第49話 世界バグフィックス、完了
『警告:初期化プロセス実行まで、残り3分20秒』
真っ赤な警告が、カウントダウンを刻み続けている。
俺は息を整え、目の前の赤黒いノイズが蠢く中央システムコアに向けて、オリハルコンの剣『システム・ブレイカー』を真っ直ぐに突き刺した。
グサリ、と物理的な手応えと共に、剣がコアの認証スロットへと深く突き刺さる。
その瞬間、俺の右手の指輪『マスター・アクセス』が、視界を焼き尽くすほどの光を放った。
「うわぁっ……!」
意識が、電子の海へと引きずり込まれる。
俺の目の前に広がったのは、何百万行もの赤く染まったプログラムコードと、奔流となって流れ落ちるエラーログの滝だった。
『警告:未確認の認証介入。初期化プロセスを強制実行します』
「させるか! 俺のデバッガー権限で、この暴走プログラムを強制終了する!」
俺は頭の中で、前世のシステムエンジニアとしての知識と、管理者権限のコマンドをフル回転させた。
「コマンド実行――『プロセス強制終了:世界リセット』! さらに、セキュリティ暴走プログラムの定義ファイルを完全消去!」
『警告:本システムルールの上書きには、最高管理者の署名が必要です』
「署名なら、これだ!」
俺は、自分とルナ、セレナ、クララとの魂を繋ぐ、あの完全同調の認証パス――十倍バフのフィードバックループによって完成した『絆の署名』を、システムデータベースへと直接マッピングした。
魂の純白の輝きが、赤いエラーコードの海を圧倒的な質量でログ浄化していく。
システムメッセージが、激しく明滅した。
『認証プロセス成功。最高管理者:Alusの署名を確認しました』
『初期化プロセスを完全停止します』
『世界のセキュリティポリシーを新規登録します。――管理者およびその家族の絶対安全を保証。天空都市アヴァロンをAlusの個人所有エリアとして再定義します』
『システム正常化が完了しました。安全モードへと移行します』
ファン――ファン――と鳴り響いていた赤い警告音が、ピタりと止まった。
滝のように流れていたエラーログも、すべて穏やかな青いシステムメッセージへと書き換わっていく。
部屋全体を包んでいた不気味なノイズの嵐が消え去り、元の静かで美しい青い光が満ち溢れた。
「……終わった、のかしら?」
セレナが恐る恐る尋ねる。
「ああ。世界初期化プロセスは完全に停止した。バグフィックス、完了だ」
俺はコアから『システム・ブレイカー』を引き抜き、深く息を吐きながら、その場にへたり込みそうになった。
「主様!」
ルナが慌てて俺の身体を両手でしっかりと支えてくれた。その瞳には、安堵の涙が溜まっている。
「本当に、本当によく頑張りました、主様……! 世界が救われました!」
「アルス、お疲れ様。やっぱり、あなたは私の最高の主人で、最高のパートナーね」
セレナが俺の額の汗を、自分の袖で優しく拭ってくれる。
「旦那様、アヴァロンがウチらのマイホームになったんだな! やったぞ!」
クララが俺の首にしがみつき、嬉し涙を流しながら笑った。
その瞬間、中央のコアから、再び穏やかなシステム音声が響いた。
『天空都市アヴァロンの所有権移転を確認。これより、本都市のデバッグモード空中浮上を開始します』
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォン……!
神話の迷宮全体が、今度は崩壊ではなく、大いなる意思によって上昇するような、心地よい振動に包まれた。
「よし、みんなで天空のマイホームへ行こう。俺たちのスローライフの始まりだ」
「はい、主様!」
俺たちは、青く優しく輝くコアを背に、ついに手に入れた天空のマイホームへと続く転送光の中へ、手を繋ぎ合って歩みを進めるのだった。




