みんなでコスプレすれば恥ずかしくない~後編~
以上のような事態を受け、撮影開始がやや遅れることになった。不満顔の紗枝ちゃんも、衣装を選んで部屋へと戻っていった。
すでに着替え終わっている僕とカノンは、一足先に海岸へ向かう。時刻を確認すると十一時四十分。ちょうどいい感じだ。
僕達より少し送れてやってきたのが、悟さんとレリーラだった。さっきのコスプレやるやらないの話の時にいなかった二人なのに、ちゃんとコスプレしていた。
「俊助君。僕にとって今日ほど晴れやかな日はないよ」
顔をつやつやさせる悟さん。ひらひらのついたシャツに蝶ネクタイ。黒いズボンは綺麗にアイロンがけされていた。そして、目を引くのは頭に被ったシルクハットだ。
「悟さん、それって『シスターヴァンパイア』のロッドですよね」
『シスターヴァンパイア』は、主人公ロッドの妹十人全員がヴァンパイアという狂気じみた設定のアニメだ。妹属性に興味のない僕は、第一話を見ただけでやめてしまったが、キャラクターについてはおおよそ理解していた。
「ということは、レリーラのそれは、一番下の妹フローラのコスプレだな」
ロッドの一番下の妹フローラは幼稚園児という設定。だから、常に幼稚園の制服を着ている。レリーラが着ている衣装は、作中の制服を見事に再現していた。
「ち、違うんや!オレだって、こんな格好したくないんや。でも、これを着ないと今日の晩飯は蛸とイカや言うし……」
弁解するレリーラ。哀れではあるが、よく似合っているので何も言わないでおこう。
そうこうしているうちに残りの女性陣が登場。僕は、その姿を見て思わず息を呑んでしまった。ぜ、全員が『キュアキュアバスター』のコスプレをしているじゃないですか!
「へへん。どうだ!」
まずは夏姉。主人公のハートバスターのコスプレ。色はピンク。ピンクの色自体、夏姉には合っていないし、サイズ的にも合っていないようだ。特に胸の辺り。それにこういう少女向けの主人公ってもっと純粋で可愛らしい感じなんだけどな……。でも、口にするのはやめておこう。命が惜しい。
「え~、コメントないの?」
膨れる夏姉を置いといて次へ。美緒はビーナスバスター。象徴の色は赤。作中では陸上部に所属しているので、美緒にぴったりといえばぴったりだ。男勝りのかっこよさと熱血漢というところも美緒らしい。
「ちょ!そんなに見るな!こんなフリルのついた服、着たことないから恥ずかしい……」
顔を真っ赤にして恥ずかしがる美緒。その台詞、ビーナスバスターが初めて変身した時に言っていた台詞とほぼ同じだぞ。
「……私は黄色ですよね。分かっていましたけどね……」
美緒の隣にはレモンバスターに扮する紗枝ちゃん。レモンバスターは、『キュアキュアバスター』の中でも一番幼い感じがするキャラクターなので、そういう意味では紗枝ちゃんぴったりだ。本人は不本意らしいが。
「あ、あの……どうでしょうか?」
キ、キタァァァァァ!来てしまった!千草さんのコスプレ!
千草さんは緑のリーフバスター。作中のリーフバスターは、かっこいい感じの女の子で、ちょっと大人びた魅力がある。まさに千草さんのためにあるようなキャラクターだ。ま、千草さんなら何でもいいけどね。しっかり脳内ハードディスクに保存しておかないと。
「いえ、千草さん。よくお似合いです」
「そうですか……。ありがとうございます」
照れながらも嬉しそうな千草さん。生きてて良かった……。
「兄さん、私には何かコメントないんですか?」
最後はダークバスターの秋穂。ダークバスターは元々敵方で、物語の中盤で仲間になる六番目の戦士だ。どういうキャラクターかというと……うん、やめておこう。でも、秋穂、ぴったりだぞ。
「何ですか?兄さん、私が腹黒いとでも言うんですか?ヤンデレとかいう病的な人間だと言いたいんですか?」
「な、何も言っていないだろう!ヤンデレって、どこでそんな言葉を覚えた?」
「兄さん、残念です」
ぱちんという乾いた大きな音を立てて、強烈な秋穂の平手打ちが僕の頬に炸裂した。
「さて、まずはどこから撮影しようかねぇ」
一通りお互いのコスプレについて品評を終えると、夏姉が眩しそうに目を細めながら周囲を見渡した。
「『キュアキュアバスター』と巫女服じゃ、バランス悪いね。とりあえず一人のカットから始める?」
「そうですね。幸い、私達以外に人がいないみたいですし、こう思い切ったことをやりましょう」
そう言ってチラッと僕を見る紗枝ちゃん。僕は慌てて腕時計を見る。あと三十秒ほどで正午だ。これで海が裂けなければ、僕の人生は終わる。
「そういえば、もうすぐ正午だな」
悟さんも腕時計を確認した。
「何かあるんですか?」
と訊ねる美緒に、悟さんが例の話をする。千草さんと秋穂も耳を傾けていた。
「海が裂ける?願いが叶う?そんな馬鹿な」
そう美緒が鼻で笑った時であった。突如として地面が揺れ始めた。じ、地震か?結構大きいぞ。
「み、見て!」
カノンの声に顔を上げると、目の前の海が二つに裂けていった。映画で見るモーゼの十戒のワンシーンのように。そして、海の底が露になり、沖に浮かぶ島へと続く一本の道が出現した。
『本当に実現した!』
僕は心の中で喜ぶと同時に、改めて『妄想の言霊』の恐ろしさを知った。しかし、そのことついて考えている暇はない。皆をあの島へと誘わなければならない。
「ほ、ほら……海が裂け……」
僕が言い終わらないうちに駆け出す人影があった。夏姉だ。散々、昨日は人を馬鹿にしていたくせに……。
「な、夏姉!」
リーダー格である夏姉が乗ればこっちのものだ。僕も駆け出した。
「本当に海が裂けた……。こりゃ願い事が叶うってのも本当かも……」
声が上ずっている夏姉。よしよし、まんまと引っかかった。しかも、振り返ってみると、全員がこっちに向かっている。
作戦成功だ!ありがとうサリィ!
僕は心の中で快哉を叫んだ。




