表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/59

お別れと、誓いの火

風が、気持ちよかった。

空は澄みきってて、雲ひとつない快晴。おまけに、今日はやけに涼しい。

(……風が気持ちいね〜)


俺は村の外れ、小高い丘の上で、大の字になって寝転んでた。

草の匂いと、土のぬくもり。ふわりと光る日差し。

何もかもが穏やかで、体中の力がじんわり抜けていく。


「ルクス〜、ほら、起きなさいよ〜」


そんな極楽タイムに、聞き慣れた声が降ってきた。

(……やめてくれ、今すっごく良いところなんだ)


ほっぺに、ぷにっとした感触。

「ふふふ、気持ちよさそうに寝てるわねぇ」

「……やめてくれー、レティ」

「いいから、起きるの!」


今度はほっぺをツンツン、ぐいぐい押される。

思わず顔をしかめたら、レティが笑ってた。ちょっとだけ優しい顔で。


「今日は……お葬式よ。さっさと準備するわよ、バカ」

「……ああ、そうだったな」



あれから4日たった――


ドレイザ・ハウンドの死体は、広場の端っこに横たわったままだった。

でも村の大人たちは、すぐに動き出してた。


「骨は道具に、皮は防具に、肉は保存食に……使えるもんは全部使うぞ」


そう言いながら、血だらけのまま黙々と解体していく姿は、なんていうか……強かった。


魔石も取り出されて、それは近くの街に売りに出すって話だ。復興のための金に充てるんだと。

たくさん死んだ。

でも、それ以上に――たくさん生き残った。


あの戦いで、いろんなもんが変わった気がする。

村の空気も、人の顔も。


そして――レティシアも。


「ねえ、ルクス」


着替えを取りに戻る途中、レティがぽつりと呟いた。

「……私ね、あの時、すごく怖かったの」

「うん。知ってるよ。動けなかったもんな」

「ちょっと! そういうこと言わなくていいの!」


俺がニヤッと笑うと、レティがぷいっと顔を背けた。

けど――すぐに、ふっと小さく笑って。


「でも、あんたがいたから、立ち上がれたのよ。……ありがとね」

「へえ、レティが素直にお礼なんて。雨でも降るか?」

「バッカ。あんた、調子に乗るとすぐこれなんだから」


でもその言い方も、いつもみたいに棘はなかった。

(……ほんと、丸くなったな)

あの戦いで、ようやく“友達”になれた気がする。

それが、ちょっとだけ……嬉しかった。


レティは、ほんの少し間を置いてから、ぽつりと呟いた。

「……最後のトドメ、見た?」

「ああ。すげー音だったよ。頭、ぐしゃって」


俺が苦笑いで応えると、レティは胸を張って言った。

「当然でしょ? あれくらい決めなきゃ、“主人”の名がすたるわ」

そして、ちょっと得意げな顔で、言ったんだ。

「それに言ったでしょ、家臣にだけ手柄を取らせる気なんて、さらさらないってね」


「はいはい、レティはすごいすごい」

「へへ……でしょ?」


くすぐったそうに笑う彼女の横顔は、どこか照れてるようにも見えた。


でもそのあと、ふと表情が和らいで――目線を遠くにやった。

「……でもね、ルクスがいなかったら、多分……みんなダメだったと思う」

「そんなことねぇよ。俺ひとりじゃ――」

「ううん。みんな、そう思ってるよ」


レティの声は、優しくて、真っ直ぐで。

「だって……あんた、希望の光みたいだったもん」


風が吹いた。草がざわめいた。

言葉が、胸にすーっと染み込んでくるのを感じた。



教会の前では、葬式の準備が着々と進んでいた。


この世界では、土葬は厳禁だ。

昔から、土に埋めた死体がアンデッドになることがあって――それを避けるためにも、火葬が徹底されているらしい。


村の焼却場には、大きな薪が組まれ、そこに運ばれてきた遺体が一体ずつ、丁寧に並べられていく。

(……最後のお別れ、か)


俺は少し離れたところから、その光景を、ぼーっと見つめていた。

誰かが泣いてる声。誰かが、遺体に布をかけてる手。誰かが、祈るように手を合わせていた。

(……俺はちゃんとできたのかな……?)


そんなことを考えていたときだった。


ポン、と肩を叩かれる。


振り向くと、そこに――


「……っ! し、師匠!?」


大きな荷物を背負ったまま、日焼けした顔で笑う男――

ガロンおじさんが、そこにいた。


「よっ、ルクス。だいぶ頑張ったみたいだな。さすが、俺の弟子だ」


そして、ふと目を伏せて、申し訳なさそうに言った。

「……悪かったな。間に合わなくって」


「しっしょーぉ……!」


その瞬間、張り詰めてた糸がぷつんと切れた。気が緩んだ。


泣いちゃダメだって、ずっと我慢してたのに。

こらえてたはずなのに、言葉がぐちゃぐちゃになって出てきた。


「お、俺……全然、ダメで……っ」

「村の人、いっぱい……死んで……っ」

「俺、力不足で……何も、できなかった……ッ!」


涙が、ポロポロ落ちた。嗚咽が止まらなかった。


そんな俺の頭を、ガロンおじさんはぐしゃっと撫でてくれた。

「……そんなことはねぇよ」


ガロンおじさんは、俺の肩をぎゅっと叩いてから、しっかりと言った。

「お前がいたから、村は助かったんだ」

「あのクラスの魔獣――上級の魔物だ。普通なら助からねぇ。あれは、並の冒険者なら全滅しててもおかしくねぇ相手だったんだ」


「だけど、お前が機転を利かせて毒矢を使い、麻痺させた。動きを止めなきゃ、誰も近づけなかった」

「もし目を正確に射抜けなかったら……毒を漏らしてたら……そもそも、刺さらなかったら」


そこで、ガロンおじさんは目を細めて、ぽつりと呟いた。

「……ルクス、お前は奇跡を起こしたんだよ」


その言葉が、胸に染みた。


でも、それだけじゃなかった。


周りからも、声が聞こえた。


「そうだよ、ルクス。お前があの化け物に毒を効かせてくれたから、俺たちゃ助かったんだ」

「あの化け物が動けなくなったから、みんなが一気に動けたのよ。あんたがいなかったら、私たち、死んでたわよ」

「ルクスくん、ありがとうねぇ……ほんとに、ようやってくれたよ」


おじさんたちも、おばさんたちも、血のにじんだ手で、俺の肩を叩いてくる。


そんな中で、ガロンおじさんが皆に向かって頭を下げた。

「……みんな、すまなかった。俺が間に合ってりゃ、もっと……」


すると、集まっていた中の一人の壮年の男が言った。


「しょうがねえよ、運が悪かったんだでよ」

「魔獣なんて、そう滅多に出るもんじゃねえしな。でもルクスのおかげでなんとか生き延びれた。……あんたの残した弟子のおかげさね」


その言葉に、ガロンおじさんはふっと息をついた。

「……ありがとな」


「で、ガロン。あんたの行ってた西の方はどうだったんだ?」


空気が少し変わる。ガロンは腕を組み、少しだけ目を細めた。


「……あっちはな、魔獣の生息域が、どうも広がってる」

「俺のいた街も被害が出てた。小型のやつだけじゃねぇ、大型も混じってる」

「それと――帝国との国境も、きな臭ぇ。騎士団の移動が活発になっててな。……いつ徴発が来るかも、わからねぇ」


その言葉に、周囲の空気が一気に重くなった。誰もが、黙り込む。


ガロンおじさんは、少し空を見上げてから、言葉を続けた。

「だから……食料は、どこかにまとめて隠して、備えといたほうがいいかもしれん」


「そうだな……女子供が飢えんようにせんと、いけんね」


「ガロン、あんたのおかげで――この村じゃここ数年、誰も身売りせずに済んだんだ。だからな、今回のことで自分を責めるんじゃねぇぞ」


そう言ったのは、古くから村を支えてきた老人だった。

顔に深い皺を刻み、でも瞳は真っ直ぐだった。


「もし、あんたを責めるような恩知らずがいたらな……わしがその場で説教してやるでの」


ガロンおじさんは一瞬、目を見開いたあと、ふっと笑った。

「……ああ、ありがとな。爺さん」



教会では、静かに鐘が鳴っていた。


司教様が前に立ち、厳かな声で祈りを捧げている。

「どうか、彼らの魂が安らかなる旅路を行かんことを……」


俺たちは、火葬場の前に並んでいた。

白布で覆われた亡骸が、ひとつずつ薪の上に乗せられ、炎の中へと還っていく。


火がパチパチと音を立て、橙色の光が揺れていた。


隣にいたレティが、そっと手を握ってくる。

強くもなく、弱くもなく――温かくて、ただ、支えてくれるような手だった。


(……ありがとな)


さっき、師匠が来てくれて。村の人たちが、俺に声をかけてくれて。


あの言葉たちが、重たかった心を、少しずつ軽くしてくれた。

罪悪感も後悔も、消えたわけじゃない。

でも、前を向く勇気はもらえた。


(俺の目の届く範囲くらい――ちゃんと、守れる男になりたい)

だって、もう後悔はしたくない。


だから俺は、今、誓う。燃え上がる火の前で――


(俺は、強くなる)


誰かのために。自分のために。

この手で、守りたいものを守れるように。

【ステータス】

名前:ルクス

年齢:8歳

種族:人間(村人)

職業:狩人

出身:ユレリ村

現在の欲望:

・レティシアを泣かす(保留)New!

・さらなる力を手にいれる(魔法)New!

スキル:

・弓術 Lv2

・解体術

・矢製作

・身体強化

・精密射撃 Lv2

・隠密

・薬草学

・薬草調合

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ