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別邸に到着だYo!

――ガタゴト、ゴトン。


馬車が最後の角を曲がったとき、目の前に広がったのは……立派すぎる屋敷だった。


「……あれが、別邸か」


屋敷の敷地は高い鉄柵で囲まれ、塀の中には整備された庭と衛兵の姿。

門の両脇には槍を構えた警備兵が 4人、きっちり立ってる。


(すっげぇな……絵に描いたような“金持ちの家”じゃん)


俺たちの馬車が門前で止まると、警備兵のひとりが詰め寄ってきた。


「止まれ、ここはエルトネス伯爵家の別邸だ。用件を――」


言い終えるより早く、セラさんが馬車から降り、無言で懐から何かを取り出す。

金属製の何かを見せている。


「…………っ!」


門番の顔が凍りつく。目を見開き、数拍遅れて慌てて頭を下げた。


「し、失礼いたしました……ッ! 門を開けろ、急げ!」


そして、もう一人の兵士に小声で囁いたかと思うと、その兵は駆け足で門の奥へと走っていった。


隣の兵にも合図を飛ばし、鉄の門がギィィ……と鈍く開きはじめる。


門番がセラさんに一礼し、馬車はそのまま通される。


(やっぱり、セラさん“只者”ない感がすごいな.....)


馬車は石畳を進み、やがて広々とした中庭に停まった。

外に出ると、潮風のような爽やかな風が抜ける。


「ふぅ……着いたな」


と、ふと横を見れば――干し草に包まれて眠っているフィリアの姿。

小さな体を丸めて、安らかな寝顔を浮かべている。


(……ほんと、かわいそうだよな)


王女で、聖女で、何か大きな力を背負わされて――

命を狙われて、逃げて、怯えて、気を張って、疲れ切って眠って。


「こんなちっちゃい子がさ……」


俺はそっと、フィリアの額にかかった髪を指でよけてやった。


そんなことを考えていると、セラさんが馬車の外から顔を覗かせた。


「ルクスくん、おつかれさまでした。

準備が整いましたので、フィリア様を中へ運びましょう」


「了解っす」


俺は眠るフィリアをそっと抱き上げようとすると――


「……おはようございます」


小さな声で、フィリアが目を覚ました。


(起こしてしまったか....)


まぶしそうに目を細めながら、俺の腕の中で小さく身体を動かす。


「おはよう、フィリア。着いたよ」


声をかけると、フィリアはきょとんとした顔になって、それから――

その顔が、ぱっとほころぶ。


「ほんとうに……着いたんですね」


馬車の外へ降りた瞬間だった。


「フィリア様――!」


屋敷の扉から飛び出してきた一人の女性が、まっすぐに駆け寄ってくる。

茶色っぽい髪で少しだけふくよかな女性、やさしげな雰囲気を持っていた。


「フィリア様に、会いとうございました……っ!」


そのままフィリアを、きゅっと抱きしめる。


「セリア……っ!」


驚いたように、でもすぐに涙を浮かべて笑顔になるフィリア。


「……会いたかった、セリア……」


ふたりは抱き合ったまま、しばらく離れようとしなかった。

……見てるこっちがちょっと泣けてくる。


「セラ……道中、大変だったでしょう?」


セリアさんが静かに声をかける。


「ええ、なんとか辿り着けました。ここまで来れば、もう安心です」


セリアさんはその言葉にうなずき、やわらかく微笑んだ。


「……それなら良かった。さあ、どうぞ中へ」


その途中で、セリアさんがちらっと俺を見る。


「ところで、そちらの少年は?」


すると、セラさんが一歩前に出て、誇らしげに答えた。


「彼は、護衛として志願してくださった――ルクスくんです。

村で一番の狩人であり、この道中……狼や、追っ手までも打ち払ってくれたのです」


フィリアも続けて話す。


「……ここまで辿り着けたのも、ルクスくんのおかげなのですよ」


フィリアがちらっと俺を見て、にこっと笑ってくれた。


その言葉に、なんか背中がむず痒くなる。


「いやいや、そんな大したこと……」


そう言いながらも、俺はちょっとだけ、胸を張った。


セリアさんが、ふと立ち止まると――

その手が、俺の手をそっと包んだ。


「……本当に、ありがとうございました」


柔らかくて、あったかい手だった。

けど、その声には芯があって――まっすぐ胸に響いた。


「あなたも、まだ子どもなのに……

よく、ここまでフィリア様をお守りくださいました」


「……心から、お礼を申し上げます」


俺はちょっとだけ照れくさくなって、頭を掻いた。


「いや、あの、俺は……うん、好きでやっただけなんで」


(…だだ大切な人たちを守りたかったからやっただけだし、自己満足の範疇だぜ!)

(なんて、内心カッコつけてみる)


するとセリアさんがふっと笑って、俺の手を離した。


「さあ、中へ。旅でお疲れでしょう?

温かいお茶と、ふかふかのベッドをご用意しておりますわ」


「おおっ、ふかふかベッド!」


その一言で、忘れていた数日分の野営の疲れが一気に浮かび上がってきた。


俺はテンション高く、でもちょっとフィリアを気にしながら、屋敷の中へと向かう。


重厚な扉が開かれ――


屋敷の大扉が**ギィィ……**と音を立てて開いた瞬間、俺は本能的に背筋を伸ばした。


中には整列した使用人たちが静かに頭を下げて出迎えてくれる。


「ようこそ、エルトネス子爵家のオルナ別邸へ」


使用人たちの挨拶に、俺は思わず身が縮こまった。


そんな俺の手を――すっと引いたのは、フィリアだった。


「こっちですよ、ルクスくん」


いつものふわっとした笑顔で、堂々と屋敷へ入っていくフィリア。

さすがはお姫様、こういう雰囲気には慣れっこってわけか。


俺はというと、完全に借りてきた猫状態。


(うぉお、足が勝手に固くなる……)


その様子に、一部の使用人たちがざわついた。

「え、あの方の手を……」と明らかに動揺している。


するとセリアさんがすかさず微笑みを浮かべて、さらりと一言。


「ご安心くださいな。

――それほどの信頼を、フィリア様が積み重ねてきたお方なのです。

ですので、どうかフィリア様。

なれない空気に戸惑っておられるルクスくんを、ぜひエスコートして差し上げて」


「はいっ」


――このお方は、フィリア様の命を守りぬかれた“恩人”にございます。

よって本日より、この屋敷では正式な“賓客”としてお迎えいたします。


周囲の空気が――ピシッと変わった。


使用人たちがざわめきを止め、整然と頭を下げる。


フィリアは元気よくうなずくと、俺の手をしっかりと握り、ぐいっと引っ張ってくれた。


「……や、優しい……」


俺が感動してる横で、セラさんとセリアさんが目を合わせて笑っている。


(……でも、ようやく一息つける)


手を引いてくれるフィリアのぬくもりと、安心感から

俺は心から、安堵の息を吐いた。



「ルクスくん、お身体も汚れているでしょう? お風呂をどうぞ」


とセリアさんのご好意で風呂へ通されることになった。


(風呂……! 異世界で初の風呂ッ!!)


前世では当たり前だった“風呂”に、こんなにも感動する日が来るとは――。


案内されたのは、屋敷の奥まった場所にある来賓用の湯殿だった。

石造りの浴槽、横に並ぶ椅子と木桶。壁には蒸気がこもり、ほんのりと檜の香りが漂っている。


(……これは最高だな、旅館やん、貸切で俺が入っていいの?)


足元のタイルもつやつやだし、桶も新品みたいにピカピカだ。

どこを見ても高級感にあふれてて、俺は思わず口をぽかんと開けた。


「では、脱がせますね」


「えっ?」


振り返ると、そこには――

小柄でふわっとした印象のメイドさんが立っていた。

栗色の髪にくりっとした目。顔立ちは可愛い系なのに、制服の胸元はどう見ても規格外。

(……おっきい……!)

つい目が追ってしまう。だがそれより


「ちょ、ちょっと待って!? 一人で入れるから! 服くらい自分で――!」


……あっという間にズボンまで脱がされ、気づけばタオル一枚の姿に。


「では、お背中から……失礼しますね」


そのメイドさんが俺の腕を取ると、もう一人のメイドが背後からぬるま湯をかけてきた。


「ひゃあっ!? ちょ、ちょ、ちょっと待って!? マジでどこ洗って――」


「ぎゃああああああ!!」


思わず情けない叫びが風呂場に響く。


「い、いや! そこくすぐったい! 無理無理! 俺くすぐり系弱いの! 本気で無理!!」


暴れかけたところを、前のメイドさんがぴしっと言い放った。


「ルクス様。男の子なんですから――覚悟を決めてください」


「……っ!」


(……な、なんで怒られてんの俺……? くっそ、くすぐったいのに……!)


(……ちょ、ちょっと、これ、どこまで洗う気だ?)


とにかく、徹底的だった。

耳の裏、指の股、足の爪先。

そして――いや、そこはちょっと……!


「……う、うわ、そ、そこまで洗わなくても!!」


「いえ、旦那様方は皆さま、こちらまで清潔にいたしますので」


にこっと笑われて、俺はすべてを悟った。抵抗は無意味。


(くっ……羞恥! くすぐったい! もうお婿にいけないYo!)


まるで“貴族体験学習”だ。

背中を流されながら、湯気と石鹸に包まれて、

俺は異世界の洗礼を全身で受けていた。



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