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第二十二話




「おお、今日も活きの良さそうな奴らが一杯だ」




 そう言って現れたのは、バサシに負けず劣らずのイケてるおっさんだった。特徴的な真っ赤な髪に筋骨隆々の肉体。第一線は退いていそうだがまだまだ現役でもいけそうな鍛え方をしている。ランク的には元Bってところか?




「俺が試験官だ。試験方法は至ってシンプル、俺に認められれば合格。ダメならまた次回、異論は認めない。どこのギルドで登録しようとも試験方法は一緒だからな。その代わり絶対に公平な審判を約束する。それが俺達試験官の仕事だからな。ではさっそく始める! 受付順で行くぞ! そこのお前からかかってこい!」



 本当にいきなり始まった。でもそういう世界なのか、一番に呼ばれた男は少しだけ緊張しつつも果敢に攻めていった。登録前だと言うのにやはりレベルが高い。数合打ち合ったあとその男は、試験官に吹っ飛ばされたが同時に合格と言われていた。そっか、倒す必要はないのか。認められれば良いって言ってたもんな。



「しっかりと鍛錬していたのが伝わった。あんたはDランクからスタートだ」




 これも受付嬢さんが言っていたな。一番下はFでそこからAまで上がりS以上へと昇る。この世界は実力主義で、ある程度の実力があれば一気に高ランクからスタートできる。まあそっちのほうが合理的だよな、戦闘能力が抜群に高いのに、下位ランクからスタートして薬草取り(そんなクエストがあるかは知らん)なんかしてたら勿体ない。ただでさえこの世界は常に魔物の危険と隣り合わせなのだから実力者は大歓迎だろう。




 次の受験生は、僧侶らしく一言話すと試験官はなんのためらいもなく自分の腕に剣を突き刺した。僧侶はその瞬間的確に治癒魔法を唱え一瞬にして傷を治した。しかし、治癒が終わったと同時に試験官が動きその動きに反応ができなかった僧侶は尻餅をつかされる。



「治癒魔法と判断力は問題ないが、もう少し接近戦も鍛えないとすぐに死ぬぞ? 俺はだいだいここにいる、死にたくなかったらいつでも修行にこい。あと、わかっていると思うがソロでクエストなんか行くなよ? Eランクスタートな」




 次は、あの獣人の女性だ。この人はかなりの強さを持っている。間違いなく試験官よりも強い。Sにはまだ遠く及ばないがAレベル。どんな戦いになるか見ものだな。



 先に動いたのは獣人の女性。素早い動きで相手を翻弄し的確にダメージを与えていた、試験官も瞬時に相手の力量を見抜き自分より強いと理解したのだろう。倒すことはすぐに諦めて動きの悪いところはないか? 苦手な攻撃はないか? といった感じでアドバイスできる点を探っているようだった。良い試験官のようで安心だ。だが試験も終盤、事件起こった。



 試験に熱が入り始め試験官が強めの風魔法を唱えた時、素早く女性は避けたのだがその風魔法が俺達に向かって飛んできたのだ。




「! よけてくれ!」



 試験官の悲痛な叫びがこだまする。まあ俺の現在の実力ではこんな魔法を直で食らったら大怪我間違いなしだから仕方ない。面倒と思いつつもサッと避けようとした時、バサシが更に強めの風魔法を放ち相殺したのだ。相殺しただけならよかったのだが、その余波を受けた女性のフードが吹き飛んでしまい。顔が露になってしまった。


  


 ……俺が今まで見てきた獣人は、皆体の一部だけにその特徴が表れていた。大抵が尻尾や体毛で顔自体はほとんど人間そのものだった。だから、余程特徴的でなければその一部を隠してしまえば人間と区別するのは難しいといった感じだったのだが。……この女性は違う。顔が動物そのものだった。




「「!?」」




「おいおい! ここは人間様の領地だぞ! お前のような二足歩行の獣がこんな所に来るんじゃねーよ! 初めて本物の”(けもの)”をみたぞ! 気分が悪いからさっさと出て行けよ!」




 クソみたいな暴言を吐いているのはもちろん先程の若者。獣人のなかでも希少だが、動物の顔をしている種族もいるらしく、そう言った種族達は特に差別の対象になってしまい最早獣人とも呼ばれずただただ”(けもの)”と蔑まされて呼ばれていると言う。……また腹が立ってきた




「黙っていろ! まだ採点中だ!」



 試験官に一括され、グッと唸った後黙った若造。



「文句なく合格だ。ただ、事情はもちろん理解できるがフードを気にするあまり少し防御にムラがあるから気を付けなさい。格下ならいいが同格以上が相手になってくると間違いなく致命的なミスに繋がるぞ? ……はっきり言うが冒険者をするなら()()と覚悟を決めたほうがいい」



「……気遣い感謝する」




「いや、こちらこそ不快な思いをさせてしまってすまない。俺には差別をなくさせる事などできないが少しは鍛錬の相手にはなれるだろう。いつでもいいから来てくれ」



「……感謝する」



「あと、ランクなんだが俺を圧倒できる力があるしAスタートでもいいんだがそこまではまだ厳しそうだからBスタートになる」



「……わかった」




 試験官がまともで本当に良かった。差別なんてマジでくだらないのだがなかなか消えてはくれないからな。一個人が頑張るのにも限界があるだろう、もちろん一人の一歩はとても大事だが。……俺の力があればかなり色々できるだろうが、それは追々考えていこう。

 





「くそ! 獣の後じゃ空気が悪い! 一度換気してくれ。変な病気になったらたまったもんじゃないからな!」




 ……俺は聖人君子じゃないが、助けられる人は助けたいし困っている人が居たら手を差し伸べてあげたい。だから胸糞悪いのは大嫌いだ、獣人の女性は気にしない振りをしつつも手が震えていた。それが怒りなのか怯えなのかわからないが、胸糞悪いのには変わらない。

 


 この問題とはしっかりと向き合わなくてはいけないな、と思いつつ若造に目を向ける。するといつの間にか試験が始まっており若造は試験官にボコボコにされていた。




「どうした! どうした! お前が換気してくれって頼んだから風魔法を使ってるだけなのになんでお前が吹っ飛んでんだ? 自分こそが病原菌だから自分が吹っ飛んでますって事か? そういうギャグなのか?」




「ぎゃー、ぐふっ、ぐえ、おえ、おえ」






 試験官さんも差別するやつめっちゃ嫌いなんだな……





 



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