017:運命の日
夜が明け戦の日がやって来た。
吉丸は4時に目を覚まし、そこから軽い食事を摂って借りている足軽の鎧を身につける。鎧を着た事は無かったので、実際に身に纏うと重さをグッと感じた。
しかしこの重さが気合を入れさせる。
槍を持って4時半に「よし!」と覚悟を持って、家の扉を開けて外に出るのである。
するとそこに結菜が仁王立ちしていた。よく分からないがドヤ顔もしている。
「ど どうして結菜様が……朝の4時半ですよね?」
「どうしてって吉丸が初陣に行くって言うから! こうやってわざわざ早起きして見送りに来たんだよ!」
「そ それはわざわざありがとうございます。優勝様と共に頑張って来るので、ここでお待ちくだされ」
「頑張って来るんだぞ! あっ! そうだそうだ、お守りを作ったから渡しに来たんだった!」
これから戦場に行くと覚悟していたので、とてつもなく緊張感を纏っていた。
緊張しているというのは、別に悪いわけでは無い。どうしてなのかと言えば、緊張しているという事は集中しているという風に取る事ができる。
しかし過度に緊張していれば、体が硬直したり腰を抜かしたりしてしまって逆効果だ。
吉丸は後者だった。
それも今の瞬間までだ。結菜がポケットからガサゴソッと、手作りのお守りを取り出して渡してくれた。その瞬間に吉丸は、気負いしていた事に気がつく。
「結菜様、本当にありがとうございます。なんか気負ってたみたいです」
「気負う? よく分からないけど、ちゃんと勝って私のところに顔を見せに帰りなさい!」
「はい! 承知しました!」
気負いしている事を気づかせてくれた結菜に、吉丸は頭を下げて感謝を伝えるのである。
何を感謝されているのかを理解できていない結菜は、とりあえず分からないが笑顔で応援する。その応援に吉丸は大きな声で返事をして約束した。
そのまま結菜に見送られ吉丸は城へと向かう。
さっきまでの足取りとは、軽さが違うと吉丸は感じた。ニカッと笑ってから段々とスピードを上げて走り出す。
吉丸が城に到着する頃には、兵士たちがゾロゾロと集まり始めていたのである。
900人の兵士が集まるのだが、そこに秀安軍が合流する事になっている。さらには秀斗の家臣である柴山 健五郎 家貴が今回の戦に参加させて欲しいとやって来た。
対立してるはずの秀斗が、自分の家臣を送って来るなんて怪しい以外の何事でも無い。それに家貴は、秀斗の家臣だけではなく仙道愛知家の中でも最も武勇に優れている。
「兄上、この仙道愛知家の窮地を共に乗り越えましょう。というのが秀斗様の伝言にございまする!」
「ほぉ? さすがは賢明な秀人だ。まさかお主を送り込んで来るとは思わなかったぞ」
「は! 是非この柴山 健五郎 家貴に、先駆けを任せては貰えぬでしょうか! 仙道愛知家の為に戦いたく思いまする!」
「良くぞ、言うたぞ! お主に先駆けを任せようぞ!」
どうやら表向きは兄の秀蘭と共に、仙道愛知家を守る為に戦おうという姿勢を見せた。
しかし実際のところは、後にこの戦いに参加しなかった事を理由に家督争いで不利になるのを恐れたからだ。あとは秀蘭の動きを監視する為の目的もある。
これが明らかに秀斗の思惑があると分かっていながら秀蘭は、家貴を参加させるのを認めた、
そして時間がやって来た。
吉丸たちは秀蘭たちに向かって整列する。
全員が整列したところで、重臣である野林 剛が秀蘭の方を向いて「準備が整いました」と伝えた。
それを聞いて秀蘭は「よし!」と太ももを叩いてから立ち上がる。甲冑を着ているので、ガシャンガシャンッという甲冑がぶつかる音を立てながら皆んなの前に立つ。
「お前たち、覚悟はできているな!」
『うぉおおおお!!!!!』
「覚悟はできているみたいだな。これより戦うのは、我らよりも格上となる大治仙道家だ」
秀蘭が演説を始めたのであるが、覚悟を確認した上で戦う相手が自分たちよりも格上だと言い放つ。
その瞬間、兵士たちは「う!?」と声が途切れた。
これから戦うというのに、どうしてそんな怯えさせるような事を言うのかと吉丸は思った。
しかし少し緊張感が走った。兵士たちの表情を、秀蘭はグルッと見渡してから「ふっ」と鼻で笑う。
「ビビったか? それも仕方ないだろう、周りから見たら我らは格下だ……しかし! それゆえの有利さがある、考えてみろ。向こうは絶対に勝てると油断している、こっちは死ぬ気で戦いに行く! さぁどちらが勝つと思う?」
『我らです!!!』
「その通りだ! 我々は死線を超えて、さらなる高みへ向かおうぞ!」
『うぉおおおお!!!!!』
兵士たちをビビらせた上で、秀蘭は自分たちが格下であるがゆえに向こうは油断しており、こちらは死ぬ気で行くから大いに勝機があると宣言した。
この発言に兵士たちは士気が戻った。いや、逆に落ちてあげた事で士気が爆発する。
絶好調になった状態で秀蘭軍は上前津城を出発。
秀蘭軍900人と秀斗からの援軍80の合計980人が庄内川にある枇杷島橋緑地へと向かって進軍。
枇杷島橋緑地で仙道 秀安と合流する為だ。
吉丸は行軍が初めてなので、この人数でも多さを感じている。しかしこの人数は合戦にしては少なく、まだまだ上がいると吉丸はワクワクを抑えられない。
900人の秀蘭軍は5時に上前津城を出発し、枇杷島橋緑地に到着したのは7時を超えていた。つまり4400mの距離を2時間強で到着する事ができた。
そしてそこに秀安が、既に到着していたのだ。
「叔父上殿っ! わざわざ出陣していただきありがたき事にございまする!」
「いやいや! これが秀蘭さまの当主としての初陣だと言うのに、自領に引きこもっているわけにはいかぬ事にございまする!」
「叔父上が参加してくれると言うならば、この戦は勝利したのも同然の事にございまする! 本日はよろしくお願い申し上げまする!」
秀安は自分の配下200人を連れてやって来た。
これに秀蘭は満面の笑みで喜んで見せた。ここまで喜んでくれたのならば秀安は来た甲斐があった。
さらには仙道愛知家の当主だと断言する。
秀安を加えて秀蘭は、改めて最終確認を踏まえた最終軍議を、この場で執り行うのである。
「これより大治仙道家に攻撃を仕掛ける! この約1200人を3つに分ける。1つは俺が直接指揮を取る大治城に向かう680の軍、そこに家貴の軍勢も入って貰う」
「承知いたしました!」
「そして残り400を200人ずつ蟹江城と七宝城を落として来い! 蟹江城は叔父上に、七宝城を剛に任せる」
『はっ!』
人数を割り振って、各自のやる事を確認させたところで出陣する事になる。
先に出発したのは、大治城の後方にある蟹江城と七宝城を攻める軍を指揮する秀安と剛だ。秀蘭は2つの軍が庄内川を渡河するのを見てから自分の本軍を集める。
吉丸は秀蘭の本隊へと編入された。
つまり大治仙道家と直接戦う軍に入った。それは激しい戦いが約束されたのも同然の事である。
とにかく吉丸は、やってやると頬を叩いて気合を入れて庄内川を渡った。
いよいよ大治の戦いが幕を開けようとしている。




