知りたがりと秘密主義(2)
「会わないでと言われましても…。見た目は分かりませんか?」
慧は苦笑いする。
「灰白色の髪に真紅の瞳、外見上の年齢は慧さんと同じくらいですね。それより、会えば分かりますよ。」
光琉はフッと笑った。
「王者の威厳というやつですかね。身の毛がよだつというか、肝が冷えるというか、平常心ではいられませんよ。」
慧はその話を聞いて、引っ掛かることがあったが、敢えて黙っていた。
「光琉さんはお会いしたことがあるのですか?」
「…不幸なことにね。」
光琉は遠い目をしている。
「現実的な話をすれば、赤い目の者には近寄らないこと。高確率で吸血鬼です。」
「吸血鬼はみな赤い目なのですか?」
慧は尋ねる。光琉は首を横に振る。
「彼らの文化ですよ。昔は血の濃い者、つまり夜霧家とその傍系だけが、最初から赤い目をしていました。その後、弱い者が瞳を染めて赤く見せ、バックに強者がいることを示したのです。自然な色合いにはなりませんでしたが。今は自分が吸血鬼だと示して、襲撃されるのを避けるために、赤いカラーコンタクトを入れる者が大半ですね。」
慧は光琉の猩々緋の目に映る自分の姿を見ていた。自然な赤色だ。カラーコンタクトではないし、無論染めた色でもない。
「やはり吸血鬼には近付かない方が良いですか。」
「僕以外には、ですね。人狼は人間の中に難なく溶け込めます。人間より少し力が強く、食欲旺盛で、鼻が利く上、成長が遅いだけですから。」
光琉はウェアウルフの特徴を指折り数える。
「ところが、吸血鬼はそうも言っていられません。定期的に人の血を吸わないと死にます。体温は意識的に上げないと死体のようになります。呼吸も食事も不要です。まあ、腐らない死体と言っていい。いつバレてもおかしくないのです。人間に友好的なはずがない。」
慧は首を傾げる。そんな風には見えないからだ。
「血を吸われた人間はどうなります?」
「吸血鬼の唾液には微量ながら、麻薬に似た成分が含まれます。吸血された人間が通報することはまずありません。薬物常習者には効きにくいですが、そうでなければ敢えて殺害して警察に捜査させることもないでしょう。それに、吸血鬼も元は人間ですから。」
慧はゾッとした。光琉は慧に顔を近付ける。頬に触れた。
「一度、試してみますか?とても気持ちがいいらしいですよ。僕は吸われたことがないので、分かりませんが。」
光琉は口を開け、首筋まで近付けていった。慧は光琉を突き飛ばす。
「ごめんなさい。やっぱり怖くて…。でも、一度だけなら…。」
慧は震え声で言う。光琉は笑い声を響かせながら起き上がった。
「僕は人を襲わないと言ったでしょう。冗談がキツ過ぎましたかね。すみません。小麦様が僕に自分の身を大切にと仰った時のお気持ちは、このようなものだったのかもしれません。」
慧はホッとした。
「吸血鬼に一度でも噛まれれば、それでお仕舞いです。絶対に噛まれないようにお気を付け下さい。人外に肩入れなさらないで欲しいものですね。」
慧はドキッとした。もう遅い。既に噛まれている。




