お別れと、誓いの火
風が、気持ちよかった。
空は澄みきってて、雲ひとつない快晴。おまけに、今日はやけに涼しい。
(……風が気持ちいね〜)
俺は村の外れ、小高い丘の上で、大の字になって寝転んでた。
草の匂いと、土のぬくもり。ふわりと光る日差し。
何もかもが穏やかで、体中の力がじんわり抜けていく。
「ルクス〜、ほら、起きなさいよ〜」
そんな極楽タイムに、聞き慣れた声が降ってきた。
(……やめてくれ、今すっごく良いところなんだ)
ほっぺに、ぷにっとした感触。
「ふふふ、気持ちよさそうに寝てるわねぇ」
「……やめてくれー、レティ」
「いいから、起きるの!」
今度はほっぺをツンツン、ぐいぐい押される。
思わず顔をしかめたら、レティが笑ってた。ちょっとだけ優しい顔で。
「今日は……お葬式よ。さっさと準備するわよ、バカ」
「……ああ、そうだったな」
◇
あれから4日たった――
ドレイザ・ハウンドの死体は、広場の端っこに横たわったままだった。
でも村の大人たちは、すぐに動き出してた。
「骨は道具に、皮は防具に、肉は保存食に……使えるもんは全部使うぞ」
そう言いながら、血だらけのまま黙々と解体していく姿は、なんていうか……強かった。
魔石も取り出されて、それは近くの街に売りに出すって話だ。復興のための金に充てるんだと。
たくさん死んだ。
でも、それ以上に――たくさん生き残った。
あの戦いで、いろんなもんが変わった気がする。
村の空気も、人の顔も。
そして――レティシアも。
「ねえ、ルクス」
着替えを取りに戻る途中、レティがぽつりと呟いた。
「……私ね、あの時、すごく怖かったの」
「うん。知ってるよ。動けなかったもんな」
「ちょっと! そういうこと言わなくていいの!」
俺がニヤッと笑うと、レティがぷいっと顔を背けた。
けど――すぐに、ふっと小さく笑って。
「でも、あんたがいたから、立ち上がれたのよ。……ありがとね」
「へえ、レティが素直にお礼なんて。雨でも降るか?」
「バッカ。あんた、調子に乗るとすぐこれなんだから」
でもその言い方も、いつもみたいに棘はなかった。
(……ほんと、丸くなったな)
あの戦いで、ようやく“友達”になれた気がする。
それが、ちょっとだけ……嬉しかった。
レティは、ほんの少し間を置いてから、ぽつりと呟いた。
「……最後のトドメ、見た?」
「ああ。すげー音だったよ。頭、ぐしゃって」
俺が苦笑いで応えると、レティは胸を張って言った。
「当然でしょ? あれくらい決めなきゃ、“主人”の名がすたるわ」
そして、ちょっと得意げな顔で、言ったんだ。
「それに言ったでしょ、家臣にだけ手柄を取らせる気なんて、さらさらないってね」
「はいはい、レティはすごいすごい」
「へへ……でしょ?」
くすぐったそうに笑う彼女の横顔は、どこか照れてるようにも見えた。
でもそのあと、ふと表情が和らいで――目線を遠くにやった。
「……でもね、ルクスがいなかったら、多分……みんなダメだったと思う」
「そんなことねぇよ。俺ひとりじゃ――」
「ううん。みんな、そう思ってるよ」
レティの声は、優しくて、真っ直ぐで。
「だって……あんた、希望の光みたいだったもん」
風が吹いた。草がざわめいた。
言葉が、胸にすーっと染み込んでくるのを感じた。
◇
教会の前では、葬式の準備が着々と進んでいた。
この世界では、土葬は厳禁だ。
昔から、土に埋めた死体がアンデッドになることがあって――それを避けるためにも、火葬が徹底されているらしい。
村の焼却場には、大きな薪が組まれ、そこに運ばれてきた遺体が一体ずつ、丁寧に並べられていく。
(……最後のお別れ、か)
俺は少し離れたところから、その光景を、ぼーっと見つめていた。
誰かが泣いてる声。誰かが、遺体に布をかけてる手。誰かが、祈るように手を合わせていた。
(……俺はちゃんとできたのかな……?)
そんなことを考えていたときだった。
ポン、と肩を叩かれる。
振り向くと、そこに――
「……っ! し、師匠!?」
大きな荷物を背負ったまま、日焼けした顔で笑う男――
ガロンおじさんが、そこにいた。
「よっ、ルクス。だいぶ頑張ったみたいだな。さすが、俺の弟子だ」
そして、ふと目を伏せて、申し訳なさそうに言った。
「……悪かったな。間に合わなくって」
「しっしょーぉ……!」
その瞬間、張り詰めてた糸がぷつんと切れた。気が緩んだ。
泣いちゃダメだって、ずっと我慢してたのに。
こらえてたはずなのに、言葉がぐちゃぐちゃになって出てきた。
「お、俺……全然、ダメで……っ」
「村の人、いっぱい……死んで……っ」
「俺、力不足で……何も、できなかった……ッ!」
涙が、ポロポロ落ちた。嗚咽が止まらなかった。
そんな俺の頭を、ガロンおじさんはぐしゃっと撫でてくれた。
「……そんなことはねぇよ」
ガロンおじさんは、俺の肩をぎゅっと叩いてから、しっかりと言った。
「お前がいたから、村は助かったんだ」
「あのクラスの魔獣――上級の魔物だ。普通なら助からねぇ。あれは、並の冒険者なら全滅しててもおかしくねぇ相手だったんだ」
「だけど、お前が機転を利かせて毒矢を使い、麻痺させた。動きを止めなきゃ、誰も近づけなかった」
「もし目を正確に射抜けなかったら……毒を漏らしてたら……そもそも、刺さらなかったら」
そこで、ガロンおじさんは目を細めて、ぽつりと呟いた。
「……ルクス、お前は奇跡を起こしたんだよ」
その言葉が、胸に染みた。
でも、それだけじゃなかった。
周りからも、声が聞こえた。
「そうだよ、ルクス。お前があの化け物に毒を効かせてくれたから、俺たちゃ助かったんだ」
「あの化け物が動けなくなったから、みんなが一気に動けたのよ。あんたがいなかったら、私たち、死んでたわよ」
「ルクスくん、ありがとうねぇ……ほんとに、ようやってくれたよ」
おじさんたちも、おばさんたちも、血のにじんだ手で、俺の肩を叩いてくる。
そんな中で、ガロンおじさんが皆に向かって頭を下げた。
「……みんな、すまなかった。俺が間に合ってりゃ、もっと……」
すると、集まっていた中の一人の壮年の男が言った。
「しょうがねえよ、運が悪かったんだでよ」
「魔獣なんて、そう滅多に出るもんじゃねえしな。でもルクスのおかげでなんとか生き延びれた。……あんたの残した弟子のおかげさね」
その言葉に、ガロンおじさんはふっと息をついた。
「……ありがとな」
「で、ガロン。あんたの行ってた西の方はどうだったんだ?」
空気が少し変わる。ガロンは腕を組み、少しだけ目を細めた。
「……あっちはな、魔獣の生息域が、どうも広がってる」
「俺のいた街も被害が出てた。小型のやつだけじゃねぇ、大型も混じってる」
「それと――帝国との国境も、きな臭ぇ。騎士団の移動が活発になっててな。……いつ徴発が来るかも、わからねぇ」
その言葉に、周囲の空気が一気に重くなった。誰もが、黙り込む。
ガロンおじさんは、少し空を見上げてから、言葉を続けた。
「だから……食料は、どこかにまとめて隠して、備えといたほうがいいかもしれん」
「そうだな……女子供が飢えんようにせんと、いけんね」
「ガロン、あんたのおかげで――この村じゃここ数年、誰も身売りせずに済んだんだ。だからな、今回のことで自分を責めるんじゃねぇぞ」
そう言ったのは、古くから村を支えてきた老人だった。
顔に深い皺を刻み、でも瞳は真っ直ぐだった。
「もし、あんたを責めるような恩知らずがいたらな……わしがその場で説教してやるでの」
ガロンおじさんは一瞬、目を見開いたあと、ふっと笑った。
「……ああ、ありがとな。爺さん」
◇
教会では、静かに鐘が鳴っていた。
司教様が前に立ち、厳かな声で祈りを捧げている。
「どうか、彼らの魂が安らかなる旅路を行かんことを……」
俺たちは、火葬場の前に並んでいた。
白布で覆われた亡骸が、ひとつずつ薪の上に乗せられ、炎の中へと還っていく。
火がパチパチと音を立て、橙色の光が揺れていた。
隣にいたレティが、そっと手を握ってくる。
強くもなく、弱くもなく――温かくて、ただ、支えてくれるような手だった。
(……ありがとな)
さっき、師匠が来てくれて。村の人たちが、俺に声をかけてくれて。
あの言葉たちが、重たかった心を、少しずつ軽くしてくれた。
罪悪感も後悔も、消えたわけじゃない。
でも、前を向く勇気はもらえた。
(俺の目の届く範囲くらい――ちゃんと、守れる男になりたい)
だって、もう後悔はしたくない。
だから俺は、今、誓う。燃え上がる火の前で――
(俺は、強くなる)
誰かのために。自分のために。
この手で、守りたいものを守れるように。
【ステータス】
名前:ルクス
年齢:8歳
種族:人間(村人)
職業:狩人
出身:ユレリ村
現在の欲望:
・レティシアを泣かす(保留)New!
・さらなる力を手にいれる(魔法)New!
スキル:
・弓術 Lv2
・解体術
・矢製作
・身体強化
・精密射撃 Lv2
・隠密
・薬草学
・薬草調合




