薬学を学ぶ
あれから、俺はレティシアと一緒に、ほぼ毎日のように山へ入って薬草を採っている。
正直、最初はギスギスしてたけど――今ではちょっとだけ、距離が近づいた……気がする。
「今日もよろしく、家臣くん♪」
朝の山道、ひんやりとした空気の中で、レティシアの声が弾んでいる。
「なぁその“家臣”ってのやめろよ、俺にはルクスって名前があるんだって」
俺がぼやくと、レティは足を止めてこちらを見返した。
金の髪がふわりと揺れて、朝日を反射する。
「……え?」
「俺、ルクスって名前があるんだよ。せっかく一緒にやってんだし、そろそろちゃんと名前で呼べよ」
しばらく沈黙――レティは軽く目をそらして、口を小さく尖らせた。
「……わかった。じゃあこれからは、ルクスって呼ぶ」
言いながら、視線はこっちに向けず、耳までほんのり赤く染まっていた。
「だから……その、私のこともレティって呼びなさいよね。いい?」
「……お、おう」
なんだか落ち着かなくて、俺も頭をかいた。
「……じゃ、レティ。今日も頼むな」
「う、うん」
その瞬間、ふたりの間の空気が少しだけ柔らかくなった気がした。
そんなやり取りをしつつ、俺たちは山の奥へと足を踏み入れていく。
◇
――カサッ、カサカサ。
「ルクス、ほら見て! これ、すごく大きな根っこ!」
レティは土をはね飛ばして、まるで宝物を見せるみたいにドヤ顔。
「おおっ!? うわ、なんだこれマジで太っ!」
レティが得意げに土を掘り起こす。
現れたのは拳より太い根っこ。表面に白い筋が走っていて、独特の香りがする。
「これ、ガイネ草。胃の薬になるやつ。おばあちゃんが言ってたでしょ?」
「うわぁ……めっちゃ金の匂いがする」
レティは呆れた顔で言った。
「ほんと、お金が好きね……ルクスって」
「いいだろ別に。欲しいもん手に入れたくて努力してんだよ、俺は」
そんなやりとりを挟みながら、俺たちは山のあちこちを歩き回った。
棘のある草に指を刺されたり、滑って尻もちをついたり――
レティが水たまりに足を突っ込んで叫ぶのを見て、腹を抱えて笑ったり。
なんだかんだで、籠は薬草でパンパンになっていった。
(はぁ、楽しかったなー……)
ふと横を見ると、レティが日差しの中で髪をかき上げていた。
その顔は、戦いのときとは違って、少しだけ無防備で――
ルクスは少しドキッとした。
(黙ってればかわいいのにな……)
◇
「これはね、すり潰して湿布にするの。傷や打ち身によく効くよ」
「まずはこの薬草をすり鉢で潰すのよ。湿布にするにはね――」
おばあちゃんの家で、俺たちは調薬のお手伝い。
俺は汗をかきながらすり鉢をゴリゴリ回す。固い根っこがなかなか砕けない。
「ぐっ……これ、めちゃ硬ぇ……!」
「男の子なんだから、根性見せな!」と笑うおばあちゃん。
レティはその隣で火の調整をしながら、「砕くようにやるのよ」と小言を飛ばす。
「わかってるから黙ってくれ、真剣なんだ……」
「なによ、あんたのために言ってるんでしょ?」
でも、どこか楽しそうな表情。
湿布薬、止血の薬、打ち身に効く膏薬。
少しずつ、だけど確実に、俺の手の中に“知識”が積み重なっていく。
薬にするためには、乾燥させるもの。煮るもの。天日干しにするもの。
一つ一つに工程がある。おばあちゃんの説明は簡潔だけど、実に奥深い。
「ルクスくんは、まずこれ。打ち身とか、剣での軽い外傷に効く薬。
次に、食あたりとかにも使える“ニエラの葉”も覚えるといいね。冒険者に重宝されるよ」
俺は真剣に頷いて、メモを取った。
「……冒険者、か」
「ルクス、どうしたの?」
「いや……なんでもない」
(遠くの街で、でっかい獲物と戦ってる姿……想像したら、ちょっとだけワクワクした)
◇
そして、ある日の午後。
《スキル獲得:薬草学、薬草調合》
いつものように草をすり潰していたその時、ふわりと浮かぶ文字。
(これって……スキル!?)
目の前の“表示”を見て、俺は思わず立ち上がった。
「……やった……!」
地味だけど、確かな力。
一ヶ月間、逃げずにやってきた成果が、ようやく形になった。
「なによ、ひとりでにやけて……」
レティが横目で見ながらも、ニヤニヤしてる俺を見て、少しだけ口元を緩めた。
「あんた、やればできるのね」
「へへっ。ありがとな、レティ」
山の風が、いつもより少しだけ優しく吹いていた気がした。
【ステータス】
名前:ルクス
年齢:8歳
種族:人間(村人)
職業:狩人
出身:ユレリ村
現在の欲望:
・レティシアと友達になる
・レティシアを泣かす
スキル:
・弓術 Lv2
・解体術
・矢製作
・身体強化
・精密射撃
・隠密
・薬草学
・薬草調合




