表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
血塗られた大楽刀自  作者: 西季幽司
第三章「美しき容疑者」
51/68

久闊③

 大楽塾へと向かう車中で、生長が圭亮に捜査状況を説明した。

 大楽玲の殺人事件に関しては、現時点では、夫の孝毅が最も怪しいと言えた。大楽玲は四重の密室の中にいた。それを全て突破できるのは、大楽孝毅しかいない。アリバイもあやふやであり、夫婦仲は不仲で動機もあった。だが、全ては状況証拠に過ぎず、物証が無かった。現場に残されていた靴のサイズは二十六・五センチ。大楽孝毅の靴のサイズは二十六センチ、二十六・五センチの靴でも問題なかっただろう。

「大楽怜の死因はシアン化カリウムでした」と生長が言った時には、圭亮も西脇も「やっぱり~!」と声を上げてしまった。

 兼重の見立ては正しかったようだ。一連の事件の背後には、シアン化カリウムがある。

 だが、事件が美祢で起こった事件との関連となると、大楽孝毅にはアリバイが成立してしまう。事件当日は広島に出張に行っていたのだ。更に豊島区で起こった事件にまで広げてしまうと、大楽孝毅が犯人である可能性は更に小さくなってしまうのだ。

「逆に三件の殺人事件に関連があると仮定して、そこから容疑者を絞り込んでみてはいかがでしょうか?」

 圭亮の提案に、「はい。それも考慮の上、捜査を行っています」と生長が答える。

 三件の殺人事件に関連があると仮定すると、三年前に東京にいて、その後、山口に引っ越して来た人物が疑わしいことになる。塾の関係者では事務員の河村信次郎と講師の野口綾子の二人が該当する。今日はこの二人のアリバイを再度、確認する為に塾に向かうと言うことだった。

「ああ~流石は生長さん。しっかり把握していらっしゃる。今日の事情聴取で何か出れば良いですね」

「鬼牟田さんの鋭い推理に期待していますよ」

「いや~ははは」と圭亮が上機嫌に笑う。「そう言えば、生長さんにひとつ情報を持ってきました」と圭亮は、出がけに須磨から聞いた話を伝えた。

 埼玉県で発見された白骨遺体の事件について、使用されたシアン化カリウムが豊島区の廃屋で発見された西口周作に使用されたものと一致したということだった。

 これで兼重の予感が的中したことになり、更に一件、連続殺人事件の被害者が増えたことになる。

「埼玉県の事件とも関連があるのかもしれないとは聞いていましたが・・・」

 これには生長も当惑した様子だった。

 二人の会話に、藤代と西脇が、聞き耳を立てていた。


 大楽塾に到着した。

 門前には、大勢のマスコミが押し寄せていた。美祢で起こった殺人事件との関連性が疑われ、「すわっ!連続殺人事件発生か⁉」と報道合戦がヒートアップしていた。

 生長の顔パスで大楽塾の正門を通る。同業者の中に見慣れた顔が多かった。助手席に座った藤代は馴染みの顔を睥睨しながら、優越感を味わっているようだった。

 大楽塾の敷地を横切り、大楽家の母屋へと向かう。

 大楽家は塾の敷地内の更に塀で覆われた場所にある。大楽家の正門前で一旦、車を停め、インターホンで案内を請った。直方が待ちかねていたようで、直ぐに門を開けてくれた。大楽家の玄関前まで車で乗りいれた。

 車から降りると、まるで城のような雄大な洋館が建っていた。大楽家だ。圭亮が「やあ、素晴らしいお屋敷ですね」と素っ頓狂な大声を上げながら車を降りる。後に続く西脇が、「先生、先生みたいな巨大な人が降りて直ぐに立ち止まると、後から車を降りるのに邪魔じゃないですか!」となじった。

「ああ、すいません」

「鬼牟田先生!」

 大楽家から直方が飛び出てきた。

 生長とは初対面だったようで、圭亮が直方を紹介する。「ああ、あなたが大楽直方さん。後ほど、お時間を頂けますか? 事件について、お聞きしたいことがあります」

「はい。結構です。ですが、僕は事件当時、光にいて、大楽家にはいませんでした」

 独立心が旺盛な直方は塾経営に興味を示さず、大楽家を出て、会社を立ち上げた。

「こちらです」と直方が圭亮一行を別館へと案内する。母屋と併設する形で事件のあった別館が建てられている。

「事件当時、別館には誰がいたのでしょうか?」圭亮が生長に尋ねる。

「当時、別館には被害者の大楽玲さんと娘の香美ちゃんが、二人で生活していました。夫の孝毅さんは市内にマンションを借りて住んでおり、別居状態でした。被害者は家を留守にすることが多かったようで、香美ちゃんは鍵っ子で、玄関の鍵を持っています。あの日も、香美ちゃんは、『ちゃんと鍵をかけて学校に行った』と言っていますが、子供のことです。鍵を掛け忘れたのかもしれません。孝毅さんは、別館を訪れた時に玄関に鍵が掛かっていたと証言しています」

「なるほど・・・すると事件当時、被害者は一人で別館にいたのですね?」

「はい。そうです。部屋で寝ていたところを襲われたようです」

「ふうむ・・・」と圭亮が頷くと、「うちは塾の敷地内の鉄柵で囲われた中にあります。門には防犯カメラがあって、セキュリティがしっかりしていますので、日頃から戸締りには、あまり気を遣っていないのです」と直方が教えてくれた。

「香美ちゃんが玄関の鍵を掛け忘れ、犯人が屋敷に忍び込んだ可能性が高い――ということですね。しかし、大楽孝毅さんが別館を訪れた時には、玄関に鍵が掛かっていたのでしょう? 犯人はどうやって玄関に鍵を掛けたのでしょうか?」

 圭亮の問いかけに、生長が答える。「孝毅さんが勘違いしているのか、或いは嘘を言っているのかもしれません」

 大楽孝毅が玲を殺害し、部屋に鍵を掛けて密室にし、更に玄関に鍵を掛けたのかもしれない――ということを言いたいのだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ