでいるのが見えた。
彼らにとって、俺たちは世界を大氾濫から救った伝説の英雄だ。
だが、俺たちが地上に降りることは、もう二度とない。
ピピッ。
コンソールから、慌ただしい電子音が響いた。
『通信要請:王都ギルド本部、および帝国宮廷魔導院より。緊急の面会とアヴァロンの管理権限についての交渉を求めています』
「やっぱり、使者が送られてきたか」
俺はコンソールの画面を冷ややかに見つめた。
地上の権力者たちは、アヴァロンの持つ古代の超テクノロジーや、俺たちの持つ圧倒的なチートパワーを、自分たちの勢力に囲い込もうと必死なのだろう。
「旦那様、どうするんだ? あのうるさい奴らと交渉するか?」
クララが大盾に寄りかかりながら、小悪魔的な笑みを浮かべて尋ねる。
「いや、無視だ。管理者コマンド実行――『地上のすべての通信およびゲートアクセスを完全拒絶』。アヴァロンの全防衛結界を展開し、半径5キロメートル以内の不法侵入プロセスを自動排除する」
俺がキーを叩くと、アヴァロンの周囲に巨大な半透明の障壁が展開され、地上の使者たちの通信魔術は一瞬でかき消された。
「これでよし。俺たちはもう、誰かのために使い潰される道具じゃない。ここは、俺たちだけの絶対的なマイホームだ」
俺が言うと、三人は一斉に嬉しそうに顔をほころばせた。
「ええ、それがいいわ。地上のしがらみなんて、あの雲の下に置いていきましょう」
セレナが翠のローブを風になびかせながら、俺の左腕を優しく抱きしめた。
アヴァロンの中央にそびえ立つ、巨大な白い洋館。
ここには、クララが魔改造した世界最高の大浴場や、最高の生産設備を備えた地下工房、セレナが精霊たちと手入れした美しい空中庭園、そしてルナが美味しい朝食を作るための最新のキッチンが、すべて揃っている。
地上のどの王族の宮殿よりも贅沢で、そして何よりも、誰にも邪魔されない安全な俺たちだけのクランハウスだ。
「主様、これからはずっと、この綺麗な空の上で、主様のために美味しいご飯をいっぱい作りますね!」
ルナが俺の右側にぴったりと身体を寄せ、幸せそうに微笑んだ。
「アルスを誰にも渡さないわ。これからは毎日、誰にも邪魔されずにあなたに甘えさせてもらうんだから」
セレナが少しだけ頬を染めながら、俺の腕を抱きしめる力を強くする。
「ウチもだぞ、旦那様! この空中都市を、さらに世界一の要塞に魔改造して、旦那様と一生一緒に暮らすぞ!」
クララが俺の背中に飛び乗り、首元に腕を回して笑った。
かつて戦闘力ゼロの無能として追放され、裏路地で泥にまみれていた俺。
だが、そのすべての理不尽と孤独は、この青い空の彼方、白い雲海の奥へと完全に消え去っていった。
心地よい天空の風が、俺たちの髪を優しく揺らす。
俺は隣にいるルナとセレナの肩を引き寄せ、背中のクララをしっかりと支えた。
「ああ。これから始めよう、俺たちだけの最高のハーレムスローライフを」
俺の言葉に、三人は世界で一番幸せそうな笑顔で応えた。
青く澄み渡る天空の世界で、俺たちの温かい笑い声が、どこまでも優しく響き渡るのだった。




